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ひさしく「ヌビア」という言葉を聞きませんでしたね。
偉大なるヌビア人音楽家のハムザ・エル・ディンも、アリ・ハッサン・クバーンも、
とうの昔に故人となってしまったしなあ。

そのヌビア人女性シンガー率いる新グループの登場とあって、
おお、これは珍しいと飛びついちゃいました。
え? でも、ヌビア人女性シンガー?
ヌビア社会では女性が歌うのは禁じられているんじゃなかったっけか。

アルサラーは、ハルツーム出身ブルックリン在住のシンガーとのこと。
国外でなら歌ってもOKなんでしょうね。
スーダン内戦のために8歳で家族とともにイエメンへ逃れ、
94年にアメリカへ渡ったんだそうです。
アメリカでなら歌っても大丈夫というか、
多くのヌビア人たちが国外に逃れなくてはならない事態となって、
伝統的なヌビア社会も変化を迫られているんでしょうね。

アルサラーはウェズリアン大学で民族音楽学を学んだ才媛で、
東アフリカ・レトロ・ポップを自称するそのサウンドは、
70年代のヌビア音楽を復興しようとしているそうです。
アルバムの半数がトラディショナルとクレジットされ、
タンガのターラブ楽団ブラック・スター・ミュージカル・クラブを1曲やっているのには、
思わずニンマリしてしまいました。

ウードとパーカッションを中心に、
曲によりアコーディオンとエフェクトが控えめに加わるだけという
いわゆる伝統的スタイルで歌っているんですが、
サウンドはすごくモダンというか、伝統的な香りはほとんどしません。
アルサラーもコブシを全く使わず、というか、伝統的な節回しは身についていないようで、
シロウトぽい歌が妙にチャーミングに聞こえたりして。

本格的な伝統復興とはだいぶ違い、
ひと昔前のエスノ・ポップ的なところもある親しみやすいサウンドは、広くアピールできそう。
なんでもアルサラーは、本作の前にサウンドウェイからアルバムを1枚出しているようで、
そちらはフランス人トラック・メイカーと組んだ、ブレイクビーツ/ダブ・ステップのアルバムとのこと。
「ジャイルス・ピーターソンも注目」なんて宣伝文句が付いてたので、
んじゃオレにはカンケーねえや、なんて思いましたけど、なるほどそっち方面の人なのかあ。

Alsarah and The Nubatones "SILT" Wonderwheel Recordings WONDERCD21 (2014)