
「押しつぶす音」というバンド名に、なんじゃそりゃと思ったら、
停電時に灯油を売る行商人が、灯りの代わりになる金属容器を
ガチャガチャ鳴らしながら、ストリートを歩く音に由来しているとのこと。
たぶんケロシン・ランプ(ジャケット右下にあり)のことなんでしょうね。
35年前にナイジェリアで体験したレゴスの夜を思い出します。
停電が日常のレゴスでは、夜に電気が点いているのは、
自家発が完備している高級住宅地のヴィクトリア島だけ。
レゴス島や本土側に渡れば、真っ暗な街並みの中に
ゆらゆらとケロシン・ランプが灯る脇に物売りがたたずんでいて、
車の中から眺めたその幻想的な光景が、目に焼き付いています。
キンシャサもまったく同じ状況なのでしょう。
キンゴンゴロ・キニアタは、ゴミの山からペットボトルや鍋やテレビなどの
ジャンク品を拾い出し、DIYで作った楽器を演奏する5人組。
なんだかかつてのスタッフ・ベンダ・ビリリを思い起こしてしまいますが、
あの当時からキンシャサの状況は改善していないどころか、悪化しているようです。
ジャケットには5人が演奏するハンドメイド楽器がイラスト化されていて、
バス・ドラムになったテレビや、洗剤のボトルを並べた木琴ならぬボトル琴が
描かれています。ライナーノーツのテキストに「アフロポップとコンゴリーズ・パンクと
実験的なエレクトロのミクスチャー」とあるとおり、
タフなストリート・ロッカーぶりがすがすがしい。
やぶれかぶれなパンキーな歌いっぷりも胸をすきます
2弦しかないベースがめちゃくちゃグルーヴィで、アフロ・ファンク濃度を上げていますよ。
ジュピテール&オクウェスに通じるオルタナティヴなセンスが好ましく、
ベブソン・ド・ラ・リュのタフな魅力に共通するのは、ゲットー育ちだからでしょうか。
ヨーロッパのプロデューサーがしゃしゃり出ずに、
バンドの個性を発揮した音作りが実現できているところもいいですね。
すでにヨーロッパ各国の音楽フェスに出演して話題をさらっているらしく、
スタッフ・ベンダ・ビリリのように成功に浮ついて
仲間割れを起こしたりしないよう、実直な活動ぶりを期待しています。
Kin’Gongolo Kiniata "KINIATA" Hélico HWB58145 (2024)