
「ラテン・ピアノで忘れられない1曲は?」という問いに始まって、
ノロ・モラーレスのアンソニア盤にたどり着いたんですけれど、
その質問のぼくのアンサーは、
チャーリー・パルミエリの ‘Tema De Maria Cervantes’ でした。
73年の “ADELANTE, GIGANTE” に収録されたこの曲を超すラテン・ピアノを、
半世紀を過ぎた今なお、ぼくは知りません。
大学1年生の時に出会ったこの曲は、衝撃そのものでした。
歌手のビティン・アビレスとオーケストラを擁した本作で、
インスト演奏のこの曲は異色のトラックでした。
管楽器抜きで演奏したこの曲を聴いたとき、
ノロ・モラーレスのアンソニア盤収録の曲と同曲とはすぐには気付きませんでした。
どこかで聞いた覚えがあると、ずーっとひっかかっていて、
ノロ・モラーレスにたどり着けたのはだいぶ経ってからでした。
というのもチャーリー・パルミエリのレコードには、
マリア・セルバンテス作曲とクレジットされていたため、
ノロ・モラーレスに考えが及ばなかったんですね。
チャーリーが作者とクレジットしたマリア・セルバンテス(1885-1981)は、
ハバナの芸術一家に生まれた作曲家兼ピアニスト、歌手としても活躍した人。
ボラ・デ・ニエベに多大な影響を与えた人で、
ボラとはコンサートやショーでも共演を果たしていますが、
音源や映像が残されていないのは悔まれます。
しかしこの曲はマリア・セルバンテスの曲をノロが変奏した曲なので、
作者としてはノロ・モラーレスが正解なのでした。
で問題は、チャーリーが演奏したこのカヴァー・ヴァージョンです。
衝撃的だったのは、ボンゴとコンガが叩き出す正確無比なタイム感です。
当時はウチコミなんてものが世の中には存在しませんでしたが、
人間が演奏しているとは思えないほど、スウィングしない機械的なビートでした。
そのスクエアなリズムにのるチャーリーのピアノは、突っ込んだり、もたったりと、
自在なリズム感で凄まじいまでのグルーヴを巻き起こして、聴く者を翻弄します。
長いパッセージを弾く場面など、何度聴いても息を呑んでしまいます。
タッチもこれまた自在で、ガーンと鍵盤を激しく叩いて和音を響かせたり、
ふわりと柔らかなコードを奏でたりと、もうどんだけ表現力あるんだかという感じで、
その雄弁さには、タメイキがもれるばかり。
ティンバレスがソロをとり、チャーリーのピアノがバッキングする場面では、
今度は雄弁なリズム感で弾いていたピアノが一転、ボンゴとコンガと一緒に
正確無比なスクエアなリズムを演奏して、ティンバレスに自由なソロを演奏させています。
このスウィングしない精密なビートと、スウィングしまくるソロ楽器のビートの対比は、
ラテン・ジャズならではの厳格なグルーヴといえます。
ラテンとジャズの大きな違いって、このリズムに対する厳格さじゃないのかな。
裏拍や裏・裏拍で取るラテンの精密なリズムって、
融通無碍に4拍が伸び縮みするジャズとはまるっきり異質だよね。
それにしてもいまでも残念でならないのは、
チャーリーがラテン・ジャズのアルバムを作ってくれなかったこと。
こんなインストをアルバム1枚でやってくれたら、
ラテン・ジャズ屈指の名盤となったこと間違いなしだったのになあ。
Charlie Palmieri and His Orchestra "ADELANTE, GIGANTE" Alegre CLPA7013 (1973)