after you

bunboni こと 荻原和也 の 音楽案内所 musicaholic ブログ(隔日刊 2009年6月2日より)にようこそ。

Searching for good music of the world

カテゴリ: 日本

和久井沙良 utas
オール・スタンディングの会場はさすがにもうツライお年頃なので、
椅子席の会場で和久井沙良を観られるチャンスを、ずっとうかがっていました。
23年11月30日にビルボードライブ横浜で、
ぷにぷに電機との対バン・ライヴを観てるんですが、
ソロ・コンサートは今回の2月10日、晴れたら空に豆まいてが初。
同じこと考えてる人はぼくだけではなかったようで、客層は存外に高齢者率高し。

Four Elements とバンド名を付け、イシイトモキ (g)、髙橋佳輝 (b)、
上原俊亮 (ds)と4人のバンド・セットを押し出す予定のライヴのはずが、
なんとイシイトモキが急病で欠。 Four Elements minus one となってしまいました。
あわてて3日前に3人でのアレンジに組み立てるリハをやったと、
和久井がMCで明かしていましたが、
すでにこのメンバーで1年以上ライヴ活動も続けているだけあって、
イシイの穴埋めは3人が分担して、申し分のないバンド・サウンドを聞かせてくれました。
和久井沙良 1
上原俊亮、カッコいい~。
涼しい顔してドラムスを叩くんだけど、そのプレイは超ド級のテクニックを聞かせていて、
クールな表情と激アツなプレイの落差の激しさに圧倒されました。
姿勢がいいんだよね。体軸がブレなくって。これって、名ドラマーの基礎体力だよな。
曲を膨らませる音楽性の高さがスゴくって、いやぁ、ホレました、マジで。
石若駿を凌ぐ逸材ですよ。上原の経歴は和久井の前回の記事を見てね。

クールな上原に対して、和久井のピアノは熱い。
エンジンがかかってくると、自分でもガマンしきれずエモーションが溢れ出てくる感じ。
そして高橋のベースはすごく緻密。超高速リックの音列のキレイなことといったら。
5弦ベースでハーモニーを作り出して、
イシイのギターをカヴァーするプレイを披露していました。
和久井沙良 2
会場で販売していた見たことのないCDは、
1週間前に配信リリースされたばかりの初のEPで、なんと歌ものアルバム。
フィジカルはライヴ会場限定のようで、これはラッキー。
これまでのアルバムでは、歌はゲストに任せていたので、全曲自身が歌ったのは初ですね。
『INTO MY SYSTEM』やリオランのアルバムで、
ちらっと歌っていたのがすごく良かったので、
もっと歌えばいいのにと思っていただけに、これは嬉しい。

ライヴでもEPの曲を披露してくれましたが、ライヴから帰ってあらためて聴くと、
これがとびっきりいい。バンド演奏ではなく、イシイのギター以外は
すべて和久井がトラックメイクしていて、
ラッパーの Pecori が1曲でゲスト参加しています。
フックの効いた楽曲揃いで、リオランで発揮されていた
ハイブリッドなポップ・センスが存分に展開されています。
リリックもピリッとしていて、う~ん、ほんとスゴイ才能だなあ。
これ、一般販売すべきだよ。

和久井はライヴで、曲のストックは山ほどあると語っていたけれど、
この人の中には、まだ引き出されていない世界がいくらでもありそうですね。

和久井沙良  「utas」  アポロサウンズ  APLS2603 (2026)

屋良ファミリーズ 全曲集
うわぁ、ついに復刻されましたか。
沖縄民謡の名グループ、屋良ファミリーズのコンプリート集。
これは快挙ですよ。いやぁ、どれくらいCD化を待ち望んだことか。

屋良ファミリーズについては、
洋楽とチャンプルーした異色曲が2000年を越えたあたりに再評価され、
レア・グルーヴという予想外な方向からコンピレに収録されたり、
シングル盤が復刻されたことがありました。

しかしクラブDJが飛びつくような録音以前の、
伝統的な沖縄民謡時代の曲を含めて復刻されることはついぞありませんでした。
フォーシスターズやでいご娘が、初期CD時代の96年に復刻されていたのに比べ、
屋良ファミリーズがかなり遅れを取っていたことは事実でしょう。
屋良ファミリーズ  琉球民謡集
66年にマルタカから出た屋良ファミリーズゆいいつのレコードを
昔から愛聴していた自分にとっては、CD化は長年の悲願でした。
というのも、屋良ファミリーズは、そのポップ・センスとグルーヴ感において、
フォーシスターズやでいご娘を凌ぐ魅力のあるグループだからです。
そのポップ・センスが後年に「ボサノバ・ジントーヨー」「ゴーゴー・チンボーラー」という
怪曲を生み出し、バツグンのグルーヴ感が「ナナサンマル音頭」で発揮されました。

今回の復刻CDは、初期のマルタカ時代(65-68)の14曲に、
RBC(琉球放送)時代(66-69)のシングル4曲
(「ボサノバ・ジントーヨー」「ゴーゴー・チンボーラー」「白浜ブルース」「海やからー」)に、
78年に音工から出た交通方法変更のキャンペーン・シングルの2曲
(「ナナサンマル音頭」「交通安全数え歌」)がまとめられています。

レア・グルーヴ趣味から屋良ファミリーズに接していた若いファンには、
ぜひマルタカ時代の沖縄民謡を聴いてもらって、その魅力を発見してもらいたいな。
朝健のバチさばきを大フィーチャーした
「太鼓囃子と安里屋ユンタ」のグルーヴは、古びることがありません。

ブックレットには、次女の広美さんと三女の久枝さんのインタヴューから得られた
バイオグラフィのほか、全レコード・シングルのジャケットが載せられ、
貴重な写真も多数掲載され、申し分のない復刻となっています。

「ルーツ・オヴ・チャンプルー」と呼びたいポップな沖縄音楽がここにあります。

屋良ファミリーズ  「屋良ファミリーズ 全曲集」  トロピックナイト TNR006
[LP] 屋良ファミリーズ 「琉球民謡集」  マルタカ TR5004  (1966)

和久井沙良 The Little Cycle
3年前のデビュー作にノック・アウトを食らい、
次元が違うとしか言いようのない才能に圧倒された和久井沙良。
昨年の2作目でもアグレッシヴな攻めの姿勢に変化はなく、
快進撃そのものでしたけれど、新作では肩の力が抜けたのを感じさせる仕上がり。

トリッキーな要素が減って、アンサンブルが落ち着いたような印象がありますね。
単に聴き手のこちらの耳が慣れた、てことなのかもしれませんけれど。
これまで幅広い音楽性を縦横無尽に展開してきたなかで、
エレクトロやビート・ミュージックの側面を今後強く打ち出していくのかと予想していたら、
まったくの逆で、バンドのライヴ感を打ち出す方向にシフトしています。

ベースが森光奏太から高橋佳輝に替わり、和久井のピアノ、
上原俊亮のドラムス、イシイトモキのギターを中心に、シンガー2人が参加。
フィーチャリング・ゲストが少ないのも今作の特徴でしょうか。
このバンドでツアーをやってきて手ごたえを感じ、自信を深めたのでしょう。

急速調の「Bulldozer」、ピアノとドラムスのデュオの「QREA」も、
シカケが多いアレンジなんだけれど、驚かしてやろうみたいな気負いがなくて、
のびのびとインタープレイを楽しんでいる感じがいい。
楽器同士が会話しているのが、聴き取れますよ。
タイトル曲の「Little Cycle」は、和久井らしいプログレッシヴな作風なんだけれど、
過度な演出よりも、バンド・アンサンブルで勝負している感じ。

細分化されたビートを叩く上原俊亮の打音がすごくきれいで、
聴くたびに感心するんだけれど、この人の経歴を知って驚きました。
父親はなんと、りんけんバンドのベーシストの上原顕だったんですね。
3歳でドラムを始め、10歳でりんけんバンドに加入して8年間活動。
りんけんバンドをやめた後、18歳でバークリー音楽大学に入学したんだそうです。

バークリーを休学して帰国後、セッション・ミュージシャンとして頭角を現し、
藤井風のセカンド作収録の「やば。」を叩いたのも上原だったんですね。
そして上原は藤井のアリーナ・ツアー(22~23)にも帯同してプレイしました。
神保彰を思わすスタイルは、ぼくの大好きなタイプのドラマーです。

mimiko の歌をフィーチャーしたネオ・ソウル風味のダンス・トラックの「Patterns」は、
スロウなパートも生かした歌もの。生演奏のグルーヴ感がナチュラルでいいなあ。
楽曲にもヒネったところがなくて(インタールードは結構凝ってるんだけど)、
生演奏のアンサンブルを重視した本作を象徴したトラックになりましたね。

和久井沙良  「THE LITTLE CYCLE」  アポロサウンズ  APLS2506  (2025)

吉原祇園太鼓セッションズ
地元民から「おてんのさん」と呼ばれる吉原祇園祭は、
6月に静岡県富士市吉原の6つの神社が合同で行うお祭り。
江戸時代から続く伝統あるお祭りゆえ、
吉原の人たちにとってお囃子の音や太鼓のリズムは、
子供の頃から身近で身体に染み込んでいるんでしょうね。

吉原祇園太鼓セッションズは、大太鼓、小太鼓、鉦、篠笛という和楽器に、
ギター、ベース、ドラムス、サックス、パーカッションの洋楽器による9人組。
音楽を自覚的に聴く以前から血肉化された祭囃子と、
自分たちが聴いてきたロック、ファンク、レゲエを無理なく溶け込ませた
気負いのなさが、とても爽やかです。

土台はあくまでも和太鼓と囃子であって、土地に根差した者の強みを生かした試みは、
沖縄音楽や河内音頭に匹敵するものです。
結成10年というキャリアが、地に足の付いたクロスオーヴァーぶりに繋がってるようで、
昨年聴いたアジャテとも通じるものを感じていたら、
アジャテのジョンいえまだが参加している曲もありました。

宮太鼓やお囃子にまじって、カヴァーされる選曲がめちゃくちゃ楽しい。
ピー・ウィー・エリスの名ファンク・ナンバー 'The  Chicken'、
細野晴臣の「蝶々さん」、60年代に世界的ヒットとなった
フィリピン民謡「ダヒル・サヨ」に、ブッカー・T&ザ・MGズの 'Soul Limo' と来るんだから、
もうたまりません。
どの曲もへんにヒネったりせず、ストレートにカヴァーする姿勢がすがすがしくて、
そこが彼らの魅力につながっていますね。

吉原祇園太鼓セッションズ 「Taiko!」 テンテケ  YGTS002  (2025)

きつねのトンプソン FOX  きつねのトンプソン TIGER
いにしえのラグタイムやフォックストロットを、
ブルーグラスとクラシックとジャズを借りて演奏するユニークなグループ、
きつねのトンプソンを知ったのは、5月に出たアルバムがきっかけ。
ライヴを観てみたいと思ったら、
ちょうど発売記念ライヴ・ツアー中だというじゃないですか。
8月9日にカヴァー集も出るというので、
それならせっかくだからと、発売日に合わせたライヴを予約しました。

銀座ロッキートップというハコは初めて。ブルーグラスのライヴハウスだそうです。
会場に着いて、さっそく新作の『TIGER』を木琴奏者の小山理恵さんから購入。
5月に出た『FOX』と姉妹編的なデザインになっていて、
ジャケットを開いた状態で2枚を組み合わせると、
バンジョーを持ったキツネとトラが扉のところに立っているおうちの中が現れるという、
かわいらしいデザイン。このイラストもデザインも小山さんが手がけています。

ライヴは『FOX』の1曲目、小山さんのオリジナル曲「Thompson a Go-Go」からスタート。
2曲目はなんとチャーリー・パーカーの「My Little Suede Shoes」。
いきなりぼくの大好きな曲が出てきてニンマリしていたら、『TIGER』の1曲目なんだね。
演奏している4人からこぼれる笑みがとてもステキで、
心底自分たちが愛している音楽をやっているのが伝わってきます。
こんなに笑顔が似合うグループも、なかなかいないんじゃないかなあ。
きつねのトンプソン 0809_3
その笑顔を裏打ちしているのが、4人の高い演奏力。
持てる能力の6割程度しか出していない感じの余裕シャクシャクな演奏ぶりがニクイんです。
眉間にシワ寄せて必死になったりなどしないから、笑顔もこぼれようというものだよね。
それでいてスピード感溢れる小山理恵のマレットさばきや、
流麗に指板を踊る小寺拓実の左指には、ただただ圧倒されるばかりで、
二人の超絶技巧はマジすごかった。

その二人を支えるリズム・セクションにも感心しきり。
吉島智仁のドラムスの弱音プレイは、デリカシーの塊でしたよ。
こんなに弱音の上手いドラマーって、ほかに知らないなあ。
ニワトリやアヒルのおもちゃも駆使して、愛らしい即興を繰り広げたり、
柔軟にリズムを変化させてアンサンブルをまとめ上げていました。

そして手島昭英のベースの安定感と軽やかさは、まさしくヴェテランの味わい。
なんだかかつてのオマさん(鈴木勲)を観てるみたいだったなあ。
途中弓を持ったりしたので、アルコ奏法をするのかなと思う場面もあったけれど、
結局弓での演奏はありませんでしたね。
きつねのトンプソン 0809_1
新作のカヴァー集『TIGER』のレパートリーで驚いたのは、選曲の意外さ。
ジャコー・ド・バンドリンの「O Vôo Da Mosca」には、ショーロ・ファンのぼくも驚いた。
62年6月録音のヴァルサなんだけど、この曲をカヴァーしている人なんていたかなあ。
ジャンゴ・ラインハルトの「Rhythm Futur」も、こんな曲あったっけ?と、
思わずジャンゴ・ボックスを取り出してチェックしちゃいましたよ。

超マニアックな選曲なのに、マニア臭だとかスノッブな感じがまるでしないのがいいよね。
すずめのティアーズとか若い世代に共通する感覚だと思うんだけれど、
屈託がないんだよね、音楽に接する態度が。
こだわりのなさが、音楽を創作するうえですごく強みになっている。
理屈じゃなくて好きだから、という一点突破で成功しているように思えます。

オリジナル録音の「O Vôo Da Mosca」は、
ジャコーが一人でばりばりバンドリンを弾いているだけなんだけど、
きつねのトンプソン版では、小山がジャコーのメロディを弾き、
小寺がハーモニーを付けてリズムを途中で変化させるなど、アレンジも凝っています。
「子犬のワルツ」を2拍子のラグタイムに変えたり、
リズム・アレンジの妙もこのアルバムの聴きどころになっていますね。

このライヴハウスでは3セットやるのが常なのだそうで、
たっぷり聴かせてもらえたんですけれど、最後の3セット目がスゴかった。
TBSのヴァラエティ番組『モニタリング』じゃないけれど、
それまで6・7割の力しか出していなかったのを、能力を完全解放。
20年代のバンジョー・チューンで聞かせた小寺の超絶技巧には目を見張ったうえ、
吉島のツー・ビートのグルーヴが凄まじかった。
弱音プレイから強力なグルーヴまでをこなす振り幅の大きさに、
吉島の才能がくっきりと示されていましたね。

さらに圧巻だったのが、オーネット・コールマンの 'Ramblin''。
『TIGER』収録のデイヴ・ブルーベックの超有名曲「Blue Rondo à la Turk」を、
小山は録音するまで知らなかったとMCで言っていたくらいだから、
オーネットの曲など知る由もなかっただろうけど、よくぞ選曲したもの。
アレンジの見事さは、かつてのデイヴィッド・サンボーンのカヴァーを勝ってたぞ。
メンバーのソロばかりでなく、全員のアンサンブルのダイナミズムがスゴかった。
この夜のハイライトでしたよ。

家に帰って翌日『TIGER』を聴いたら、なんと 'Ramblin'' は入っていない。 
ひょっとして初演だったのかしらん。
素晴らしい演奏だったので、次のアルバムにはぜひ収録を期待しています。
きつねのトンプソン 0809_2
きつねのトンプソン  「THE FOX IN TIGER’S CLOTHING VOL.1 FOX」  プレハブ PFR002 (2025)
きつねのトンプソン  「THE FOX IN TIGER’S CLOTHING VOL.2 TIGER」  プレハブ PFR003 (2025)

きつねのトンプソン  THE FOX IN TIGER’S CLOTHING VOL.1 FOX
脱帽。
こんなチャーミングな音楽をやっている人たちが日本にいるなんて。
木琴、バンジョー、コントラバス、ドラムスの4人のインスト・バンド。

ラウンジー・ミュージックのような肩の凝らない親しみやすさがあって、
メンバーが書くオリジナル曲は、めちゃくちゃキュート。
トイ・ミュージックを思わせるほっこりとした感触があります。
グループ名の由来であるフォックストロットやラグタイムといった
古い音楽の香りはしつつも、ノスタルジーを強調しているわけじゃありません。

風通しのいい軽やかな演奏ぶりにうっかり聞き逃しそうになるんですが、
各メンバーの技量は相当なものですよ。じっくりメンバーのソロを聴くと、
とんでもないテクニックを披露しているのがわかります。

バイオをみると、木琴の小山理恵はクラシックや現代音楽のマリンバ奏者で、
卓上木琴に興味を持って、日本で唯一の卓上木琴奏者になったといいます。
バンジョーの小寺拓実はブルーグラスのバンジョー奏者で、
18年に全米バンジョー・コンテストで準優勝を果たしたという猛者。
初老のコントラバス奏者、手島昭英もブルーグラスのプレイヤーで、
ドラムスの吉島智仁はポール・モチアンを敬愛するジャズ・ドラマー。

クラシック、ブルーグラス、ジャズとバックグラウンドの違う4人が出会って
この音楽が生まれたというのも、聞けば納得できますね。
唯一無比の音楽性がむちゃくちゃ個性的なグループ、というかコンボかな。

小寺が作曲した「Foxology」なんてビバップそのもので、
レッド・ノーヴォ・トリオのギターをバンジョーに代え、
ドラムスを加えたらかくやといった仕上がり。
最初に聴いた時は、あまりの斬新さに笑いがとまりませんでしたよ。
8月には全曲カヴァーの「VOL.2」をリリース予定とのこと。
ラグタイムにモダン・ジャズ、ショーロ、ショパンの曲もやるようで、
めちゃ楽しみです。

きつねのトンプソン  「THE FOX IN TIGER’S CLOTHING VOL.1 FOX」  プレハブ  PFR002  (2025)

YMO 1979 TRANS ATLANTIC TOUR LIVE
イエロー・マジック・オーケストラの世界進出の第一歩を記した、
79年8月4日ロス・アンジェルス、グリーク・シアターでのライヴ映像が、
生涯ベストのライヴ・ヴィデオであることは、大昔に書きました。
そのグリーク・シアターからスタートした
トランス・アトランティック・ツアーの全貌を収めた
ライヴ・ボックス・セットがついに発売。
予約した1月から、首を長くして待っていましたよ。

『PUBLIC PRESSURE』のもととなった5つの会場のライヴ音源は、
のちに『FAKER HOLIC』として2枚組CDに編集されましたが、
今回のボックス・セットでは、会場ごと5枚のCDにコンプリート収録されました。
大昔の記事で書いたように、渡辺香津美のギターが眼目であるぼくにとっては、
あらためて香津美の即興のスゴさに圧倒されました。

香津美が長いソロを弾くのは、「1000 Knives」「Tong Poo」の2曲なんですが、
どの会場のライヴでも即興がまったく違うんですよ。
使い回しのフレーズなんて、まったく出てこない。
毎回違うアイディアでソロを構成していて、真のインプロヴァイザー、ここにありです。

そしてその香津美に神が降臨したとしか思えない、神がかりソロが聴ける
グリーク・シアターでのライヴ映像は、2000年に東芝EMIから出た
『YMO 1979 TRANS ATLANTIC TOUR』と同内容のブルーレイ・ディスク化。
画質がグンとクリアになったのには、カンゲキしました。
ユキヒロと香津美がアイ・コンタクトして笑い合う「Cosmic Surfin'」でのシーンとか、
ノリノリの矢野顕子のイキイキとした笑顔がめちゃくちゃクリアになっていて、
あー、長生きはするもんだと(笑)。

映像はDVD化された時のものと同じで、ブルーレイ化しただけかと思いきや、
ちゃんと手も加えているじゃないですか。
82年にビクターからヴィデオ・ソフトで出た時から気になっていた
「Tong Poo」の冒頭のテーマ部分で、
坂本龍一が左手で弾くアープ・オデッセイのミス・トーンをリカヴァーしています。
短いフレーズだけど悪目立ちしてる箇所なので、
「あちゃ~、やっちまった」っていうシーンだったんですよねえ。
ここをちゃんと修正したとは、丁寧な仕事してるなあ。
細野晴臣が監修したそうなので、「ここ直してあげてよ」と口添えしたのかも。

DVD時とは比べ物にならないクリアな映像で堪能できる
グリーク・シアター・ライヴの完成形ですね。
このあと、ニュー・ヨークのハラーでのライヴ映像も収録されていますけれど、
ライヴ映像作品史上ワースト1位間違いなしの最低最悪の編集なので、
こればかりはブルーレイ化しても救いようがありません。

Yellow Magic Orchestra 「YMO 1979 TRANS ATLANTIC TOUR LIVE ANTHOLOGY」 ソニー MHCL3131-6

Ayumi Ishito ROBOQUARIANS, VOL. 2
昨年初めて石当あゆみというサックス奏者を知って、
ノー・ウェイヴが蘇った!とコーフンしたんですが、
年明け1月3日に出た新作を聴いて、ますますその感は強まりましたよ。

新作はドラムスとギターのベースレスのトリオ編成なんですが、
ロナルド・シャノン・ジャクソンとジェイムズ・ブラッド・ウルマーのコンビを思わす、
ケヴィン・シェイのドラムスとジョージ・ドラグンズのギターにブッとびました。
だけど、レーベル元の577がこのトリオを紹介するテキストには、
「パンク」としか表現していないんですね。
ぼくにはオーネットのプライム・タイムとしか聞こえないんだけどなあ。

ケヴィン・シェイは、90年代からアヴァン・ジャズや
実験音楽のシーンで活動してきたヴェテランで、
ヴァーノン・リード、マーク・リーボウ、メルヴィン・ギブス、
グレアム・ヘインズなどとの共演歴を持っている人だそう。
一方、ジョージ・ドラグンスはハードコア・シーンで活躍するギタリストで、
灰野敬二あたりと近い音楽性の持ち主のよう。

シェイとドラグンズは、90年代半ばにエクスペリメンタル・ロック・バンドの
ストーム&ストレスのメンバーとして一緒に演奏した同士で、
どうやら二人ともオーネット・コールマンとはホントに関係なさそう。
それなのに、なんでこれほどハーモロディックなトーナリティを聞かせるのか。
う~ん、ナゾだなあ。

石当のサックスは、もはやサックスとはわからないほど
エフェクトでめちゃくちゃに加工していて、シンセやワウワウやリコーダーなど、
さまざまな楽器の音色を模倣しています。
ドラムスとギターが奔放に暴れ回る後方で、
もごもご、ぷかぷかと珍妙な音色を繰り広げたり、
空を切り裂くようなエッジの効いたシンセの音色で、
ダビーな空間を生み出していったり、
たえずアンサンブルに緊張をもたらす役回りをしているんですね。

オーネットと違うのは、はっきりとしたメロディのあるテーマがなく、
オーネット・ミュージックの「おもしろうてやがて悲しき」みたいな
ユーモアやアイロニーとは無縁なところでしょうか。
3人の混沌とした即興は、やはりオーネットではなく、
ハードコア・パンクのザ・メステティックスの方が近いのかも。
奔放でアナーキーだけれど、どこか整合感のある集団即興。
定型のビートから外れたリズムで煽り立てる変幻自在なドラミングがもたらす、
ハーモロディック的快感が、ぼくにとってこの音楽の最大の魅力です。

Ayumi Ishito "ROBOQUARIANS, VOL. 2"  577  5934-2  (2025)

馬場智章  ELECTRIC RIDER.jpg

うおぅ~、攻めてるなあ。
これぞ21世紀のエレクトリック・ジャズですね。
アンサー・トゥ・リメンバーでもパワフルなブロウを聞かせていた
テナー・サックス奏者馬場智章の3作目を数えるメジャー・デビュー作。

馬場とBIGYUKIのキーボード、韓国人ドラマーのJK Kimという、
サックス、キーボード、ドラムスのトリオを軸に、曲により
ウィーディー・ブライマー(per)、佐瀬悠輔(tp)、小金丸慧(g)、
ermhoi (vo)が参加。馬場とBIGYUKIが共同プロデュースしています。

1曲目からオーケストラのような重層的なサウンドが奏でられ、
これがたった3人の演奏なのかと、たじろぎましたね。
面白いのが、サックスはリフをひたすら繰り返すのみで、
アンサンブルに徹底的に奉仕しているところ。
リズムをスイッチして場面展開しながら、一番奔放にプレイしているのは、
主役の馬場のサックスではなく、JK Kimのドラムス。

続くアフロビートの「Season Of Harvest」では、
馬場もソロ演奏をしていますけれど、
3曲目の「WHAT IS??」でも耳に残るのは、タンギングを繰り返すリフ。
リフを繰り返しながらグルーヴを生み出して、
バンド全体のダイナミズムを発揮しようというのが、このアルバムのねらいのようです。

この曲は、ヒップ・ホップ・ユニット「ビッグ・ギガンティック」の
ドミニク・ラニがミックスをしていることもあって、
いっそうビヨンド・ジャズの意志がはっきりと聴き取れますね。

他にはバラードや短いインタールードもあれば、
佐瀬悠輔(tp)と激しいバトルをする曲あり、
小金丸慧(g)のヘヴィーなギター・サウンドをバックに思い切りブロウする曲あり、
ラストは美しいサックス・アンサンブルに導かれて
ermhoi の歌がフィーチャーされる、クールな歌もの。
多彩な楽想が詰まった渾身の作です。

馬場智章 「ELECTRIC RIDER」 ユニバーサル UCCJ2236 (2024)

どんぐりず DONGRHYTHM.jpg

ギャハハ、なんだ、こりゃ。
「遊びまくり 踊りまくり」「踊っちゃった方がいいや」
「ほらよってけぶっとべどんちゃん騒げ」
「飲め飲め飲め ぐびぐびぐびぐび」
ツカミの強いリリックに、やられちゃいました。

「どんぐりず」というネーミングからしてトボけてるし、
田舎道をバイクで疾走するジャケットもC調ネライで、
めちゃ好感のわく二人組です。
群馬の桐生を拠点に活動しているという、
ラッパーとプロデューサーによるユニットなのだとか。
はぁ、なるほど。ジャケットの田舎道は、桐生なのね。
新人と思いきや、もう10年以上のキャリアがあるそうです。

とにかくユーモアたっぷりのリリックが楽しい。
徹頭徹尾フロア仕様のクラブ・サウンドで、
Y2Kリヴァイヴァルここに極まりといったところでしょうか。
2ステップ、テック・ハウス、ドラムンベースと、
カンペキなまでに四半世紀前のクラブ・ミュージックの引き写しで、
レゲトンを参照しているほかは、
21世紀に更新した音楽的なアイディアは皆無。

当時のクラブ・ミュージックをリアルタイム体験しているジジイには、
あまりにも古臭く響くサウンドですが、四半世紀前のクラブ・サウンドが
リサイクルされる時代が来たんでしょうね。
親世代が夢中に聴いていた音楽を、
その子供たち世代がリヴァイヴァルするという構図なのかもしれません。

どんぐりず 「DONGRHYTHM」 どんぐりず DGRZCD1001 (2024)

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