きつねのトンプソン FOX  きつねのトンプソン TIGER
いにしえのラグタイムやフォックストロットを、
ブルーグラスとクラシックとジャズを借りて演奏するユニークなグループ、
きつねのトンプソンを知ったのは、5月に出たアルバムがきっかけ。
ライヴを観てみたいと思ったら、
ちょうど発売記念ライヴ・ツアー中だというじゃないですか。
8月9日にカヴァー集も出るというので、
それならせっかくだからと、発売日に合わせたライヴを予約しました。

銀座ロッキートップというハコは初めて。ブルーグラスのライヴハウスだそうです。
会場に着いて、さっそく新作の『TIGER』を木琴奏者の小山理恵さんから購入。
5月に出た『FOX』と姉妹編的なデザインになっていて、
ジャケットを開いた状態で2枚を組み合わせると、
バンジョーを持ったキツネとトラが扉のところに立っているおうちの中が現れるという、
かわいらしいデザイン。このイラストもデザインも小山さんが手がけています。

ライヴは『FOX』の1曲目、小山さんのオリジナル曲「Thompson a Go-Go」からスタート。
2曲目はなんとチャーリー・パーカーの「My Little Suede Shoes」。
いきなりぼくの大好きな曲が出てきてニンマリしていたら、『TIGER』の1曲目なんだね。
演奏している4人からこぼれる笑みがとてもステキで、
心底自分たちが愛している音楽をやっているのが伝わってきます。
こんなに笑顔が似合うグループも、なかなかいないんじゃないかなあ。
きつねのトンプソン 0809_3
その笑顔を裏打ちしているのが、4人の高い演奏力。
持てる能力の6割程度しか出していない感じの余裕シャクシャクな演奏ぶりがニクイんです。
眉間にシワ寄せて必死になったりなどしないから、笑顔もこぼれようというものだよね。
それでいてスピード感溢れる小山理恵のマレットさばきや、
流麗に指板を踊る小寺拓実の左指には、ただただ圧倒されるばかりで、
二人の超絶技巧はマジすごかった。

その二人を支えるリズム・セクションにも感心しきり。
吉島智仁のドラムスの弱音プレイは、デリカシーの塊でしたよ。
こんなに弱音の上手いドラマーって、ほかに知らないなあ。
ニワトリやアヒルのおもちゃも駆使して、愛らしい即興を繰り広げたり、
柔軟にリズムを変化させてアンサンブルをまとめ上げていました。

そして手島昭英のベースの安定感と軽やかさは、まさしくヴェテランの味わい。
なんだかかつてのオマさん(鈴木勲)を観てるみたいだったなあ。
途中弓を持ったりしたので、アルコ奏法をするのかなと思う場面もあったけれど、
結局弓での演奏はありませんでしたね。
きつねのトンプソン 0809_1
新作のカヴァー集『TIGER』のレパートリーで驚いたのは、選曲の意外さ。
ジャコー・ド・バンドリンの「O Vôo Da Mosca」には、ショーロ・ファンのぼくも驚いた。
62年6月録音のヴァルサなんだけど、この曲をカヴァーしている人なんていたかなあ。
ジャンゴ・ラインハルトの「Rhythm Futur」も、こんな曲あったっけ?と、
思わずジャンゴ・ボックスを取り出してチェックしちゃいましたよ。

超マニアックな選曲なのに、マニア臭だとかスノッブな感じがまるでしないのがいいよね。
すずめのティアーズとか若い世代に共通する感覚だと思うんだけれど、
屈託がないんだよね、音楽に接する態度が。
こだわりのなさが、音楽を創作するうえですごく強みになっている。
理屈じゃなくて好きだから、という一点突破で成功しているように思えます。

オリジナル録音の「O Vôo Da Mosca」は、
ジャコーが一人でばりばりバンドリンを弾いているだけなんだけど、
きつねのトンプソン版では、小山がジャコーのメロディを弾き、
小寺がハーモニーを付けてリズムを途中で変化させるなど、アレンジも凝っています。
「子犬のワルツ」を2拍子のラグタイムに変えたり、
リズム・アレンジの妙もこのアルバムの聴きどころになっていますね。

このライヴハウスでは3セットやるのが常なのだそうで、
たっぷり聴かせてもらえたんですけれど、最後の3セット目がスゴかった。
TBSのヴァラエティ番組『モニタリング』じゃないけれど、
それまで6・7割の力しか出していなかったのを、能力を完全解放。
20年代のバンジョー・チューンで聞かせた小寺の超絶技巧には目を見張ったうえ、
吉島のツー・ビートのグルーヴが凄まじかった。
弱音プレイから強力なグルーヴまでをこなす振り幅の大きさに、
吉島の才能がくっきりと示されていましたね。

さらに圧巻だったのが、オーネット・コールマンの 'Ramblin''。
『TIGER』収録のデイヴ・ブルーベックの超有名曲「Blue Rondo à la Turk」を、
小山は録音するまで知らなかったとMCで言っていたくらいだから、
オーネットの曲など知る由もなかっただろうけど、よくぞ選曲したもの。
アレンジの見事さは、かつてのデイヴィッド・サンボーンのカヴァーを勝ってたぞ。
メンバーのソロばかりでなく、全員のアンサンブルのダイナミズムがスゴかった。
この夜のハイライトでしたよ。

家に帰って翌日『TIGER』を聴いたら、なんと 'Ramblin'' は入っていない。 
ひょっとして初演だったのかしらん。
素晴らしい演奏だったので、次のアルバムにはぜひ収録を期待しています。
きつねのトンプソン 0809_2
きつねのトンプソン  「THE FOX IN TIGER’S CLOTHING VOL.1 FOX」  プレハブ PFR002 (2025)
きつねのトンプソン  「THE FOX IN TIGER’S CLOTHING VOL.2 TIGER」  プレハブ PFR003 (2025)