after you

bunboni こと 荻原和也 の 音楽案内所 musicaholic ブログ(隔日刊 2009年6月2日より)にようこそ。

Searching for good music of the world

カテゴリ: カリブ海

Noro Morales  HIS PIANO AND RHYTHM
ラテン・ジャズを初めて聴いた、というか、初めて聞かされたのは、
プエルト・リコのピアニスト、ノロ・モラーレスのアンソニア盤。
セリア・クルースに夢中になった2・3歳よりもう少し後のことで、
小学生に上がったか上がらないかくらいの頃の話。
もちろん父がかけていたレコードですよ。

当時ラテン・ピアノといえば、ペペ・ハラミジョの人気が高かったんですが、
父もぼくもノロ・モラーレスの方がお気に入りでした。
のちにそのレコードを父のレコード棚で再発見したのが高校生の時。
ジャケットをまったく記憶していなかったので、
見覚えのないジャケットからレコードを取り出して、
あの懐かしいサウンドが飛び出してきた時の身体の震えは、今も忘れられません。

オーケストラ・スタイルのアフロ・キューバン・ジャズよりも、
ボンゴ、コンガ、ティンバレス、マラカス、ギロがちゃきちゃきとリズムを刻んで、
ピアノが跳ね回る「ピアノ・イ・リトモ(ピアノ&リズム)」のスタイルが
大好物だったんですよねえ。

いまも手元にあるノロのCDは、全部小編成のものばかり。
クラシック・ピアノの鍛錬が聴き取れる鮮やかな運指とタッチが、
軽快なパーカッション・アンサンブルのなかでキラキラと輝くラテン・ピアノが、
自分のなかでは最上位なのです。
Noro Morales  RUMBA RHAPSODY Noro Morales  EN SU AMBIENTE
戦後まもない45年から51年までの小編成録音をまとめた
 “RUMBA RHAPSODY” は、そんなぼくには最高の編集内容でした。
64年のマルベラ盤 “EN SU AMBIENTE” もいいんだけれど、
ボレーロ中心に寄ったレパートリーがちょっと残念。
アンソニア盤はグァヒーラ、ボレーロ、チャチャチャ、グァラーチャ、ルンバ、
モントゥーノ、アフロと多彩なリズムを楽しめるのが、子供心にもヒットしたのでした。

当時自分もピアノを習っていて、6年間もスパルタ・レッスンに耐えたんですが、
あまりの厳しさに心が折れてやめてしまい、
その後ピアノに触るのも嫌になってしまったのは、残念な幼児体験でした。
ノロ・モラーレスみたいなピアノを教えてくれる先生がいたら、
どんなに良かったかと思いますけど、
昭和30年代の日本に、そんな先生いるわけないもんねえ。

Noro Morales  "HIS PIANO AND RHYTHM"  Ansonia  HGCD1272  (1960)
Noro Morales  "RUMBA RHAPSODY"  Tumbao Cuban Classics  TCD036
Noro Morales  "EN SU AMBIENTE"  Disco Hit  DHCD9156  (1964)

Max Rambhojan
80年代のズーク・ブーム当時、グアドループから登場したマックス・ランボージャンは、
86年のワールド・カップ放映時にテレビ局が流した
ミュージック・ヴィデオをきっかけに曲がヒットして、一躍スターダムに上った人。

しかしマックスはズーク・シンガーとなる以前は、
グウォ・カの名手ギィ・コンケットに師事し、
グウォ・カのマスターとなった経歴の持ち主。週末にはグウォ・カを演奏し、
地元FM局Mメディア・トロピカルの番組司会も務めています。
マックス・ランボージャンの21年作は、パーカッション・アンサンブルのみで演奏する
伝統的なグウォ・カを聞かせます。

歌とコーラスがコール・アンド・レスポンスするオーセンティックなスタイルながら、
意外にも洗練された印象を与えるのは、コーラスがハーモニーをかたどったり、
男女6人のコーラスをパートごと交互に歌ったり一緒に歌ったりと、
アレンジに工夫が凝らされているから。
こういったセンスは、ズーク・シンガー時代のキャリアの賜物なのかもしれません。

リード・シンガーのバックでヴォーカル・パーカションを聞かせる ‘Oukakonet’ が面白い。
このヴォーカル・パーカッションはブーラジェルなのかもしれませんね。
1曲1曲リズムが異なり、グアドループの多彩なリズムが味わえて、
また歌い手もそれぞれ味のあるノドを聞かせるので、まったく退屈することがありません。

グウォ・カのアルバムは同じリズムが続いて単調なものも多く、
本作を聴かずじまいにしてたのは失敗でした。
近作のグウォ・カのアルバムのなかで快作といえる1枚です。

Max Rambhojan  "SON NET"  BCR Music  HFS119  (2021)

Omara Portuondo  ETERNAMENTE OMARA
18年作の “OMARA SIEMPRE” にカンゲキしたものの、
その後のアルバムは余計なゲストが多すぎて、
オマーラだけを聴きたい当方には、ええい、ジャマくさい!と手が伸びず。

当初配信のみかと心配した新作も無事スペインからリリースされたものの、
アンジェリク・キジョなんて要警戒な人物の名前もあって、ヤな予感。
でもまあゲスト4人くらいならしかたないかと、自分を納得させました。

ジャケットが素晴らしいですよね。
94歳のオマーラの美しさに、思わず見入ってしまいました。
瞳に映るアンブレラが輝いていて、みずからが歩んできた
道のりに満足している人の表情の豊かさに思えます。
頬にあてた両手の皺さえも尊く見えますよ。
老いをこれほど真正面に捉えながら、
神々しい美しさを引き出したライティングが絶妙です。

レパートリーを見ると、「キサス・キサス・キサス」「グアンタナメラ」に
アグスティン・ララの「ノーチェ・デ・ロンダ」といった大名曲が目立ちますけれど、
注目すべきは、ホセ・アントニオ・メンデスの「ソイ・タン・フェリス」、
セサル・ポルティージョの「トゥ・ミ・デルリオ」といったフィーリン名曲。
フィーリンから歌手活動を出発したオマーラが、人生の終盤を迎えて
またフィーリンへ還って来たという感慨で胸が熱くなります。

人生の酸いも甘いも知り尽くし、成熟を超えた先にあるオマーラのフィーリンを
過不足ない演奏で聞かせる主役は、ロベルト・フォンセカのピアノ。
本作のプロデュースもフォンセカが担っていて、大甘な「キサス・キサス・キサス」を
こんなにシブく仕上げるところに、フォンセカの腕前を感じますねえ。
派手さを抑えた気品あるアレンジが、
最高度に洗練されたキューバ歌謡に仕上げています。

ところが、せっかく粋に仕上げた「キサス・キサス・キサス」の気品を
台無しにしているのが、ナティ・ペルーソとかいうゲスト。
その下品な歌いっぷりには、怒り心頭になりました。
誰だよ、こいつ? アルゼンチン生まれ、スペインで活動中のシンガー・ソングライター?
なんでこんなヤツ、オマーラの作品に呼んだんだよ。
この曲をロベルトと共同プロデュースしたスワミ・ジュニオールの仕業か?

ほかのゲストは問題なく、一番危惧したキジョも
ヨルバ語の歌詞で歌うだけで可もなく不可もなく。
芸歴75周年の歌心がたどりついた境地を、仰ぎみるような気持ちで聴いています。

Omara Portuondo  "ETERNAMENTE OMARA"  Warner Music Spain  5021732792242  (2025)

Fabienne Reine EKO
い~じゃない、このアダルトな味わい。
どんなヴェテラン・シンガーかと思いきや、これがデビュー作というのだから、オドロキ。

グアドループ出身のファビエンヌ・レーヌ。
ダンサー兼振付師としてキャリアをスタートし、
02年にジャズ・ダンス・インストラクターの国家資格を取得して振付指導をするかたわら、
コンテンポラリー・ダンス・カンパニーに参加するほか、
グアドループ初となった本格的なミュージカル『ラ・リュ・ザビム』(2004-2005)や、
『ザ・ライオン・キング』(2006-2008)でダンサーとして活躍してきた人。

ダンス・パフォーマンスの分野ばかりでなく、歌手、作曲家としても活動して
数多くのスタジオ・レコーディングに呼ばれ、ジャン=クロード・ネムロ、
パトリック・サン=テロワ、ジョセリーヌ・ベロアール、タニヤ・サン=ヴァル、
ジェフ・ジョセフ、パパ・ウェンバといった面々と共演してきたというのだから、
裏方のキャリアは十分すぎるほどあった人だったんですね。

18年に初のシングル ‘Dako’ をリリースし、
本作は満を持してリリースしたフル・アルバム。
オープニングにその ‘Dako’ を収録していて、
ヴォーカル・パーカッションをバックにしたジャジー・ソウルな味わいに、
イッパツでマイっちゃいました。

ウチコミをまったく使わない生演奏が極上なんですよ。
それもそのはず、アレンジを務めるベーシストのエリック・デルブロンを中心に、
ドラムスのソニー・トループ、ジェローム・カストリ、
ギターのルドヴィック・ティンヴァル、ティエリー・ドゥラネイと、
グアドループ出身の腕っこきが揃っています。

ピアノはなんと、ミジコペイの音楽監督を務めるヴェテラン・ピアニスト、
ティエリー・ヴァトンですよ。ティエリーはマルチニーク出身か。
麗しい女性コーラスが音楽の仕上がりをいっそうエレガントにしています。

ズークらしいといえるのは7・8曲目の2曲くらいしかないから、
ズーク・アルバムというより、R&B風味のクレオール・ポップ・アルバムだな。
逸品ですよ。これは。

Fabienne Reine  "ÉKO"  Aztec Musique  CM5000  (2025)

Etienne Charles  GULLAH ROOTS
「カリブがジャズを生んだ」のテーゼを体現する最重要ジャズ・ミュージシャンが、
トリニダードのトランペット奏者エティエン・チャールズ。
エティエンほど、ジャズがアフロ=クレオール文化の産物であることを、
多彩なアイディアで具現化するミュージシャンはいません。

同じジャズ・トランペット奏者で、ニュー・オーリンズ・ルーツを深堀する
クリスチャン・スコット・アトゥンデ・アジュアーがいますけれど、
正直エティエンの前では、クリスチャンも霞んじゃいますね。
ジャズのカリビアン・ルーツを探訪するエティエンの新作は、
ガラにスポットを当てた作品です。

ガラは、サウス・カロライナ州とジョージア州の沿岸部や群島に暮らす解放奴隷の末裔。
現在のセネガル、ギネア、シエラ・レオーネ、リベリア、ガーナ、
さらにアンゴラや西インド諸島から持ち込まれた言語や文化がクレオール化して、
アメリカでもっともアフリカ文化が濃厚に保持された地として知られています。
ガラのコミュニティは、何世紀にもわたって独特の生活様式や食習慣、
言語、宗教、音楽を育んできましたが、知名度は低く、
アメリカの黒人文化に精通している人にしか知られていないような気がします。

エティエンの新作は、そのガラのルーツを旅する作品となっているのですが、
ガラ人の文化がトリニダード島にまで渡っていたとは、今回初めて知りました。
独立戦争後、イギリス側についた奴隷や自由黒人たちはカナダへの渡航が許され、
1812年の米英戦争後に褒章として土地が与えられて
トリニダード島南部のモルガへ移住したのだそうです。
「メリキンズ」とトリニダードで呼ばれた彼らこそが、ガラ人だったんですね。

7曲目の 'Gullypso (Merikin)' は、手拍子が導くスウィンギン&グルーヴィなトラックで、
ローカントリーとカリブ海が繋がっていることを、そのリズムで実感させてくれます。
敬虔なイスラーム教徒として史実に残るジョージア州の二人の奴隷
サリー・ビラリとビラリ・ムハンマドをオマージュした2・3曲目の 'Bilali' では、
ゲンブリとカルカベをフィーチャーして、北アフリカのグナーワとガラを結び付けています。

8・9曲目の 'Igbo Landing' の曲名は、
ジョージア州セント・シモンズ島のダンバー・クリークにある史跡。
1803年奴隷船を乗っ取った捕虜のイボ人が集団自殺を遂げた場所で、
奴隷制への抵抗の物語として数々の神話が創作され、
「空飛ぶアフリカ人」の民間伝承が有名です。

家族が引き裂かれた奴隷の競り市をテーマにした
6曲目 'Weeping Time' の悲痛さと、
4・5曲目 'Watch Night' の年末ホリデー・ウィークの恒例行事となった
リング・シャウトの歓喜の対照は、ガラの歴史と文化を鮮やかに照射しています。

リング・シャウトは、リーダーとメンバーが輪になって円を描きながらダンスをして、
コール・アンド・レスポンスする歌唱パフォーマンスで、
伴奏は手拍子と足踏みのほかは、地面を打ち付けるスティック(ホウキの柄)のみ。
このパフォーマンスを観たエティエンが、竹のタンブーを地面に打ち付ける
トリニダードのバンブー・タンブーをすぐに想起したのも当然です。
リング・シャウトのエネルギーをそのままに器楽化したこのトラックは、聴きものです。

ニュー・オーリンズの音楽に比べ、ガラの音楽はほとんど知られていないだけに、
エティエンの本作はカリブ音楽ファンばかりでなく、
アメリカの黒人文化に関心ある人には、必聴の作品ですよ。

Etienne Charles  "GULLAH ROOTS"  Culture Shock Music  EC011  (2025)

Beethova Obas  BON BAGAY
某オンライン・ショップの在庫見切り品770円均一セールのリストを眺めていたら、
気にはなりつつ、手を伸ばさずじまいとなっていたCDがざっくざく。
これは逃してなるものかと、11枚まとめ買いしちゃいました。

まずはハイチのシンガー・ソングライター、ベートーヴァ・オバスの20年作。
シャンソン・クレオールをめちゃくちゃ洒脱に歌う人で、
ミジック・ラシーンがハイチでぶいぶい言わせていた90年代初めに登場した時は、
こんな人が出てきたことにビックリしたものです。
Malavoi  MATEBIS
ベートーヴァが話題を呼んだのは、マラヴォワの92年作 “MATEBIS” に
'Nou Pa Moun' が取り上げられたのがきっかけ。
当時はハイチの人だとは知らず、マルチニークの人とばかり勘違いしていたほど
エレガントな音楽性を聴かせていて、マラヴォワに起用されるのもナットクでした。
その曲を再録した93年のセカンド作 “SI…” と
96年のサード作 “PA PRESE”  は、当時めちゃくちゃ愛聴したものです。
Beethova Obas  SI… Beethova Obas  PA PRESE
マルチニーク・マナーなエレガントぶりは、マリオ・カノンジュ(p)、
ティエリー・ファンファン(b)、ジャン=フィリップ・ファンファン(ds) という
マルチニーク/グアドループの黄金トリオがバックアップしていたからだったんですね。

その後のアルバムでは黄金トリオの名が消えて、
だいぶ聴き劣りするようになってしまったため、自分の視界から消えていたんですが、
なんと7作目の本作ではティエリーとジャン=フィリップのファンファン兄弟が復活し、
クレオール・ジャズのピアニスト、ダヴィッド・ファクールが参加。
“SI…” にも参加していたマルチニーク人パーカッショニスト、バゴの名も見えます。

このメンバーが揃っていりゃあ、ベートーヴァのフックの利いた楽曲も映えますって。
1曲目からチャチャチャにアレンジしていて、洒脱の極み。
活舌の良いベートヴァのヴォーカルは、
甘いメロディを歌ってもリズムが立っているので、流れることがありません。
クレオール・ジャズのエッセンスを生かした極上のクレオールAORが楽しめますね。
ハイチ人ギタリストのジミー・ジャン・フェリックスのロック・ギター・ソロが
冴えわたる 'Bio' も、アルバムのいいチェンジ・オヴ・ペースとなっています。

最後に、これまで知らなかったんだけど、
ベードーヴァって、画家シャルル・オバス(1927-1969)の息子だったんだね。
デュヴァリエ政権下で苦しんだ庶民を寓話的に描いた作風で知られる画家で、
フォークロアなナイーヴ・アートが持ち味でした。

Beethova Obas  "BON BAGAY"  Aztec Musique  CM2698  (2020)
Malavoi  "MATEBIS"  Déclic Communication  74321-10541-2-6  (1992)
Beethova Obas  "SI…"  Déclic Communication  001-2  (1993)
Beethova Obas  "PA PRESE"  Déclic Communication  8420092  (1996)

Paquito D'Rivera  LA FLEUR DE CAYENNE
うわぁ、これはジャズ・ショーロといっていい作品じゃないかな。
と思わず相好を崩してしまったパキート・デリベラの新作。
もちろんパキートはラテン・ジャズの演奏家で、ショーロの音楽家じゃないんだけど。

在マドリードのキューバ系移民音楽家と
コロンビア人ヴィブラフォン奏者のアンサンブル、
マドリード=ニューヨーク・コネクション・バンドを率いたパキートの新作は、
ショーロの香り高い演奏を聞かせてくれるんです。
Trio Corrente  CORRENTE
パキートとショーロの関係でいうと、パキートは13年にブラジルのジャズ・トリオ、
トリオ・コレンチと共演して、グラミーのベスト・ラテン・ジャズ・アルバム大賞を
獲りましたね。ファビオ・トーレス(p)、パウロ・パウレリ(b)、エドゥ・リベイロ(ds)の
腕っこき3人によるトリオ・コレンチは、03年のデビュー作で
1曲目にピシンギーニャの「ラメント」、ラストがジャコーの「アサニャンド」を
演奏したとおり、ショーロのバックグラウンドをしっかりと持った音楽家たち。

トリオ・コレンチとの共演で、ショーロ独特の即興や対位法などを
習得したんじゃないでしょうか。特にクラリネットを演奏するパキートにとって、
ショーロとの親和性はもともと高かったように思いますね。

とはいえ、本作のレパートリーにショーロはなく、
キューバ、ベネズエラ、アルゼンチンといったラテン・アメリカを俯瞰したラテン・ジャズ。
それでいて演奏がジャズ・マナーではなく、ショーロ・マナーなのが本作最大の魅力。

1曲目のタイトル曲から、優美なクラリネットの音色にやられるんですけど、
8分6拍子のホローポのリズムをベースに、途中で巧みなリズム・スイッチをする
凝ったリズム・アレンジなど、相当にテクニカルな場面をも
さらりと聞かせてしまう技量の高さに舌を巻きます。

もう1曲パキートのオリジナルの 'Vals Venezolano' は、
タイトルが示すとおりカラカスの都市弦楽スタイルの曲。
ショーロとならぶ南米随一のインスト音楽ならではの、
高度な技量を要求する複雑なメロディとリズムが交錯する曲で、
見事な演奏を聞かせてくれます。

一方、クラリネット、ピアノ、ヴィブラフォンの3人で演奏した
エルネスト・レクオーナの 'A La Antigua' では、古風なピアノが聴けるなど
サロン風の演奏がノスタルジックな雰囲気を盛り上げます。
ゲストで2曲参加したアントニオ・セラーノのクロマティック・ハーモニカといい、
どこまでもワタクシのツボをさしまくってくれるアルバムです。

Paquito D'Rivera & Madrid-New York Connection Band  "LA FLEUR DE CAYENNE"  Sunnyside  SSC4563  (2025)
Trio Corrente  "CORRENTE"  Maritaca  5.071.359  (2003)

Alí Bello & The Charanga Syndicate
こちらはラテン・ジャズ正統派ですね。
ニュー・ヨークを拠点にラテンからR&B/ポップに、フラメンコ、タンゴ、アフリカまで
なんでもござれとばかりに活動してきたアリ・ベロは、ベネズエラ出身のヴァイオリニスト。

共演歴のあるアーティストをあげれば、パキート・デリベラ、エディ・パルミエリ、
ティト・プエンテ、ティピカ73、ルイ・ベガ、ドン・オマール、
ジェイ=Z&ビヨンセ、ザ・ルーツ、シカゴなど、そうそうたる大物たちがずらり並びます。

そのアリ・ベロが結成したチャランガ・シンジケートを率いる新作は、
アリのチャランガ愛がたっぷりと溢れた作品。
チャランガを現代的な解釈でリフレッシュさせつつ、
美しくエレガントに仕上げています。

アリのヴァイオリンとデビッド・サンチャゴ・ジュニアのフルートを軸に、
キーボード、ベース、コンガ、ボンゴによるアンサンブルで、
キーボードは曲によってアレック・コストロ、セサル・オロスコ、マーカス・ペルシアーニ、
ガブリエル・チャカルヒに、ゲストのアルトゥーロ・オファリル、
シルバーノ・モナステリオスの6人が交代で弾いています。
このほかのゲストにエディ・ゼルビゴン(fl)、
ジェレミー・ボッシュ(vo)、マノロ・マイネラ(vo)が参加。

ミゲル・マタモロスの ‘Son De La Loma’ や ‘El Manisero’ といったキューバン大定番に 、
ギジェルモ・ロドリゲス・フィフの37年のヒット曲 ‘Bilongo’、
エルネスト・レクオーナの ‘La Comparsa’ とチューチョ・バルデースの ‘Mambo Influeciada’ を
かけあわせた ‘La Comparsa Influeciada’ や、
ギジェルモ・カスティージョの ‘Tres Lindas Cubanas’ といった曲に加え、
アリのオリジナル2曲 ‘Gina's Groove’ とチック・コリアの ‘Armando’s Rhumba’ を
取り入れた ‘Amadeus’ Rhumba’ を演奏しています。

いずれの曲でもアリの現代的な解釈が施されていて、
8分の7拍子にアレンジした ‘El Manisero’ でも
ガブリエル・チャカルヒの攻めたピアノ・ソロが聴けるなど、シャープな演奏が快感です。
チャランガに新たな息吹を吹き込んだ快作ですね。

Alí Bello & The Charanga Syndicate  "ALÍ BELLO & THE CHARANGA SYNDICATE"  Circle 9  C90011  (2025)

Dafinis Prieto  3 Sides Of The Coin
くわぁ~、カッコえぇ~。
キューバ人ドラマー、ダフニス・プリエトのアメリカ滞在25周年記念作。
ダフニスが誰なのかも知らず、サンプルを聴いて、即オーダーしちゃいました。
変拍子を多用した楽曲や、曲中にリズムを何度もスイッチしたり、
ポリリズムをかたどったり、巧みなフィルを散りばめたりというリズム・アレンジが、
めちゃ自分好みのコンテポラリー・ジャズであります。

ダフニス・プリエトはラテン・ジャズ・ドラマーという紹介をされているようですが、
このアルバムを聴くかぎり、それほどラテンを押し出している感はないですね。
バイオを調べてみたら、ラテン・グラミーに何度もノミネートされて受賞歴もあり、
カリビアン・ジャズ・プロジェクトのメンバーだったこともあるんですね。

名前を意識したのは今回初めてだったんですが、調べてみたら
ヘンリー・スレッギルの目玉ジャケ(“EVERYBODYS MOUTH'S A BOOK” )や、
イェルバ・ブエナの “PRESIDENT ALIEN” で1曲叩いていたり、
ミシェル・カミロやD・D・ジャクソンのアルバムにも参加していて、
これまでも知らないうちにダフニスのプレイはずいぶん聴いていたようです。

それにしても、今作のダフニスのコンポジションがカッコよすぎ。
複雑なメロディ・ラインとリズムで構成された楽曲が、実にスリリングです。
イチベレ・ズヴァルギにも通じるようなコンポジションじゃないですか。
その難曲をドラムス、ピアノ、ベース、サックス兼フルートの4人が
完全無欠なアンサンブルで聞かせるんですね。
そして変幻自在なインプロヴィゼーションが、
パフォーマンスをハイパーなレヴェルに押し上げています。

リズムとアーティキュレーションのコンビネーションがこれほど豊かな演奏は、
そうそう聴けるもんじゃないですよ。やっぱりこれもキューバという出自ゆえでしょうか。

Dafnis Prieto Si I Si Quartet  "3 SIDES OF THE COIN"  Dafnison Music  010  (2024)

Celia Wa  FASADÉ
サトウキビ畑にフルートを持って立つ女性の足元に、
シンセサイザー、サンプラー、コントローラーが置かれているジャケットに、
この音楽の内容がすべて表現されていますね。
言うならば、フレンチ・カリブのネオ・ソウルでしょうか。

セリア・ワは、パリ生まれのグアドループ人フルート、キーボード、マルチ奏者。
幼い頃からグアドループのアフロ・カリビアン音楽に親しみ、
8歳の時にグウォ・カで使われるカ(太鼓)と横笛の演奏を学び、
サン=タンヌのマルセル・ロリア音楽学校に進んで、
わずか12歳でキンボル・ビッグ・バンドでステージ・デビューを果たしたという人です。

その後セリアはパリに戻ると、12年にワ・エレクトロ・カルテットを結成し、
グアドループの伝統音楽にソウル、ヒップ・ホップ、ジャズ、
エレクトロを取り入れる試みを探求していきます。
反植民地運動にもコミットして、アフロ・フェミニスト・ブラス・バンドの
30ニュアンス・ド・ノワールのメンバーの一員として、
グアドループの文化遺産に対するコミットメントとアイデンティティを主張しています。

そんなセリアのデビュー作は、
10年共に活動してきたキーボード奏者のグザヴィエ・ベランと、
ドラマーのクリストフ・ネグリットのトリオを中心に、ツアーで一緒のギタリスト、
ダヴィッド・ウォルターズを加えたメンバーで制作されています。
レーベル・メイトでもあるダヴィッド・ウォルターズは、
マルチニークにルーツを持つマルセイユ生まれのフランス人音楽家で、
UKマナーのアフロビーツを経由したカリビアン・ソウルを標榜する人でもあるので、
セリアと立ち位置を同じくする音楽家といえます。

セリアの歌とフルートに絡むエレクトロ・サウンドは、ネオ・ソウル寄りのポップなもので、
グアドループ新世代らしい平明さがあります。
パーカッシヴなグウォ・カの野性味はない代わりに、
クリストフ・ネグリットのドラミングにグウォ・カのリズムがトレースされていて、
シンプルに整理したリズム・フィギュアに新しさを感じます。
シンセがレイヤーされたサウンドの遠景に、
カのリズムがたゆたうドリーミーさなんて、シャレているじゃないですか。

同じくグアドループ出身のパーカッショニスト、ロジェール・ラスパイユほか、
コラ奏者ウスマヌ・クヤテのコラがゲストでフィーチャーされています。

Celia Wa  "FASADÉ"  Heavenly Sweetness  HS267CD  -2025-

↑このページのトップヘ