
3年前のデビュー作にノック・アウトを食らい、
次元が違うとしか言いようのない才能に圧倒された和久井沙良。
昨年の2作目でもアグレッシヴな攻めの姿勢に変化はなく、
快進撃そのものでしたけれど、新作では肩の力が抜けたのを感じさせる仕上がり。
トリッキーな要素が減って、アンサンブルが落ち着いたような印象がありますね。
単に聴き手のこちらの耳が慣れた、てことなのかもしれませんけれど。
これまで幅広い音楽性を縦横無尽に展開してきたなかで、
エレクトロやビート・ミュージックの側面を今後強く打ち出していくのかと予想していたら、
まったくの逆で、バンドのライヴ感を打ち出す方向にシフトしています。
ベースが森光奏太から高橋佳輝に替わり、和久井のピアノ、
上原俊亮のドラムス、イシイトモキのギターを中心に、シンガー2人が参加。
フィーチャリング・ゲストが少ないのも今作の特徴でしょうか。
このバンドでツアーをやってきて手ごたえを感じ、自信を深めたのでしょう。
急速調の「Bulldozer」、ピアノとドラムスのデュオの「QREA」も、
シカケが多いアレンジなんだけれど、驚かしてやろうみたいな気負いがなくて、
のびのびとインタープレイを楽しんでいる感じがいい。
楽器同士が会話しているのが、聴き取れますよ。
タイトル曲の「Little Cycle」は、和久井らしいプログレッシヴな作風なんだけれど、
過度な演出よりも、バンド・アンサンブルで勝負している感じ。
細分化されたビートを叩く上原俊亮の打音がすごくきれいで、
聴くたびに感心するんだけれど、この人の経歴を知って驚きました。
父親はなんと、りんけんバンドのベーシストの上原顕だったんですね。
3歳でドラムを始め、10歳でりんけんバンドに加入して8年間活動。
りんけんバンドをやめた後、18歳でバークリー音楽大学に入学したんだそうです。
バークリーを休学して帰国後、セッション・ミュージシャンとして頭角を現し、
藤井風のセカンド作収録の「やば。」を叩いたのも上原だったんですね。
そして上原は藤井のアリーナ・ツアー(22~23)にも帯同してプレイしました。
神保彰を思わすスタイルは、ぼくの大好きなタイプのドラマーです。
mimiko の歌をフィーチャーしたネオ・ソウル風味のダンス・トラックの「Patterns」は、
スロウなパートも生かした歌もの。生演奏のグルーヴ感がナチュラルでいいなあ。
楽曲にもヒネったところがなくて(インタールードは結構凝ってるんだけど)、
生演奏のアンサンブルを重視した本作を象徴したトラックになりましたね。
和久井沙良 「THE LITTLE CYCLE」 アポロサウンズ APLS2506 (2025)