
圧倒的。
ストーリーテラーとして語るべきことのある人の確信に満ちたヴォイスの力。
てらいなく、淀みなく、あいまいさもない。
伝えるという一点に感情を凝縮したその歌いぶりに、
魂を揺さぶられぬ者などいないでしょう。
ですが。
正直に告白すれば、ジル・スコットは苦手としていたタイプでした。
彼女の強力なヴォイスを聴いていると、
自分の矮小な男のダメさ加減をグサグサ指摘されているようで、
いたたまれず穴にでも入りたくなる気分に陥るんですよね。
黒人女性が置かれてきた歴史の積み重ねが、
ジルのソウルフルな歌声にはくっきりと刻印されていて、
日本人男性のこちらがおいそれとは近づけない距離の遠さをおぼえます。
そんなわけでジルのアルバムは、お気楽にサウンドだけ
エンジョイするのをずっとためらってきたんですが、
11年ぶりのアルバムというので、うっかり聴いてしまったからには、
買わずにはおれませんでした。
ニュー・オーリンズ・ファンク、スウィング・ジャズ、ゴーゴー、アフロビートなどなど、
目まぐるしいほど多彩なサウンドを詰め込みながら、それが散漫にならず、
ジルの歌声がしっかりとプロダクションを束ねているところがスゴイ。
そしてどこかざらっとした舌ざわりを残すのも、
表面ばかりきれいにつるつるとしたサウンドが主流な昨今、貴重ですね。
この圧倒的な存在感には、ただただこうべを垂れるだけです。
Jill Scott "TO WHOM THIS MAY CONCERN" Blues Babe no number (2026)