THE BLUES OF THE INDIAN OCEAN
フィールド・レコーディングのUKの新興レーベル、ジュジュ・サウンズが
新たにスポットを当てたのは、インド洋のディープなアフロ・セガ。
このレーベルは憑依儀礼のザールをドキュメントしたりと、
目の付け所がぼくの関心事とジャスト・ミートで嬉しくなります。

本作に収録されているのはエンターテインメント化した歌謡セガではなく、
アフロ系住民が伝えてきた、打楽器のみの伴奏で歌とコーラスが
コール・アンド・レスポンスする、オーセンティックなセガ。

アフロ系住民が伝えてきたインド洋のパーカション・ミュージックといえば、
レユニオンのマロヤが有名で、CDも相当数出ていますけれど、
モーリシャス、ロドリゲス、チャゴス、アガレガに
息づく伝統スタイルのセガはほとんど商業録音がなく、
オコラなどの民俗音楽レーベルのアルバムしかありません。
『ポップ・アフリカ800』にはトントン・アンペーニュの現地盤を紹介したんですけど、
この知られざる名作を聴いたことのある人って、果たしているんだろうか。

インド洋の島々に奴隷として連行されたアフリカ人、インドからの年季奉公人、
中東地域から入植したアラブ人たちは、
植民地主義の抑圧にさらされながら社会的な絆を深めて、
クレオール文化を生み出してきたんですね。
そうして生み出されたセガは、奴隷制廃止後も代償を払われず
疎外された黒人がブルースを生み出した状況に匹敵するとして、
本作のタイトルが付けられたようです。

モーリシャスには、60年代後半から70年代前半にかけて
チャゴス諸島から米軍基地建設のため英国軍によって強制追放された
チャゴス人のコミュニティがあり、群島奪還のための政治闘争が続けられています。
ここに収録されたグループ・タンブール・チャゴスもそうしたチャゴス人のグループで、
アガレガ諸島から渡ってきた移民コミュニティのグループの
ヌーヴェルメント・ティピック・アガレガにとっても、
アガレガに駐留するインド軍が住民の脅威になっているという現実があります。

伝統セガを何世代にも渡って演奏してきた
ファミリー・グループのゼネレーション・カサンボや
モーリシャスの貧困や不平等に苦しむ子供たちを支援するプロジェクトの
グループであるアバイムでは、子供たちがいきいきとセガを歌っています。

今回このアルバムに教えられたのが、ロドリゲス島のセガ・タンブールです。
ロドリゲス島のセガといえば、アコーディオンによってクレオール化が進んだことについて、
以前記事にしたことがありますけれど、
伝統セガにもロドリゲス島の独自性があることを初めて知りました。

発祥当初のセガ・タンブールは、
土曜の夜に村ごとで開かれたバルと呼ばれるパーティーで演奏され、
その週の出来事や不満を歌い上げて、集まった群衆の興奮を巻き起こしました。
他の島のセガよりテンポの早いセガ・タンブールは、激しいリズムで即興の歌を引き立て、
植民地当局や教会、白人入植者たちの不安や敵視も招いたといいます。
やがて日常をテーマにした歌を歌うマレシャルと呼ばれる歌い手が表れ、
グループを率いてコンサートを開くようになります。

マレシャルで最初にもっとも有名になったのが39年生まれのジュリー・コレットで、
ジュリーの伝統を継いだエトワール・ルージュのセガ・タンブールでは、
母娘による美しいハーモニーが聞けます。
現在のマレシャルとして認められている
スタッフォード・サモイシーの力強いセガ・タンブールや、
野趣に富んだシブいノドを聞かせる島の伝説的な歌い手ジャクリーヌ“マリアンヌ”アラス、
ロレンツァ・ガスパールが家族とコール・アンド・レスポンスで歌うセガは、
トランシーな興奮へといざなわれ、最高にグルーヴィです。

17年にロドリゲス島のセガ・タンブールが、
19年にはチャゴス諸島のセガ・タンブールが
ユネスコの無形文化遺産に指定されたことで、
いまでは時代に合わせた新しいセガが模索されるようになっているそうです。
レユニオンのマロヤに続いて伝統セガが世界にアピールされる日が近いのかも。
本作がその起爆剤となることを願ってやみません。

Nouvellement Tipic Agalega, Group Tanbour Chagos, Zeneration Cassambo, Abaim, Jacqueliene ’Maryanne’ Allas, Etoile Rouge, Stafford Samoisy, Lorenza Gaspard
"THE BLUES OF THE INDIAN OCEAN"  Juju Sounds  JJ06  (2025)