after you

bunboni こと 荻原和也 の 音楽案内所 musicaholic ブログ(隔日刊 2009年6月2日より)にようこそ。

Searching for good music of the world

Talulu  BRAGA MARIA  Talulu  DJARFOGO ALIN TA BAI
昨年メンデス・ブラザーズを再発見して、
フォゴ島のさまざまな伝統音楽を知ることができました。
今回入手したカーボ・ヴェルデ音楽CDの中に、
メンデス・ブラザーズのレーベル、MBから出た男性シンガーのアルバムがあって、
調べてみたらこの人もフォゴ島の人。

タルルことアウグスト・メンデス・ピレスは、
53年フォゴ島サン・フィリーペ生まれで、本作が初アルバムとのこと。ソングリストには、
タライア・バシュ、ブラガ、ブリアル、カニザーデといったリズム形式が書かれていて、
フォゴ島の伝統音楽をベースとしているのがわかります。
カニザーデは仮面ダンスの音楽カニンザディと同じものでしょう。

それで思い出しましたよ、この人の07年作を持っていたことを。
棚からCDを取り出してソングリストを見ると、やはりブラガ・マリア、タライア・バシュ、
ミジュ・ナ・ピロン、ブリアル、カニザーデといったクレジットが見つかります。
カーボ・ヴェルデものでこんなに知らないリズムばかりのアルバムは初めてだったので、
記憶に残っていました。そうか、フォゴ島由来だったんですね。

02年作の初アルバムは、涼しげなアコーディオンに導かれて始まる
タライア・バシュの1曲目から、カヴァキーニョが刻むリズムに
テナー・サックスやソプラノ・サックスが絡んで、
軽快なダンス・リズムで楽しませてくれます。

プロデュース、アレンジ、エンジニアリングはラミロ・メンデスで、
バークリー卒のポップス職人の手腕は、さすがのハイ・クオリティ。
女性コーラスなども配して、ヌケのいいキレのあるサウンドを聞かせてくれます。
多彩なリズムを前面に打ち出したプロダクションが、成功していますね。

これに比べると、マルク・ゴンサルヴィスという人がプロデュースした
07年の2作目はシンセ音がチープで、だいぶ聴き劣りします。
サンビスタに似た味わいのあるタルルのスモーキーなヴォーカルは、悪くないんだけどねえ。
ちなみにこの2作目は、タルルが04年にアメリカへ渡ってから制作したアルバムです。

Raíz Di Djarfogo
タルルは90年代にフォゴ島の伝統音楽グループ、
ライース・ジ・ジャルフォゴを結成したオリジネイターだとのこと。
99年にオコラから出たライース・ジ・ジャルフォゴのCDがあるので
さっそくチェックしたんですが、ここにタルルの名は見つかりませんでした。
タルルのソロ・アルバムはこの2作しか残していないようですが、
現在もアメリカで音楽活動は続けているようです。

Talulu  "BRAGA MARIA"  MB  B0019  (2002)
Talulu  "DJARFOGO ALIN TA BAI"  no label  no number  (2007)
Raíz Di Djarfogo  "CAP-VERT"  Ocora  C560150  (1999)

Fidjus De Funaná
伝統フナナーの逸品を見つけちゃいました。
なんとコデー・ジ・ドナとビトーリという、フナナーのレジェンドが揃い踏みで参加。
ジャケットの後列左から2番目にコデー・ジ・ドナが、
一番右にビトーリが写っています。

二人のほかにもエルタヴィノ・プレタ、ジュ、カトゥータ、ジトと
計6人のガイタ奏者が参加していて、曲ごとに交代して弾いています。
グループというより、セッション・ユニットなのかもしれませんね。
01年に第2集が出ているようで、そちらにもビトーリが参加しているので、
これは見つけなきゃ。

この第1集は全10曲。どの曲もガイタ(アコーディオン)とフェローを伴奏に、
コーラスとコール・アンド・レスポンスするフナナーの伝統スタイルで、
打ち込み、ベース、ギターが控えめにサポートする曲もあります。

野趣たっぷりの歌声はコデー・ジ・ドナばかりでなく、
ビトーリの伴奏で歌うフェフェというシンガーの
投げつけるようなパワフルな歌いっぷりもスゴイ。
泥臭さ満点の歌い手ばかり揃っていて、もうたまりません。
伝統フナナー・ファンには感涙のアルバムです。

Fidjus De Funaná  "PILAN CATUTA"  Cape Disco  CD1009  (1998)

Paulinno Vieira  M’CRIA SER POETA
パウリーノ・ヴィエイラといえば、
80年代にカーボ・ヴェルデ音楽のエレクトリック化を図った天才プロデューサー。
かつてオスティナートが出したシンセサイズされたカーボ・ヴェルデ音楽のコンピでも、
ジャケットのアートワークが示すとおり、パウリーノの仕事を大きく取り上げていました。
https://bunboni.livedoor.blog/2017-09-08

セザリア・エヴォーラの大ヒット作をはじめ、80~90年代に
ものすごい数の作品をプロデュース、アレンジしたパウリーノですけれど、
96年に音楽業界から身を引いて、すっかり過去の人となっていました。
いまでは弟のトイ・ヴィエイラの活躍の方が目立つようになり、
パウリーノの仕事が忘れられていただけに、
海外から再評価されるようになったのは、意義深いことでしたね。

一方、マルチ奏者としては寡作家だったため、
ぼくもこれまでソロ作を聴いたことがなかったんですが、
パウリーノの初ソロ作と思われる84年作のCDを手に入れて、ビックリ。
モルナやコラデイラなどカーボ・ヴェルデの伝統歌謡をエレクトリック化したアルバムで、
その伝統とモダンの融合ぶりの鮮やかさは、感動ものです。

これを聴いてすぐに思い浮かんだのが、
バイーアから登場して70年代MPBシーンを沸かせた
オス・ノーヴォス・バイアーノスやア・コルド・ソン。
ロック世代のセンスと伝統をしっかり踏まえた足元の確かさが共通していて、
なによりサウンドのフレッシュさに、目を見開いてしまったんでした。
Reencontro
これを聴いていて、ずいぶん昔に入手して愛聴した
パウリーノ参加のセッション・アルバムを思い出しましたよ。
82年にバナのレーベル、モンテ・カラから出たセッション・アルバムで、
ヴォーカルにバナとジョシーニャ、クラリネット/サックスにルイス・モライス、
ピアノにシコ・セラというカーボ・ヴェルデのオール・スター勢揃いで、
ギター/オルガン/ドラムスにパウリーノ・ヴィエイラが参加したアルバムです。

セッション・アルバムの体で出たレコードですけれど、
その実態はバナが経営するレストラン、モンテ・カラのハウス・バンドとして
再結成されたヴォス・デ・カーボ・ヴェルデ。パウリーノ・ヴィエイラは
バナからヴォス・デ・カーボ・ヴェルデへの参加を求められ、
74年パウリーノはリスボンへ渡り、18歳でプロ・デビューしたのでした。

新しいサウンドを求めたバナの思惑通り、
パウリーノのエレクトリック・ギターはグループに新風をもたらし、
翌75年ミンデロへ帰ることになったルイス・モライスに代わって、
グループの音楽監督を任されることとなりました。
82年に出た本作には、カーボ・ヴェルデへ帰国したルイス・モライスも参加していて、
いわばヴォス・デ・カーボ・ヴェルデの同窓会アルバムだったのかもしれません。

ルイス・モライスのサックスが奏でるスローなモルナが、途中から倍テンポになって、
パウリーノ・ヴィエイラがサンターナ風ギターを弾きまくる ‘Slow Sanatana’なんて、
パウリーノでしかできない芸当。
ほかにも、サンバの大名曲 ‘Juízo Final’ のカヴァーも聴きもの
(D.R.のクレジットはヒドイねー。もちろんネルソン・カヴァキーニョ作)。

このアルバムを出した82年にパウリーノはヴォス・デ・カーボ・ヴェルデをやめていて、
その2年後の84年に同じバナのレーベル、モンテ・カラから出たのがこのソロ作です。
まずビックリは、ギター、ピアノ、ハーモニカ、シンセサイザー、ドラムス、ベース、
カバサ、トゥンバ、ヴォーカル、コーラスすべてパウリーノが一人で演奏していること。
ホーン・セクションとストリングス・セクション以外すべてパウリーノの多重録音で、
それでいてこのグルーヴ感はスゴイ。そして全曲パウリーノのオリジナルです。

‘Prêce Di Um Fidjo’ でギター・ソロにユニゾンでスキャットするかと思えば、
‘Dia Já Manxê’ のスラップ・ベースとシンセのリフで強力なグルーヴを生み出し、
‘Grande Fogue’ ではサイケデリックなギターが大爆発。
なんだか同時代のペペウ・ゴメスとオーヴァーラップしますよ。

かと思いきや、モルナの ‘M'Cria Ser Poeta’  ‘Odie Ê Pobreza’ では
甘い歌声を聴かせ、歌がめちゃくちゃ上手いのには驚きました。
こんなに歌える人がセザリア・エヴォーラをプロデュースしてたなんて、皮肉ですねえ。
多重録音なのに音楽がせせこましくなくて、演奏がとてものびのびとしている。
その軽やかなフットワークは、まさしく70年代のバイーア新世代に通じるものがあります。
いやあこれ本当に、名作『アカボウ・ショラーレ』に匹敵する作品なんじゃない?

Paulinno Vieira  "M’CRIA SER POETA"  Zé Orlando/Sons D’África  C112  (1984)
Reencontro  "REENCONTRO"  Zé Orlando/Sons D’África  CD129  (1982)

Tito Paris  FIDJO MAGUADO
ティト・パリスが87年に出したデビュー作を手に入れました。
シンガー・ソングライターとばかり思っていましたが、
なんとデビュー作では歌っておらず、ティトがギター、カヴァキーニョ、
ピアノ、シンセサイザー、パーカッションを多重録音したインスト・アルバムで、
ヴァイオリンのみアオ・マルティンという助っ人が参加しています。

そういえば、ティトが19歳でリスボンに渡ったのは、バナが経営していたレストラン、
モンテ・カラのハウス・バンド、ヴォス・デ・カーボ・ヴェルデに雇われたからで、
キャリアの始めは、ミュージシャンとしてスタートしたんですね。
その後作曲を始め、バナやセザリア・エヴォーラに曲を提供して
ティト・パリスのネーム・ヴァリューが上るようになり、
やがて自身でも歌い始めるようになったんでしたっけ。

このデビュー作はまだ作曲を始める以前のマルチ奏者時代の作品のようで、
ティト・パリスの自作曲はなく、カーボ・ヴェルデの歴史的詩人の
エウジェニオ・タヴァレスやB・レザの曲ほか、多くの伝承歌が取り上げられています
(ただしD.R.表記はアテにならないので、本当に伝承歌かどうかはわかりませんが)。
カーボ・ヴェルデ独立当初の国民議会議長を務めた
アビリオ・ドゥアルテが作曲したモルナもありますね。

ソングリストには13曲あるのにCDは5トラックと表示されるので、
あれれと思ったら、ソングリストの10~13曲目が1~4トラックで、
5トラック目が1~9曲目までをメドレーにしたものと判明。
CDのバックインレイもディスク面も間違って書かれています。
なお、サブスクではメドレーを Rapzódia De Mornas と書かれているのみで、
各曲の記載はありません。せっかくなので下に書いておきましょう。

Rapzódia De Mornas (19:33)
5.1 Noti Di Mindel (B. Leza)
5.2 Sês Odjos É Pret Doçe (D.R.)
5.3 Grito D' Povo (Abílio Duarte)
5.4 Ponta Do Sol (D.R.)
5.5 Papa Joaquim Paris (D.R.)
5.6 Serenata (Ney Fernanndes)
5.7 Fidjo Maguado (Jotamonte)
5.8 Hora Di Bai (Eugénio Tavares)
5.9 Dispidida  (D.R.)

前半コラデイラ、後半メドレーがモルナという趣向のアルバムで、
前半のコラデイラ・ナンバーはエレクトリック・ギターをメインに、
後半のモルナ・メドレーはピアノをメインに弾いています。
エレクトリック・ギターはエフェクターを通さないアンプの生音なので、
アクースティックに近いサウンドで、
全体に生音主体の爽やかな音作りとなっています。

カーボ・ヴェルデ音楽のインスト・アルバムで最初に感動したのが、
93年に出たマルチ弦楽器奏者のバウのデビュー作だったんですけれど、
あれより6年も前にこんなステキな作品が出ていたとは知りませんでした。

Tito Paris  "FIDJO MAGUADO"  Zé Orlando/Sons D’África  CD036  (1987)

René Lacaille  TI GALÉ
レユニオンのセガのヴェテラン・アコーディオニスト、ルネ・ラカイユが
70歳にして初のアコーディオン・ソロ・アルバムを出しました。
ルネの兄ルノー・ラカイユが作曲した ‘Séga Gingembre’を除き、
すべてルネの自作セガで、演奏はアコーディオン1台のみ、
歌なしのオール・インストゥルメンタルです。

ルネが子供時代に聴いていた音楽をオマージュした作品で、
レユニオンの音楽遺産であるセガを、
父親や兄たちと一緒に演奏していた時代を振り返ろうとしたとのこと。
ルネが子供時代に熱心に聴いていたのは、
レユニオンの名アコーディオニストである
ルル・ピトゥやクロード・ヴィン・サンだそうです。

アコーディオン1台だけで聞かせるセガ・アルバムというのはこれまでになく、
わずか25分ほどのアルバムながら、とても爽やかに聴くことができました。
これまでいろいろ聴いたルネ・ラカイユのアルバムでは、一番聴きやすいかも。

というのは、ルネ・ラカイユのアルバムって、かなりの数があるんですけれど、
正直気に入ったアルバムが、ひとつもないんですよね。
『ポップ・アフリカ800』にも、ルネ・ラカイユはセレクトしていないし。
身もふたもなく言ってしまうと、
ぶっきらぼうでシロウト丸出しなルネの歌が、台無しにしちゃっているんですよ。
なので、オール・インストの本作が聴きやすいのも当然なんですが。

またルネの音楽性についても、歌謡セガやダンス・ミュージックのセガといった
レユニオン音楽の伝統を踏襲したスタイルというのとは少し違い、
さまざまな文化圏の音楽家との共演を通じて、
いろいろな音楽要素を取り入れた作品が多いんですね。
ところがそうした音楽的成果が実らずに、雑然とした仕上りになってしまった
残念なものが多くて、そうしたところもぼくのなかでルネの評価が低かった理由。

ルネ・ラカイユは70年代前半にリュック・ドナットのグループ、アド=ホックで活動した後、
アラン・ペテルスとセガやマロヤをロックと融合させる実験的なグループ、
レ・カメレオンで演奏していたという人なので、
伝統的なセガを演奏するだけでは満足できず、
サイケデリックなロックやジャズなどにも果敢に挑戦してきたのでしょう。

ちなみに、レ・カメレオン時代の曲はエレクトリック・マロヤの編集盤
“OTE MALOYA” の1曲目で聴くことができ、
この曲ではルネはアコーディオンではなく、ギターを弾いています。

とまあ、ぼくのなかでは評価の低かったルネ・ラカイユですが、
手元にそれなりにCDが残っているのは、仕上りが不満でも、
意欲を買える作品が多かったから。
本作はそうした過去作とは打って変わった異色作ですね。

René Lacaille  "TI GALÉ"  Lamastrock/Dobwa  LAM114-389  (2024)

Mei Semones  Animaru
ブルックリンから J-POP みたいな音楽が出てくる時代が来るとは。
日本人の母を持つという女性シンガー・ソングライターのデビュー作。
「ジャズとボサ・ノーヴァにインスパイアされたインディーJ-POP」とは、
ご本人の言ですけれど、それがすべてを言い尽くしていますね。

メイ・シモネスが弾くギターに、ベース、ドラムス、ヴィオラ、ヴァイオリンという編成で、
ジョアン・ジルベルトに影響されたようなつぶやきヴォーカルのボサ調ばかりでなく、
ハードな質感のマス・ロックみたいな曲もやっています。
日本語英語まじりの歌詞がとても自然体で、
音楽同様どこにも力の入っていないところが、新人ばなれしてますね。

この気負いのなさが魅力で、それでいて音楽はめちゃくちゃ高度。
1曲目の ‘Dumb Feeling’ 、そして3曲目の ‘Tora Moyo’ でも、
いきなり凝ったバップ・フレーズのギター・イントロで始まるんだけど、
こんなリックをさらっと弾くなんて、ただもんじゃないと思ったら、
バークリー音楽大学でギターを学んだんですと。恐れ入りました。
ちなみに ‘Dumb Feeling’ のイントロは、
チャーリー・パーカーのリックと ‘Polka Dots and Moonbeams’ を
組み合わせたんだそう。

楽曲のハーモニー・センスがバツグンに良くって、
ヴィオラとヴァイオリンの弦をレイヤーしたアレンジにも、ウナらされました。
ヘッド・アレンジなのかもしれないけれど、アレンジャーの資質も相当に高そう。

すでに来日公演もしていて、今年のフジロックにフル・バンドでやってくるそうです。
もし単独公演もやるんだったら、観に行きたいな。

Mei Semones  "ANIMARU"  Bayoet  BR066  (2025)

YMO 1979 TRANS ATLANTIC TOUR LIVE
イエロー・マジック・オーケストラの世界進出の第一歩を記した、
79年8月4日ロス・アンジェルス、グリーク・シアターでのライヴ映像が、
生涯ベストのライヴ・ヴィデオであることは、大昔に書きました。
そのグリーク・シアターからスタートした
トランス・アトランティック・ツアーの全貌を収めた
ライヴ・ボックス・セットがついに発売。
予約した1月から、首を長くして待っていましたよ。

『PUBLIC PRESSURE』のもととなった5つの会場のライヴ音源は、
のちに『FAKER HOLIC』として2枚組CDに編集されましたが、
今回のボックス・セットでは、会場ごと5枚のCDにコンプリート収録されました。
大昔の記事で書いたように、渡辺香津美のギターが眼目であるぼくにとっては、
あらためて香津美の即興のスゴさに圧倒されました。

香津美が長いソロを弾くのは、「1000 Knives」「Tong Poo」の2曲なんですが、
どの会場のライヴでも即興がまったく違うんですよ。
使い回しのフレーズなんて、まったく出てこない。
毎回違うアイディアでソロを構成していて、真のインプロヴァイザー、ここにありです。

そしてその香津美に神が降臨したとしか思えない、神がかりソロが聴ける
グリーク・シアターでのライヴ映像は、2000年に東芝EMIから出た
『YMO 1979 TRANS ATLANTIC TOUR』と同内容のブルーレイ・ディスク化。
画質がグンとクリアになったのには、カンゲキしました。
ユキヒロと香津美がアイ・コンタクトして笑い合う「Cosmic Surfin'」でのシーンとか、
ノリノリの矢野顕子のイキイキとした笑顔がめちゃくちゃクリアになっていて、
あー、長生きはするもんだと(笑)。

映像はDVD化された時のものと同じで、ブルーレイ化しただけかと思いきや、
ちゃんと手も加えているじゃないですか。
82年にビクターからヴィデオ・ソフトで出た時から気になっていた
「Tong Poo」の冒頭のテーマ部分で、
坂本龍一が左手で弾くアープ・オデッセイのミス・トーンをリカヴァーしています。
短いフレーズだけど悪目立ちしてる箇所なので、
「あちゃ~、やっちまった」っていうシーンだったんですよねえ。
ここをちゃんと修正したとは、丁寧な仕事してるなあ。
細野晴臣が監修したそうなので、「ここ直してあげてよ」と口添えしたのかも。

DVD時とは比べ物にならないクリアな映像で堪能できる
グリーク・シアター・ライヴの完成形ですね。
このあと、ニュー・ヨークのハラーでのライヴ映像も収録されていますけれど、
ライヴ映像作品史上ワースト1位間違いなしの最低最悪の編集なので、
こればかりはブルーレイ化しても救いようがありません。

Yellow Magic Orchestra 「YMO 1979 TRANS ATLANTIC TOUR LIVE ANTHOLOGY」 ソニー MHCL3131-6

Dayang Nurfaizah  JANJI
マレイシアのR&Bシンガー、ダヤン・ヌールファイザが
マレイ伝統歌謡に挑戦したのは思いもよらず、驚かされました。
続編まで出したところにダヤンの本気度が表れていましたけれど、
その続編 “BELAGU II” が大力作で、ドギモを抜かれましたね。
マレイシアから伝統歌謡がすっかり聞こえなくなっていた時期だけに、
このアルバムにはカンゲキしました。
もちろんその年の個人ベスト10にも選びましたよ。

あれから2年、化粧箱ボックスに収められた豪華な新作が届きました。
封入された17枚のカードには、ダヤンがさまざまなポージングで収まっていて、
どれもジャケットにするのにふさわしいフォト揃いなのに、
化粧箱の表には、あえてブレた写真をチョイスするという、
ディレクションのセンスに脱帽。
そんな写真のムードが暗示するかのように、
本作はなんとバラード・アルバムです。

いかにもマレイシアン・ポップらしい、哀感のあるバラード・ナンバーが揃っていて、
ダヤンの確かな歌唱力が発揮されています。
ちょっとクセのあるダヤンの歌いぶりは、つぶやくような歌の表情がとても豊かで、
歌の説得力を増すのに役立っていますね。

1曲目の ‘Hakikat Cinta’ がまさにそれで、
切々としたダヤンの熱唱にグッときてしまったんですが、
なんとこの曲、99年のデビュー作のオープニング曲だったんですね。
セルフ・カヴァーで再演した今回も1曲目に置くあたり、
きっと思い入れのある曲なのでしょう。

こういう作風って聴き覚えがあるなあと思ったら、ファウジア・ラティフや
シティ・ヌールハリザに提供していた作曲家アドナン・アブ・ハッサンの曲なのですね。
アドナン・アブ・ハッサンはダヤンの99年のデビュー作のプロデューサーでもあっただけに、
16年に亡くなったアドナンへの追悼の意も込められていたんでしょうか。

デビュー作での同曲を YouTube で聴いてみたんですが、ういういしさ満点。
こういう曲を歌うには、まだつたなさを感じさせる歌いぶりで、
やはり円熟した現在ならではの再演でこそ、この曲の良さが引き出されたと感じます。
伝統歌謡ばかりでなくバラードもいける、いまやR&Bシンガーの域を超えた、
マレイシアを代表するポップ・シンガーとしての器の大きさを示した作品です。

Dayang Nurfaizah  "JANJI"  DN & AD Entertaintment  no number  (2024)

Zonke  L.O.V.E
南アから届いた旧作CD50枚の話題は、今回でおしまい。
最後はお気に入りのポップ・シンガー、ゾンケの18年作を取り上げましょう。

ゾンケにゾッコンになったきっかけは3作目の “INA ETHE” でしたが、
ゾンケにとってもあのアルバムがダブル・プラチナ・ディスクを獲得して、
大きな成功を呼んだ作品だったんですね。

ゾンケのデビューは南アではなくドイツで、99年にハノーファーで始まった
テレビのドキュメンタリー・プロジェクトにソロ・シンガーとしてフィーチャーされ、
06年にデビュー作 “SOULITARY” を制作しています。
南ア本国ではリリースされなかったものの、なんと日本盤が出ていて、
これはまったく知らなかったなあ。日本コロムビアからリリースされたんですって。
Zonke  LIFE, LOVE ’N MUSIC
07年に出たセカンド作の “LIFE, LOVE ’N MUSIC” が、南アでのデビュー作。
“INA ETHE” を先に聴いてしまった後では、もろにクラブ・ミュージック仕様の
サウンド・プロダクションは聴き劣りすると言わざるを得ません。
全編でハウスぽい四つ打ちのビートが支配していて、
この時代にさんざん流行ったサウンドですね。
デビュー作もこんなクラブ・ジャズぽい内容だったのかなあ。

というわけで、ゾンケのアダルトな魅力を引き出したのは、
クインシーがニックネームの鍵盤奏者アレックス・D・サミュエルのおかげのようです。
アレックス・D・サミュエルは、 “INA ETHE” 以降のアルバムすべてに参加して、
ゾンケ独特のジャジーなサウンドをクリエイトしています。
Zonke  WORK OF HEART
4作目の “WORK OF HEART” では、いつものアンニュイなムードばかりでなく、
悲しみを乗り越えるかのような希望を託した曲が目立ちます。
アルバムを制作する前に、ゾンケの姉ルル・ディカナを亡くした後であったことが
反映されたようですね。

そして18年の本作は、“INA ETHE” 以降もっとも完成度が高く、
シャーデーの傑作 “LOVE DELUXE” にも匹敵する作品に思えます。
そういえば、日本のレコード会社が
「南アのシャーデー」という形容をリラに与えていましたけれど、
その形容はリラよりゾンケにこそふさわしいですね。

都会の夜を演出する大人の愛の物語9篇。
南ア・ポップでとびっきりラグジュアリーな作品です。

Zonke  "L.O.V.E"  Sony  CDSAR015  (2018)
Zonke  "LIFE, LOVE ’N MUSIC"  Kalawa Jazmee/Universal  CDRBL394  (2007)
Zonke  "WORK OF HEART"  Sony  CDSTEP151  (2015)

Jimmy Dludlu  PORTRAIT
前回取り上げたリザ・ジェイムズのアルバムに聞き覚えのある曲があり、それが ‘Totte’。
歌詞が付いていて、おやと思ったんですが、
オリジナルはギタリストのジミー・ドゥルドゥルの07年作に収録されていました。
こんなチャンスでもないと、ジミー・ドゥルドゥルについて書くこともないだろうから、
今回はこのフュージョン・ギタリストを取り上げましょう。

初めてジミー・ドゥルドゥルを聴いた時は、驚いたなあ。
ドゥルドゥルを知る人ならうなずいてくれると思うけど、
ジョージ・ベンソンと瓜二つなんですよ。
ブラインド・テストしたら、10人中10人が「ジョージ・ベンソン」と答えるはず。
ギター・プレイばかりでなく、ユニゾンでスキャットするヴォーカルまで完コピー。
こんなギタリストが南アにいるとはオドロキでした。

のちにジミー・ドゥルドゥルは南ア人ではなく、モザンビーク人だということを知りました。
80年代半ばにスワジランドやボツワナで活動をしたのち、90年にジョハネスバーグへ移住。
セッション・ギタリストとして活動を始め、マッコイ・ムルバタのバンドを皮切りに、
ヒュー・マセケラ、ミリアム・マケーバ、ブレンダ・ファシー、チッコなど
南アのトップ・スターたちのバックを務めます。
南アのスタジオでファースト・コールのギタリストとして名声を高め、
94年にはジャズ・ギタリストのレジェンド、ハーブ・エリスとも共演しています。

南アの有名なフュージョン・ギタリストって、なぜか近隣国出身者が多く、
ドゥルドゥルばかりでなく、ルイス・ムランガはジンバブウェ人でしたね。
本国ではジャズ・ギタリストの仕事の場がないんだろうなあ。
そしてドゥルドゥルは97年にアルバム・デビュー。
ぼくが最初に聴いたのは99年のセカンド作でした。
手元にあるのは、このセカンド作と先の07年作に16年作の3作です。
Jimmy DluDlu  ESSENCE OF RHYTHM Jimmy Dludlu  IN THE GROOVE
ジョージ・ベンソン・スタイルのギターはどの作品も同じで、
99年作ではそれほどアフリカ色を打ち出していませんでしたが、
07年作や16年作ではアフリカらしいコーラスなどを配して、
汎アフロ・ポップ・フュージョンを展開しています。
07年作には、モザンビークのティンビラ・オーケストラが出てくる曲もありました。
アメリカ産フュージョンと寸分違わないクオリティのプロダクションで
アフロ・フュージョン・サウンドを楽しめるのは、ドゥルドゥルならではですね。

Jimmy Dludlu  "PORTRAIT"  Universal  CDSRBL398  (2007)
Jimmy DluDlu  "ESSENCE OF RHYTHM"  Universal  CDSRBL268  (1999)
Jimmy Dludlu  "IN THE GROOVE"  Universal  CDRBL811  (2016)

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