after you

bunboni こと 荻原和也 の 音楽案内所 musicaholic ブログ(隔日刊 2009年6月2日より)にようこそ。

『ミュージック・マガジン』7月号にディノ・ディサンティアゴのインタヴュー記事を寄稿しました。ぜひお読みください。

カテゴリ: 日本

きつねのトンプソン  THE FOX IN TIGER’S CLOTHING VOL.1 FOX
脱帽。
こんなチャーミングな音楽をやっている人たちが日本にいるなんて。
木琴、バンジョー、コントラバス、ドラムスの4人のインスト・バンド。

ラウンジー・ミュージックのような肩の凝らない親しみやすさがあって、
メンバーが書くオリジナル曲は、めちゃくちゃキュート。
トイ・ミュージックを思わせるほっこりとした感触があります。
グループ名の由来であるフォックストロットやラグタイムといった
古い音楽の香りはしつつも、ノスタルジーを強調しているわけじゃありません。

風通しのいい軽やかな演奏ぶりにうっかり聞き逃しそうになるんですが、
各メンバーの技量は相当なものですよ。じっくりメンバーのソロを聴くと、
とんでもないテクニックを披露しているのがわかります。

バイオをみると、木琴の小山理恵はクラシックや現代音楽のマリンバ奏者で、
卓上木琴に興味を持って、日本で唯一の卓上木琴奏者になったといいます。
バンジョーの小寺拓実はブルーグラスのバンジョー奏者で、
18年に全米バンジョー・コンテストで準優勝を果たしたという猛者。
初老のコントラバス奏者、手島昭英もブルーグラスのプレイヤーで、
ドラムスの吉島智仁はポール・モチアンを敬愛するジャズ・ドラマー。

クラシック、ブルーグラス、ジャズとバックグラウンドの違う4人が出会って
この音楽が生まれたというのも、聞けば納得できますね。
唯一無比の音楽性がむちゃくちゃ個性的なグループ、というかコンボかな。

小寺が作曲した「Foxology」なんてビバップそのもので、
レッド・ノーヴォ・トリオのギターをバンジョーに代え、
ドラムスを加えたらかくやといった仕上がり。
最初に聴いた時は、あまりの斬新さに笑いがとまりませんでしたよ。
8月には全曲カヴァーの「VOL.2」をリリース予定とのこと。
ラグタイムにモダン・ジャズ、ショーロ、ショパンの曲もやるようで、
めちゃ楽しみです。

きつねのトンプソン  「THE FOX IN TIGER’S CLOTHING VOL.1 FOX」  プレハブ  PFR002  (2025)

YMO 1979 TRANS ATLANTIC TOUR LIVE
イエロー・マジック・オーケストラの世界進出の第一歩を記した、
79年8月4日ロス・アンジェルス、グリーク・シアターでのライヴ映像が、
生涯ベストのライヴ・ヴィデオであることは、大昔に書きました。
そのグリーク・シアターからスタートした
トランス・アトランティック・ツアーの全貌を収めた
ライヴ・ボックス・セットがついに発売。
予約した1月から、首を長くして待っていましたよ。

『PUBLIC PRESSURE』のもととなった5つの会場のライヴ音源は、
のちに『FAKER HOLIC』として2枚組CDに編集されましたが、
今回のボックス・セットでは、会場ごと5枚のCDにコンプリート収録されました。
大昔の記事で書いたように、渡辺香津美のギターが眼目であるぼくにとっては、
あらためて香津美の即興のスゴさに圧倒されました。

香津美が長いソロを弾くのは、「1000 Knives」「Tong Poo」の2曲なんですが、
どの会場のライヴでも即興がまったく違うんですよ。
使い回しのフレーズなんて、まったく出てこない。
毎回違うアイディアでソロを構成していて、真のインプロヴァイザー、ここにありです。

そしてその香津美に神が降臨したとしか思えない、神がかりソロが聴ける
グリーク・シアターでのライヴ映像は、2000年に東芝EMIから出た
『YMO 1979 TRANS ATLANTIC TOUR』と同内容のブルーレイ・ディスク化。
画質がグンとクリアになったのには、カンゲキしました。
ユキヒロと香津美がアイ・コンタクトして笑い合う「Cosmic Surfin'」でのシーンとか、
ノリノリの矢野顕子のイキイキとした笑顔がめちゃくちゃクリアになっていて、
あー、長生きはするもんだと(笑)。

映像はDVD化された時のものと同じで、ブルーレイ化しただけかと思いきや、
ちゃんと手も加えているじゃないですか。
82年にビクターからヴィデオ・ソフトで出た時から気になっていた
「Tong Poo」の冒頭のテーマ部分で、
坂本龍一が左手で弾くアープ・オデッセイのミス・トーンをリカヴァーしています。
短いフレーズだけど悪目立ちしてる箇所なので、
「あちゃ~、やっちまった」っていうシーンだったんですよねえ。
ここをちゃんと修正したとは、丁寧な仕事してるなあ。
細野晴臣が監修したそうなので、「ここ直してあげてよ」と口添えしたのかも。

DVD時とは比べ物にならないクリアな映像で堪能できる
グリーク・シアター・ライヴの完成形ですね。
このあと、ニュー・ヨークのハラーでのライヴ映像も収録されていますけれど、
ライヴ映像作品史上ワースト1位間違いなしの最低最悪の編集なので、
こればかりはブルーレイ化しても救いようがありません。

Yellow Magic Orchestra 「YMO 1979 TRANS ATLANTIC TOUR LIVE ANTHOLOGY」 ソニー MHCL3131-6

Ayumi Ishito ROBOQUARIANS, VOL. 2
昨年初めて石当あゆみというサックス奏者を知って、
ノー・ウェイヴが蘇った!とコーフンしたんですが、
年明け1月3日に出た新作を聴いて、ますますその感は強まりましたよ。

新作はドラムスとギターのベースレスのトリオ編成なんですが、
ロナルド・シャノン・ジャクソンとジェイムズ・ブラッド・ウルマーのコンビを思わす、
ケヴィン・シェイのドラムスとジョージ・ドラグンズのギターにブッとびました。
だけど、レーベル元の577がこのトリオを紹介するテキストには、
「パンク」としか表現していないんですね。
ぼくにはオーネットのプライム・タイムとしか聞こえないんだけどなあ。

ケヴィン・シェイは、90年代からアヴァン・ジャズや
実験音楽のシーンで活動してきたヴェテランで、
ヴァーノン・リード、マーク・リーボウ、メルヴィン・ギブス、
グレアム・ヘインズなどとの共演歴を持っている人だそう。
一方、ジョージ・ドラグンスはハードコア・シーンで活躍するギタリストで、
灰野敬二あたりと近い音楽性の持ち主のよう。

シェイとドラグンズは、90年代半ばにエクスペリメンタル・ロック・バンドの
ストーム&ストレスのメンバーとして一緒に演奏した同士で、
どうやら二人ともオーネット・コールマンとはホントに関係なさそう。
それなのに、なんでこれほどハーモロディックなトーナリティを聞かせるのか。
う~ん、ナゾだなあ。

石当のサックスは、もはやサックスとはわからないほど
エフェクトでめちゃくちゃに加工していて、シンセやワウワウやリコーダーなど、
さまざまな楽器の音色を模倣しています。
ドラムスとギターが奔放に暴れ回る後方で、
もごもご、ぷかぷかと珍妙な音色を繰り広げたり、
空を切り裂くようなエッジの効いたシンセの音色で、
ダビーな空間を生み出していったり、
たえずアンサンブルに緊張をもたらす役回りをしているんですね。

オーネットと違うのは、はっきりとしたメロディのあるテーマがなく、
オーネット・ミュージックの「おもしろうてやがて悲しき」みたいな
ユーモアやアイロニーとは無縁なところでしょうか。
3人の混沌とした即興は、やはりオーネットではなく、
ハードコア・パンクのザ・メステティックスの方が近いのかも。
奔放でアナーキーだけれど、どこか整合感のある集団即興。
定型のビートから外れたリズムで煽り立てる変幻自在なドラミングがもたらす、
ハーモロディック的快感が、ぼくにとってこの音楽の最大の魅力です。

Ayumi Ishito "ROBOQUARIANS, VOL. 2"  577  5934-2  (2025)

馬場智章  ELECTRIC RIDER.jpg

うおぅ~、攻めてるなあ。
これぞ21世紀のエレクトリック・ジャズですね。
アンサー・トゥ・リメンバーでもパワフルなブロウを聞かせていた
テナー・サックス奏者馬場智章の3作目を数えるメジャー・デビュー作。

馬場とBIGYUKIのキーボード、韓国人ドラマーのJK Kimという、
サックス、キーボード、ドラムスのトリオを軸に、曲により
ウィーディー・ブライマー(per)、佐瀬悠輔(tp)、小金丸慧(g)、
ermhoi (vo)が参加。馬場とBIGYUKIが共同プロデュースしています。

1曲目からオーケストラのような重層的なサウンドが奏でられ、
これがたった3人の演奏なのかと、たじろぎましたね。
面白いのが、サックスはリフをひたすら繰り返すのみで、
アンサンブルに徹底的に奉仕しているところ。
リズムをスイッチして場面展開しながら、一番奔放にプレイしているのは、
主役の馬場のサックスではなく、JK Kimのドラムス。

続くアフロビートの「Season Of Harvest」では、
馬場もソロ演奏をしていますけれど、
3曲目の「WHAT IS??」でも耳に残るのは、タンギングを繰り返すリフ。
リフを繰り返しながらグルーヴを生み出して、
バンド全体のダイナミズムを発揮しようというのが、このアルバムのねらいのようです。

この曲は、ヒップ・ホップ・ユニット「ビッグ・ギガンティック」の
ドミニク・ラニがミックスをしていることもあって、
いっそうビヨンド・ジャズの意志がはっきりと聴き取れますね。

他にはバラードや短いインタールードもあれば、
佐瀬悠輔(tp)と激しいバトルをする曲あり、
小金丸慧(g)のヘヴィーなギター・サウンドをバックに思い切りブロウする曲あり、
ラストは美しいサックス・アンサンブルに導かれて
ermhoi の歌がフィーチャーされる、クールな歌もの。
多彩な楽想が詰まった渾身の作です。

馬場智章 「ELECTRIC RIDER」 ユニバーサル UCCJ2236 (2024)

どんぐりず DONGRHYTHM.jpg

ギャハハ、なんだ、こりゃ。
「遊びまくり 踊りまくり」「踊っちゃった方がいいや」
「ほらよってけぶっとべどんちゃん騒げ」
「飲め飲め飲め ぐびぐびぐびぐび」
ツカミの強いリリックに、やられちゃいました。

「どんぐりず」というネーミングからしてトボけてるし、
田舎道をバイクで疾走するジャケットもC調ネライで、
めちゃ好感のわく二人組です。
群馬の桐生を拠点に活動しているという、
ラッパーとプロデューサーによるユニットなのだとか。
はぁ、なるほど。ジャケットの田舎道は、桐生なのね。
新人と思いきや、もう10年以上のキャリアがあるそうです。

とにかくユーモアたっぷりのリリックが楽しい。
徹頭徹尾フロア仕様のクラブ・サウンドで、
Y2Kリヴァイヴァルここに極まりといったところでしょうか。
2ステップ、テック・ハウス、ドラムンベースと、
カンペキなまでに四半世紀前のクラブ・ミュージックの引き写しで、
レゲトンを参照しているほかは、
21世紀に更新した音楽的なアイディアは皆無。

当時のクラブ・ミュージックをリアルタイム体験しているジジイには、
あまりにも古臭く響くサウンドですが、四半世紀前のクラブ・サウンドが
リサイクルされる時代が来たんでしょうね。
親世代が夢中に聴いていた音楽を、
その子供たち世代がリヴァイヴァルするという構図なのかもしれません。

どんぐりず 「DONGRHYTHM」 どんぐりず DGRZCD1001 (2024)

米津玄師  LOST CORNER.jpg

藤井風と米津玄師の二人は、
日本のポップスをこれまでとまったく異なるステージに引き上げた天才ですね。
藤井風が天才ぶりが「自然児」だとすれば、
米津玄師の天才ぶりは「巧手」の一語に尽きます。
米津は現代日本の希代のメロディ・メーカーといえるでしょう。
ほとばしる感情を、これほど見事にメロディに落とし込める人を知りません。

4年ぶりの新作は、多彩な物語を紡いだ20編の楽曲を集めた作品。
業を背負いながら生きる覚悟を秘めた歌詞にうなりつつ、
振り幅の大きい音楽性に圧倒されます。
1曲1曲の完成度がすさまじくて、これだけ性格の違う曲を並べて、
アルバムとして成立させる剛腕ぶりに、感嘆せざるをえません。

米津のソングライティングは、職人芸的な頭脳プレイではなく、
フィジカルなエモーショナルな表現にこだわっているのが感じられて、
歌唱・アレンジ・サウンド・デザインのひとつひとつに、その痕跡がみられます。

踏切の警笛をコラージュする「とまれみよ」のアイディアなど、
やるせなさ、息苦しさ、もどかしさといった、
さまざまな焦燥を表現する巧みさにヤラれます。
ピアノ弾き語りをイメージしたバラードの「地」では、
伸びやかにまっすぐに歌う米津の歌いぶりの合間に、
椅子の軋み音が聞こえるのは、耳残りするように録音しているのでしょう。

米津の(「歌いぶり」というより)ヴォーカル表現に胸をかきむしられるのは、
聴き手の感情を揺さぶる演出のねらいに、
ものの見事ハマってしまっている証拠ですね。
曲ごとに発声を変え、演劇的なニュアンスも巧みに織り込んで
ヴォーカル表現にダイナミクスをつけていく技量は、
藤井風とはまた別種の天才でしょう。

そんなヴォーカル表現を支えるソングライティング、
アレンジを含めたサウンド・デザインに、
圧倒的な説得力を宿した傑作です。

米津玄師 「LOST CORNER」 ソニー SECL3118 (2024)

Ayumi Ishito  WONDERCULT CLUB.jpg

こりゃあ、痛快!
アヴァンギャルドでエクスペリメンタルなジャズであります。

まるでフュージョンみたいなポップなメロディのテーマでスタートするものだから、
脱力しかけていたところ、テーマが終わるや否や、いきなり演奏が崩壊。
テナー・サックス、ギター2、ベース、ドラムスの全員がぐしゃぐしゃになって、
ひとしきりノイジーな即興が続きます。
フリー・インプロヴィゼーションの嵐が過ぎ去ると、ブレイクを挟んで
2台のギターが最初のテーマに沿ったリフを奏で、しれっとテーマに戻る構成。
ぎゃはは、悪童の悪戯みたいな遊びゴコロ満載ですね。

いやぁ、マーク・リーボウとか、ジョン・ゾーンとか、
80年頃のニュー・ヨークのアンダーグラウンド・シーンを思い起こすなあ。
ノー・ウェイヴ、なんて懐かしいタームが頭をよぎりましたよ。
石当あゆみというテナー・サックス奏者、どういう人なのかとチェックしてみたら、
19歳でテナー・サックスを手にして、立命館大学卒業後、
バークリー音楽院へ留学し、卒業後そのままニュー・ヨークで活動を始めたそう。
ということは、日本での活動経験なしに、いきなりアメリカで演奏を始めたのか。
時代は変わりましたねえ。

メンバーは吉田孟、ヤナ・ダヴィドワ(ギター)、山田吉輝(ベース)、
カーター・ベイルズ(ドラムス)で、いずれもぼくには初めての人ばかり。
吉田孟は千葉出身、ヤナ・ダヴィドワはロシア系アメリカ人女性で、
マーク・リーボウばりのギターはどちらが弾いているんだろう。
主役のテナー・サックスとシンセサイザーより、
ギターの暴れっぷりの方が目立ち、全体にアンサンブル重視の作品となっています。

なんと今年の2月に、ヤナ・ダヴィドワが抜けたメンバーで来日して
ツアーをしていたとのこと。このアルバムが出る前だから、知る由もありませんでしたが、
また来てくれるのを楽しみに待ちましょう。

Ayumi Ishito "WONDERCULT CLUB" 577 5946 (2024)

Answer to Remember  ANSWER TO REMEMBER Ⅱ.jpg

ジャズのフィールドを飛び越えたクロスオーヴァーな活動で、
いまや日本のポップス/ロック・シーンのファースト・コール・ドラマーとなった
石若駿のプロジェクト、アンサー・トゥ・リメンバー(略称アンリメ)の第2作。
石若をメンバーに擁するクラックラックスのライヴ盤を聴いているところに届くとは、
グッド・タイミングだなあ。前作はソニーだったけれど、今回はユニバーサルなのか。 
https://bunboni.livedoor.blog/2019-12-27

前作をリリースしてからライヴを積み重ねてきた成果なのか、
プロジェクトやコレクティヴのようなセッション・フィールではなく、
バンドそのものといえる一体感が強烈ですねえ。
ファンファーレのように始まるオープニングから怒涛の展開で、
アイディアに富んだ楽曲と冒険心に満ちたアレンジにのって、
グルーヴと即興がうずまくんだから、もう、圧倒されまくり。

アンリメのカッコよさって、とうにジャズを飛び越えているよねえ。
ふだんジャズを聴かないロック、R&B、ヒップ・ホップのファンにも
ぜったい刺さるはず。フィーチャーされるヴォーカルにしても、
歌であったり、ヴォイスであったり、ラップであったりと多彩で、
歌と演奏がウワモノとバック・トラックという関係でなく、
両者が混在してせめぎ合っていて、むちゃくちゃスリリング。

音楽家としての石若のスケールのデカさも、ハンパない。
ドラムスをメインとしつつも、各種鍵盤類やプログラミングも操り、
KID FRESINO、ermhoi、Jua、HIMI、甲田まひる、
Tomoki Sanders、KARAI、井上銘、閑喜弦介、二階堂貴文という
強力なメンツを集めるコレクティヴとしてのリーダーの力量に感服しますよ。
今の日本の音楽をプレイヤーの立場から仕切っているのは、
石若なんじゃないかとさえ思えてきますね。

石若と同世代のミュージシャンたちが集まった連帯感が
アンリメの良さだけれど、仲間うちといった閉じられたものになっていなくて、
リスナーとも肩を組めるような打ち解けやすさに溢れているところが、
嬉しいんだな。この音楽を嫌う人なんていないでしょう。

Answer to Remember 「ANSWER TO REMEMBER Ⅱ」 ユニバーサル UCCJ9250 (2024)

CRCKLCKS  RISE IN THE EAST.jpg

クラクラ・ファンに嬉しいCDが届きました。
21年9月30日、東京・渋谷O-EASTで行われたソロ・コンサートのライヴ盤。
3年も経ってからなぜ?と思ったら、
22年の夏のツアー時に会場限定で販売されていたんだそうで、
今回ようやく一般流通となったんですね。

このライヴって、ギターの井上銘が辞める辞めないで騒動になった時だよね。
断片的な話を聞くばかりで、よく事情を知らなかったんだけれども。
このライヴを最後に、井上がバンドを脱退することを正式発表していたものの、
ライヴ中にどうしたことか、井上が「バンド辞めるのをやめる!」と宣言。
突然の撤回宣言に、メンバーやマネージャーもアゼンとしたんだとか。
その脱退取り消しの井上のMCは、
当日のライヴ映像を収録したダウンロード・コードでも観ることができます。

CDには過去作からまんべんなく選曲された14曲が収録されていて、
いわばベスト・ライヴといえるもの。既発曲ばかりなので、
スタジオ録音を聴いているファン・サービス盤といった趣ですけれど、
さすがに現代ジャズ・シーンの実力者揃いのバンドゆえ、
ライヴならではの集中力でエネルギーを爆発させたパフォーマンスは圧倒的。
井上が感極まって思わず脱退を撤回したくなるのもうなずける、
バンドの一体感がスゴい。
「ひかるまち」に入る前の井上のブルースのソロ・ワークなんて、スゴい気迫だもん。

メンバー一人一人が売れっ子で、バンドを維持するのもたいへんだろうし、
一区切りついた節目であったであろうことも想像はつきますけれど、
これまでの日本のポップス・シーンに存在しなかったバンドゆえ、
まだまだやれることがイッパイあると思うんだよなあ。
ぜひこの先を、これからも期待したいバンドです。

CRCK/LCKS 「RISE IN THE EAST」 アポロサウンズ APLS2207 (2022)

Jimsaku  45℃.jpg Jimsaku  JADE.jpg

70~80年代フュージョンで、スティーヴ・ガッドとハーヴィー・メイソンの影響力たるや、
それは凄まじいものがありました。
スティーヴ・ガッドそっくりさんの日本人ドラマーに、
ザ・プレイヤーズで活躍した渡嘉敷祐一がいたように、
ハーヴィー・メイソンのスタイルを見事にトレースしていたのが、神保彰でした。

打面を流れるように叩くしなやかなスティック・ワーク、
細かいフレーズを正確無比に叩く16ビートの鬼ドラマーぶりは、ハーヴィーと瓜二つ。
ジャスト・タイミングでフィル・インする緻密さと、
繊細な暴れっぷりを聞かせるドラムス・ソロは、カシオペアのライヴの呼び物の一つで、
パワーと重量感で押し切るドラマーでは出せない魅力を発揮していました。

そんな神保彰がベースの櫻井哲夫とともにカシオペアを脱退して
ユニットを組んだジンサクもいいバンドでした。
初期のラテン・フュージョン時代のアルバムが特に良くて、
オルケスタ・デル・ソルで活躍していたピアニストの森村献の好アレンジもあいまって、
90年のデビュー作から4作目のライヴ盤まで愛聴していました。

テクニカルな野呂の楽曲がバンドの個性だったカシオペアとは違い、
センチメンタルなメロディを書く櫻井は歌もの志向が強く、
カシオペアとはまったく異なるサウンドを聞かせていました。
カラフルなレパートリーで二人のエネルギーを噴出させた
2作目と3作目が、特にいい出来だったな。

サポート・メンバーの中井一郎のエレクトリック・ヴァイオリンや是方博邦のギター、
さらにゲストで加わったサックスの本田雅人やギターの鳥山雄司らのソロも
聴きごたえがあり、どちらも力作でした。
『レコード・コレクターズ』6月号の「フュージョン・ベスト100 邦楽編」には、
まったく選ばれなかったジンサクですけれど、
インドネシアのギタリスト、トーパティのアルバムなんて、
ジンサクの再来に聞こえましたよ。
https://bunboni.livedoor.blog/2023-10-21

Jimsaku 「45℃」 ポリドール POCH1093 (1991)
Jimsaku 「JADE」 ポリドール POCH1143 (1992)

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