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北米とハワイ以外でスライド・ギターのアルバム10枚を取り上げるという、
なかなかに難しいお題の原稿に取りかかっていた先月のこと。
アフリカ音楽でのスライド・ギターの使用例を思い巡らしていると、
ナイジェリアのパームワインのバンド、ジョリー・オーケストラの曲が思い浮かびました。

サヴァンナフォン盤“DELTA DANDIES : DANCE BANDS IN NIGERIA 1936-1941”
所収の“Egbe Jolly” でスライド・ギターが聴けるんですね。
ただ、ジョリー・オーケストラの他の曲でスライド・ギターを使っている例はなかったので、
原稿にするのは諦めてしまったんですが、
あっちこっちの編集盤に入っているジョリー・オーケストラの曲を拾い聴きしているうちに、
このバンドのことが気になって、しかたなくなってしまいました。

ジョリー・オーケストラ、またの名をジョリー・ボーイズ・オーケストラは、
30年代にレゴスの港の酒場でパームワインを演奏して人気を博したグループ。
ギター3台、マンドリン、サンバ(四角い木枠の太鼓)、シェケレ、
トライアングルに、ペニーホイッスルが加わっていました。
ジョリー・オーケストラにはアンブローズ・キャンベルと、
ブルスター・ヒューズが在籍していたんですよねえ。

アンブローズ・キャンベルは、ロンドンに渡ってジュジュとハイライフと
カリブ音楽をミックスしたユニークな歌手。
以前アンブローズの記事を書いた時は、渡英する前のキャリアに触れませんでしたが、
パームワイン楽団のジョリー・オーケストラ出身だったんですよ。
https://bunboni.livedoor.blog/2013-05-24

一方のブルスター・ヒューズは、ジョリー・オーケストラで一緒だったギタリストで、
偶然にロンドンでアンブローズと再会し、
二人はウェスト・アフリカン・ブラザーズを結成したのでした。
その後ブルスター・ヒューズは、50年代半ばにウェスト・アフリカン・ブラザーズを離れ、
自身のグループ、ナイジェリアン・ユニオン・リズム・グループを結成しています。

Brewster Hughes Highlife From Nigeria.jpg

57年にアンブローズのバンドに再加入して、ナイジェリアへ凱旋ツアーを共にしますが、
ロンドンに戻ってからは、アンブローズに代わってソーホーのナイトクラブ、
クラブ・アフリークの専属バンドリーダーとなり、
ロンドンのヨルバ人移民社会の顔役として、政治家や長老たちをもてなしました。
60年代にメロディスクに残したレコードをぼくは1枚持っていますが、
ブルスターはその後もロンドンにとどまり、86年に肺ガンで亡くなっています。

話がすっかり大戦後のロンドンに飛んじゃいましたが、30年代のレゴスに戻して、
ジョリー・オーケストラのメンバーは、ヨルバ人、クル人、
アシャンティ人による寄り合い所帯でした。
さらにいえば、アンブローズ・キャンベルとブルスター・ヒューズの二人は、
解放奴隷のコミュニティ、サロの出身者でした。

こんなところも、パームワインの雑種音楽性をうかがえるところで、
多様な文化背景を持ったメンバーの出会いによって、
さまざまな音楽がミックスされたことがよくわかります。
のちにアンブローズ・キャンベルとブルスター・ヒューズが、
ロンドンでカリプソやスカを呑み込んでいったのも、サロ出身のパームワイン音楽家という、
雑食性の強い音楽的体質を備えていたからこそだったんでしょうね。

ジョリー・オーケストラも、残念ながら単独リイシューが実現しておらず、
あちこちのコンピレーションに1・2曲収録されているだけという状態が長く続いています。
クリス・ウォーターマンが編集した“JUJU ROOTS : 1930s-1950s” で
初めて彼らを知りましたが、今手元には、
彼らの曲が収録されたコンピレーションが6タイトルあります。
カラバール・ブラス・バンド同様、単独編集盤の実現を望みたいところですね。

【蛇足】冒頭のスライド・ギターの原稿は、『CROSSBEAT Presents スライド・ギター』に、
「スライド・ギターを求めて地球一周!! 名盤10選」として載っています。
よろしければお読みください。

Tunde King, Ayinde Bakare, Jolly Orchestra, J.O. Oyesiku and others "JUJU ROOTS : 1930s-1950s" Rounder CD5017
[LP] Brewster Hughes and His Highlifers "HIGHLIFE FROM NIGERIA" Melodisc MLP12-141