after you

bunboni こと 荻原和也 の 音楽案内所 musicaholic ブログ(隔日刊 2009年6月2日より)にようこそ。

『ミュージック・マガジン』7月号にディノ・ディサンティアゴのインタヴュー記事を寄稿しました。ぜひお読みください。

カテゴリ: 東アフリカ

Kin’Gongolo Kiniata  KINIATA
「押しつぶす音」というバンド名に、なんじゃそりゃと思ったら、
停電時に灯油を売る行商人が、灯りの代わりになる金属容器を
ガチャガチャ鳴らしながら、ストリートを歩く音に由来しているとのこと。
たぶんケロシン・ランプ(ジャケット右下にあり)のことなんでしょうね。

35年前にナイジェリアで体験したレゴスの夜を思い出します。
停電が日常のレゴスでは、夜に電気が点いているのは、
自家発が完備している高級住宅地のヴィクトリア島だけ。
レゴス島や本土側に渡れば、真っ暗な街並みの中に
ゆらゆらとケロシン・ランプが灯る脇に物売りがたたずんでいて、
車の中から眺めたその幻想的な光景が、目に焼き付いています。

キンシャサもまったく同じ状況なのでしょう。
キンゴンゴロ・キニアタは、ゴミの山からペットボトルや鍋やテレビなどの
ジャンク品を拾い出し、DIYで作った楽器を演奏する5人組。
なんだかかつてのスタッフ・ベンダ・ビリリを思い起こしてしまいますが、
あの当時からキンシャサの状況は改善していないどころか、悪化しているようです。

ジャケットには5人が演奏するハンドメイド楽器がイラスト化されていて、
バス・ドラムになったテレビや、洗剤のボトルを並べた木琴ならぬボトル琴が
描かれています。ライナーノーツのテキストに「アフロポップとコンゴリーズ・パンクと
実験的なエレクトロのミクスチャー」とあるとおり、
タフなストリート・ロッカーぶりがすがすがしい。
やぶれかぶれなパンキーな歌いっぷりも胸をすきます
2弦しかないベースがめちゃくちゃグルーヴィで、アフロ・ファンク濃度を上げていますよ。

ジュピテール&オクウェスに通じるオルタナティヴなセンスが好ましく、
ベブソン・ド・ラ・リュのタフな魅力に共通するのは、ゲットー育ちだからでしょうか。
ヨーロッパのプロデューサーがしゃしゃり出ずに、
バンドの個性を発揮した音作りが実現できているところもいいですね。

すでにヨーロッパ各国の音楽フェスに出演して話題をさらっているらしく、
スタッフ・ベンダ・ビリリのように成功に浮ついて
仲間割れを起こしたりしないよう、実直な活動ぶりを期待しています。

Kin’Gongolo Kiniata  "KINIATA"  Hélico  HWB58145  (2024)

Ukandanz  EVIL PLAN
向かうところ敵なしだな、ユーカンダンツ。
1曲目からエネルギッシュな音塊が飛び出してきて、圧倒されましたよ。
ホレボレしますねぇ、この轟音ロックぶりには。
ギミックなし、ストレートな剛腕が胸をすきます。

ユーカンダンツの新作は前作と同メンバー。ようやくこのメンバーに固定したようです。
アスナケ・ゲブレイエスのソウルフルなヴォイスに、鋼を思わせるこぶし回し、
狂おしくシャウトする歌いっぷりは、もうサイコー。
リオネル・マルタンのブチ切れサックスの咆哮も、あいかわらずキマってます。

今作のレパートリーも、エチオピア音楽黄金時代の
70年代クラシックスを中心にすえ、
テラフン・ゲセセが歌った ‘Yene Felagote’(エチオピーク第17集に収録)、
ゲタチュウ・カッサの ‘Liwsedsh Andken’ を取り上げています。
ムルケン・メセレの ‘Hedech Alu’ (エチオピーク第1集に収録)の前後には、
ダミアン・クリュゼルのオリジナルのインスト曲を2曲挟んでメドレーにしています。

‘War Pigs’ という英語のタイトル曲があるので、不思議に思ったら、
なんとブラック・サバスのカヴァーだと知り、ビックリ。
アスナケがアムハラ語で歌っているので、ぜんぜんわかりませんでした。
ブラック・サバスなんて聞いたことないので、オリジナル曲は知りませんけれども。

コンテンポラリーに洗練されていく現在のエチオピア音楽で、
ゆいいつ70年代の黄金時代のサウンドの質感を保って継承しているのが、
この轟音オルタナ・ロック・サウンドだというのが痛快ですね。

Ukandanz  "EVIL PLAN"  Compagnie 4000  CIE4018  (2025)

Mulatu Astatke and Hoodnna Orchestra
ムラトゥ・アスタトゥケの新作は、
テル・アヴィヴのアフロ・ファンク・コレクティヴ、フードナ・オーケストラとの共演。
メルボルンのエチオ・ジャズ・バンド、
ブラック・ジーザス・エクスペリエンスとの2作を経て、新たなるコラボレーションです。

イギリスのエクスペリメンタル・ファンク・バンド、ヘリオセントリックスや
マサチューセッツのビッグ・バンド、イーザー/オーケストラなど、
エチオ・ジャズに魅了された世界各地のミュージシャンたちとここ20年近く
共演を続けてきたムラトゥですけれど、
今回がもっとも往年のエチオ・ジャズをホウフツさせましたね。
演奏の熱量と完成度の高さは、過去のどのコラボも凌いでいますよ。

ホーン・セクションを前面に押し出して、
ドラムスを後方に追いやったミックスが功を奏して、
半世紀昔のムラトゥのエチオ・ジャズを、質感までも表現しているじゃないですか。
若いメンバーたちが新たに書き下ろしたオリジナル曲とアレンジで、
このサウンドをクリエイトしたのは、賞賛するに値しますよ。
再現や模倣といったレヴェルを超えたのは、
メンバーの真摯なアティチュードと情熱ゆえですね。

12年に結成されたフードナ・オーケストラは、
当初はアフロビートを演奏していたそうですが、
メンバーのギタリスト、イラン・スミランがサババ・5でエチオ・ジャズをやるなど、
徐々にエチオ・ジャズへと傾斜していった面々だそうです。

エチオピアのシンガー、デミシュ・ベレテを迎えてレコーディングするなどの助走を経て、
ムラトゥ・アスタトゥケとの共演を模索していたところ、
ムラトゥをテル・アヴィヴに招き、レコーディングとライヴを実現することに成功。
イラン・スミランとダプトーン・レコーズを主宰するニール・シュガーマンとの
共同プロデュースで、ニール・シュガーマンはサックスも演奏しています。

熱いブロウを聞かせるエイロン・トゥシナーのテナー・サックス、
グルーヴィなエイタン・ドラブキンのオルガン、
ディープなエラッド・ゲラートのバリトン・サックスなど、
フードナ・オーケストラのメンバーの熱いプレイとは好対照に、
アスタトゥケが演奏するヴァイブやピアノがめちゃめちゃクールで、
エチオ・ジャズ独特のオリエンタルな妖しさを醸し出しています。

ムラトゥ・アスタトゥケがエチオ・ジャズを生み出して半世紀。
国際的な評価を受けて以降の作品としては、
間違いなく本作が最高作ですね。

Mulatu Astatke and Hoodna Orchestra  "TENSION"  Batov  BTR103  (2024)

Orchestre Maquis Du Zaire & Orchestre Safari Sound  Zanzibara11
『ザンジバラ』シリーズもついに11集目かぁ。
アフリカ音楽のリイシューを地道に続けるのは、本当にたいへんなこと。
さほどセールスが上がるとは思えない分野だけに、
なおさらファンとしては感謝しかありません。

このシリーズを監修するのは、東アフリカ音楽研究家のウェルナー・グレブナー。
ブダで本シリーズがスタートする以前から、
グローブスタイルで多くのリイシュー名盤を手がけてきた人です。

東アフリカ音楽のリイシューでは、ダグラス(ダグ)・パターソンも
スターンズほか多くのレーベルから編集CDを出してきましたけれど、
おととし(22年)72歳で亡くなってしまったんですよね。
ダグラスのサイト East African Music  も閉鎖されてしまっただけに、
この方面の頼みの綱は、ウェルナーただ一人となってしまいました。

King Kiki
今回は、ザイール(当時)からやってきてタンザニアに定住した二つのバンド、
オルケストル・マキ・デュ・ザイールとオルケストル・サファリ・サウンドの編集盤で、
両バンドの音源をこれだけまとめて聞けるのは、今回が初。
これまでオルケストル・マキが聞けるのは、『ポップ・アフリカ800』に選盤した
ヴォーカリストのキング・キキの編集盤しかありませんでした。

Ndala Kasheba With International Orchestra Safari Sound
オルケストル・サファリ・サウンドは、
ぼくが持っているタンザニア盤LP(TFC (タンザニア映画公社)盤)に
収録されている ‘Garba’  ‘Dunia Msongamano’ 2曲が選曲されていて、
嬉しくなっちゃいました。

レコード・タイトル曲の ‘Dunia Msongamano’ は、コーラスの美しいハーモニーが絶品で、
リーダーのンダラ・カシェバが弾く12弦ギターのほか、複数台のギターが絡み合うなかで、
わん!わん!と犬が吠えるかのようなトリッキーな音を出すギターが耳残りする曲。
ぼくが大好きだった曲なので、選曲されたのは嬉しい限り。
このレコードは、タンザニア映画公社にとって
初LP(レコード番号が1番)だったことからも、
当時のサファリ・サウンドの人気ぶりがよくわかりますね。

Ndala Kasheba
余談ですけれど、リーダーのギタリスト、ンダラ・カシェバが晩年に残した名作
“YELLOW CARD” も『ポップ・アフリカ800』に選盤しました。

本編集盤は、タンザニア国営ラジオで録音されたマスター・テープを使用しているので、
音質も極上。
分厚いホーン・セクションに数多くのギタリストを擁した、
ぜいたくなオーケストラ・サウンドによる
80年代のムジキ・ワ・ダンシの充実ぶりを伝える名編集盤となっています。

Orchestre Maquis Du Zaire & Orchestre Safari Sound
"ZANZIBARA 11: CONGO IN DAR - DANCE NO SWEAT / 1982-1986"  Buda Musique  860400
Maestro King Kiki  "MAESTRO OF TANZANIA: ZILIZOPENDIWA 70s TO 80s"  Ujamaa  URKIKI01
[LP] Ndala Kasheba With International Orchestra Safari Sound  "DUNIA MSONGAMANO"  TFC  TFCLP001  (1984)
Ndala Kasheba  "YELLOW CARD"  Limitless Sky  no number  (2002)

Muluu Baqqalaa  DAMMAA SHOOLEE KIYYAA.jpg Muluu Baqqalaa  AKKANA DUBBIIN.jpg

こちらも在外エチオピア人の新作。
オーストラリア、メルボルン郊外フィッツロイに居を移した
オロモ人シンガー・ソングライター、ムル・バッカラの
デビュー作 “DAMMAA SHOOLEE KIYYAA” と、
2作目の “AKKANA DUBBIIN” を2イン1CD化した作品です。

注目はムル・バッカラがオロモ人だということ。
これまで在外エチオピア人歌手というとアムハラ人ばかりで、
オロモ人歌手とは初めての出会いなんじゃないかしらん。
オロモ人シンガー・ソグライターといえば、記憶に新しいのは、
20年に暗殺されたハチャル・フンデサでしょう。
https://bunboni.livedoor.blog/2021-10-19

オロモ人はエチオピア人口の3分の1を占める最大の民族でありながら、
長年抑圧され、迫害を受けてきた民族です。
ムル自身も幼少期に家族や親戚が拷問を受けたり、
死刑に処された隣人がいたりという過酷な体験をしていて、
そうしたトラウマが彼女に音楽表現へと向かわせたそうです。
YouTubeで観ることのできるムルのヴィデオには、
銃を手にして歌っている姿もあり、その歌の内容が察せられます。

19歳で学業を離れて音楽界入りし、07年にデビュー・シングルをリリース。
以後22枚のシングルを出しているというくらいだから、
エチオピア時代にオロモ・コミュニティで確固とした人気を築いたようです。
17年にオロモ・コミュニティの招きで、オーストラリアでコンサートを行い、
オロモ・ディアスポラの集まりで演奏するうちに、
多くの友人が政治犯として投獄されたことを聞き、
帰国するのはあまりに危険と、そのままオーストラリアに残ることにしたのですね。

デビュー作の “DAMMAA SHOOLEE KIYYAA”、
2作目の “AKKANA DUBBIIN” ともに、
エチオピア時代に残したシングルをまとめたアルバムらしく、
クレジットがないので詳細は不明ですが、YouTube のクレジットを参照すると、
おおむねクロノロジカルに並べられていると思われます。

過去15年近くにリリースした曲を集めてCD化することができたのも。
安全なオーストラリアという地に移ったからこそなのかもしれません。
CDリリースしたのは、「亡命中の音楽」を名乗る非営利レーベルで、
スーダン、中国、ケニヤ、エリトリアといったアーティストを手がけていて、
多文化主義を掲げたオーストラリアのレーベルならではでしょうか。

デビュー当初と思われる “DAMMAA SHOOLEE KIYYAA” の前半などは、
オロモらしいずんどこビートの似たような曲調が続き、
プロダクションの貧弱さは否定できません。
しかし “AKKANA DUBBIIN” になると、サウンドにヴァラエティが出て、
ギターやサックスが印象的な場面も多く出てきます。

そしてなんといっても、ムルのキレのある歌いっぷりがいいんです。
若さ溢れるデビュー時から、力量のある歌いぶりで、
コブシ回しの固さも歌にグルーヴを与えていて、聴きごたえがあります。

オーストラリアでの新録音も期待したい、オロモ・ディアスポラの逸材です。

Muluu Baqqalaa "DAMMAA SHOOLEE KIYYAA / AKKANA DUBBIIN" Music In Exile MIE028 (2023)

Minyeshu  Netsa.jpg

聞き逃していました。アムステルダム在住エチオピア人歌手ミニシュの新作。
2年も前に出ていたのかあ。
ジャケに見覚えがあるから、気付かなかったんじゃなく、
チェックを怠っていたみたい(反省)。

今作も充実していますねえ。鍵盤/ドラムス担当の
エリック・ファン・デ・レストが音楽監督を務めていて、
前作同様この人がサウンドのカナメとなっています。
https://bunboni.livedoor.blog/2018-12-20

冒頭、聞いたことのない楽器の不思議な音色に、
なんじゃこれ!?と、思わずジャケットのクレジットをチェックしました。
chechezeya とあるこの楽器、ダブル・リードの笛のような管楽器にも、
胡弓のような擦弦楽器にも聞こえます。

なんでも、エチオピアの北部と南部にある民俗楽器だそうで、
10年前にバンドのギタリストが田舎のお祭りで録音した音源を使っているそう。
インターネットにも情報がない謎の楽器で、
エチオピア研究の第一人者、川瀬慈さんに訊いてみても、
知らないというくらいだから、レア中のレアな楽器ですね。

この楽器が演奏する反覆フレーズが曲が進行するにつれ、
ホーン・セクションの演奏へとシームレスに繋がる演出も巧みで、
1曲目からいきなり引き込まれます。
地方のフォークロアを巧みにブレンドさせたハイブラウなサウンドで、
エリック・ファン・デ・レスト、いい仕事してます。
ウチコミをまったく使わない生演奏で、このクオリティはさすがです。

グラゲのリズムを使った ‘Erta Ale’ でのグルーヴィなベースとギターの絡みや、
ジャジーなオルガンの使い方、分厚いホーン・セクションの合間を
ワシントが縫うアンサンブルの組み立てなど、ウナりました。
バリトン・サックスも使い方も効果的だよなあ。

今作の新しい試みとしては、
南アの女性コーラス・グループ、アフリカ・ママスが2曲でゲスト参加したこと。
ズールー語で歌っているんですが、アムハラ語で歌うミニシュとまったく違和感はなく、
旋法はティジータ、リズムはレゲエの ‘Qhakaza Thando’ など、
見事な仕上がりを聞かせます。

在外エチオピア人音楽ではトップ・レヴェルというべき、
ミニシュの6作目でありました。

Minyeshu "NETSA" ARC Music EUCD2945 (2022)

Atse Tewodros Project  MAQEDA.jpg

エチオピア系イタリア人歌手兼作家兼パフォーマーの
ガブリエラ・ゲルマンディが結成したアトセ・テオドロス・プロジェクトは、
ガブリエラともう一人のエチオピア人男性歌手による男女ヴォーカルに、
マシンコ、クラール、ワシント、ケベロを演奏するエチオピア人ミュージシャンと
キーボード、ベース、ドラムスのイタリア人ジャズ・ミュージシャンによる混成隊。
パーカッショニストやワシント奏者は、
フェンディカを設立したメラク・ベライが09年に結成した、
エチオカラーのメンバーですね。
https://bunboni.livedoor.blog/2014-06-22

複雑な生い立ちのガブリエラは、
イタリアで移民作家として99年に文壇デビューし、
のちにみずからの人生のアイデンティティを音楽化したいと
アトセ・テオドロス・プロジェクトを立ち上げたといいます。

ガブリエラは母系制が根付く少数民族の民俗音楽調査を行い、
北西部のクナマ人、南部のガモ人や南西部のゴファ Goffa 人
(日本語解説の「コファ」は誤記)の伝統歌を取り入れ、
マケダー(「シバの女王」の数多くある伝承名のひとつ)の
伝説を本作で再解釈してみせたのですね。

エチオピア人ミュージシャンとイタリア人ジャズ・ミュージシャンとの
コラボレーションは理想的な協調を見せていて、
エチオピアの旋法とジャズのイディオムのバランスが絶妙です。
加えてゲストの起用も成功しています。

セネガル人パーカッショニストがサバールを叩いて、
エチオピアの太鼓ケベロと音域の異なる
パーカッション・アンサンブルをかたどっているのは、面白い試みです。
このほかコラ奏者が起用される曲もありますが、
ラップやビートボックスをフィーチャーする曲もあって、
伝統と現代のバランス感覚の良さを示していますね。
特に、ボディ・パーカッションとコーラスを交えたラスト・トラックは、
本作のハイライトといえます。

Atse Tewodros Project "MAQEDA" Galileo GMC110 (2024)

The Zawose Queens   MAISHA.jpg

タンザニアの偉大なる音楽家フクウェ・ザウォーセがこの世を去って、もう20年。
ザウォーセが遺した音楽は親族たちがしっかりと受け継ぎ、
https://bunboni.livedoor.blog/2009-06-04
https://bunboni.livedoor.blog/2012-04-27
現代的なアップデイトを試みるムサフィリという才能も生まれました。
https://bunboni.livedoor.blog/2017-09-14

そして今回、07年に出たザウォーセ・ファミリーの
“SMALL THINGS FALL FROM THE BAOBAB TREE” にも参加していた
フクウェの娘ペンドが、新たに孫娘のレアとコンビを組み、
ザウォーセ・クイーンズの名でアルバムを出したんですが、これが快作で嬉しくなりました。

ジャケットには女性専用の太鼓ムヘメを抱える二人が写っています。
ゴゴの女たちが横一列にずらりと並んで、ムヘメを両腿に挟んで叩きながら
肩を震わせて歌い激しく踊るさまは壮観で、ゴゴ人の代表的なダンスとして有名です。

本作では二人がムヘメを叩くばかりでなく、
イリンバ(親指ピアノ)やチゼゼ(フィドル)も演奏しているところが、快挙といえます。
フクウェ存命の頃は、これらの楽器を演奏するのは男性に限られていましたし、
フクウェ死後のザウォーセ・ファミリー(チビテ)でも、
女性メンバーはコーラスやダンスを担うだけでした。

アフリカ全般で女性が一部の打楽器を除いて楽器演奏を禁忌とする風習が
長く根付いてきたのは、音楽が宗教儀式と強く結びついていたからです。
しかし音楽が宗教から切り離されて世俗的になるにつれ、そうした因習も薄れ、
男女区別なく演奏が可能となってきたのは、まだまだ最近のことなのですね。
早くも70年代にジンバブウェでンビーラを弾いたステラ・チウェーシェは
先駆者であったし、ケニヤのニャティティ奏者スザンナ・オウィヨもまた、
タブー破りのイノヴェイターでした。
https://bunboni.livedoor.blog/2011-02-20

本作はゴゴの伝統をクリエイトしたフクェ・ザウォーセの遺産を未来へ繋ぐために、
女性が輝く新時代にふさわしい歩みが刻み込まれたところに意義があり、
リアル・ワールドはそれにふさわしいプロダクションをきちんと用意しています。
ヌビアン・ツイストのトム・エクセルがギターやベース、シンセなどで参加、
オリ・バートン=ウッドとともにプロデューサーとしても名を連ねています。
トムが参加するのは一部の曲で、控えめながら的確なサポートをしていて、
ザウォーセ・クイーンズのよき理解者として振舞っています。

最後の曲で、12年に南部高地ムベヤ地方で結成された
タンザニアの新しい伝統音楽バンド、ワムウィドゥカ・バンドがサポートしていて、
ザウォーセ・ファミリーの音楽を拡張する新たなチャレンジもみられます。

たしかザウォーセ・ファミリーには、
タブ、エステリ、ペンド、ンデークワ、サラという5人の娘たちがいて、
選抜された8人がチビテのグループ名で08年に来日した時、
ペンドはタブとともにやってきましたね。
ペンドのアフリカン・ママらしいたっぷりとした体つきと、
でっかい笑顔が印象的で、エネルギッシュなダンスには驚かされました。

孫娘のレアは今回初めて知りましたが、
ライナーの写真を見ると、やはり新世代らしい顔つきをしていて、
ペンドとの世代の違いを感じさせます。

時代とともに進化するザウォーセ・ミュージックのいまを捉えた快作です。

The Zawose Queens "MAISHA" Real World CDRW248 (2024)

Sahra Halgan  HIDDO DHAWR.jpg

ソマリランド出身のサハラ・ハルガンの3作目。
ソマリ音楽の片鱗も感じられなかったデビュー作から一転、
前2作目のローファイなロック・サウンドへの変貌ぶりには驚かされましたが、
新作ではさらにギアを上げたようです。

エチオ・グルーヴやデザート・ブルースに共通する、
ブルージーでディープなロック感覚をソマリ歌謡に持ち込んだ試みは、
ここに完成を見たといえる傑作になりましたね。

前作にはキーボードにオリエンタル・モンド・サウンドの鬼才
グラーム・ムシュニクが参加していましたが、今作はレジス・モンテに交代。
91年にハルガンがフランスへ亡命して以来、
リヨンでともに音楽活動をしてきた仲間の二人、
ドラムスのエメリック・クロールとギターのマエル・サロートは不動です。

エメリック・クロールは、マリの伝統音楽をアップデートするグループ、
ベカオ・カンテットのドラマー。
そしてマエル・サロートは、スイス、ジュネーブのポスト・ロック・バンド、
オルケストル・トゥ・プイサン・マルセル・デュシャンのギタリストです。

ハルガンとエメリック、マエルの3人で制作したデビュー作では、
エメリックとマエルがソマリ音楽を理解していなかったため、
無国籍音楽のような仕上がりになってしまいましたが、
その後ハルガンが、二人にソマリの伝統リズムを仕込んだのでしょう。
前作では、ハルガンのウルレーション(ソマリ語では「マシュハッド」と呼ぶそう)が
効果を上げていたように、ソマリの伝統音楽の要素を前面に押し出し、
ソマリの大衆歌謡カラーミをアップデートしたサウンドも聞かれるようになっていました。

新作はその路線をさらに推し進めて、ソマリのグルーヴをベースに、
多彩なリズムや曲調でサウンドを彩り、そこにギターのダーティなトーンや
ロック・スタイルでパーカッション的なプレイを聞かせるドラムスが、
これまでにないソマリ新時代のワイルドな音楽を生み出しています。

ハラガンの痙攣するヴォーカルが、ヘヴィーなギターにヴィンテージ・サウンドのオルガンと
シンバルの乱打が交錯するオープニングから強烈です。
タイトル曲の ‘Hiddo Dhawr’ なんて、ソマリの民謡ロックそのもの。
なかでも聴きものは、ハルガンがラップする ‘Lamahuran’。
高らかにマニフェストを宣言するかのような ‘Hooyalay’ なんて、
「戦闘員」とアダナされたハルガンの真骨頂じゃないですか。

Sahra Halgan "HIDDO DHAWR" Danaya Music DNA001CD (2024)

Rapasa Nyatrapasa Otieno  JOPANGO.jpg

ケニヤ西部ヴィクトリア湖畔シアヤ生まれのラパサ・ニャトラパサ・オティエノは、
ルオの伝統楽器ニャティティを弾きながら、ルオの民話をモチーフにした
自作曲を弾き語るシンガー・ソングライター。
現在は北部イングランド、ニューカッスル・アポン・タインを拠点に活動しています。

ラパサの21年の前作 “KWEChE” を聴いた時、
ルオ独特の前のめりに突っ込んでくるビート感がなくて、平坦なリズムに終始しているのに、
昔のアユブ・オガダを思い出し、ガッカリしました。
アフリカの伝統音楽家で、欧米に渡って白人客だけを相手にするようになると、
音楽の姿勢が歪んでくる人がいるので、この人もその部類かなと。

いまではアユブ・オガダを知っている人もほとんどいないでしょうが、
昔リアル・ワールドからCDを出し、来日したこともあるニャティティ奏者。
この人の場合、キャリアの始めから西洋人を意識した音楽をやっていた人だから、
ぼくは、伝統音楽を装ったインチキな音楽家と見なしていました。
オガダを気に入ったピーター・ガブリエルの審美眼って、お粗末だなあと。

話が脱線しちゃいましたが、
そんなわけでラパサの新作もまったく期待していなかったんですけど、
これが存外の出来で、見直しましたよ。

ひとことでいえば、ポップになっているんですよ。
前作ではニャティティの弾き語りをベースに、
曲によってベース、ギターなどがごく控えめにサポートするだけだったのが、
今作は男女コーラスも配して、ウルレーションも炸裂する
華やかなサウンドになっています。

ベンガのビート感はまだ弱いとはいえ、なるほどベンガだと思わせる曲もあって、
サウンドメイクをポップにしながら、
ソングライティングはベンガのルーツを掘り下げたことがうかがわれます。
反復フレーズを強調した曲が増えたこともそのひとつで、
しつこく繰り返す反復フレーズによってダンスを誘い、トランスへと招きます。

なんでも本作の制作にあたってラパサは、
ベンガのパイオニアたちの音楽を研究したそうで、その成果が表れたんでしょう、
クレジットをみると、ルオの一弦フィドルのオルトゥほか、
数多くのパーカッションや笛などのルオの伝統楽器が使われています。
ラパサが8弦楽器オボカノを弾く ‘Adhiambo’ も聴きもの。
オボカノはルオに隣接して暮らすグジイ人の伝統楽器で、
クリーンな音色のニャティティと違って、強烈なバズ音を出します。

ひとことイチャモンをつけたいのは、2曲目の ‘Unite’ だな。
タイトルからもわかるとおりの空疎なメッセージ・ソング。
アフリカのミュージシャンが唱える Unite くらい、現実味のないものはなく、
ぼくはこのワードを発するアフリカ人音楽家の薄っぺらさが、ガマンならんのですよ。
この曲がなかったらよかったのに。

Rapasa Nyatrapasa Otieno "JOPANGO" no label no number (2023)

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