after you

bunboni こと 荻原和也 の 音楽案内所 musicaholic ブログ(隔日刊 2009年6月2日より)にようこそ。

Searching for good music of the world

カテゴリ: 日本

米津玄師  LOST CORNER.jpg

藤井風と米津玄師の二人は、
日本のポップスをこれまでとまったく異なるステージに引き上げた天才ですね。
藤井風が天才ぶりが「自然児」だとすれば、
米津玄師の天才ぶりは「巧手」の一語に尽きます。
米津は現代日本の希代のメロディ・メーカーといえるでしょう。
ほとばしる感情を、これほど見事にメロディに落とし込める人を知りません。

4年ぶりの新作は、多彩な物語を紡いだ20編の楽曲を集めた作品。
業を背負いながら生きる覚悟を秘めた歌詞にうなりつつ、
振り幅の大きい音楽性に圧倒されます。
1曲1曲の完成度がすさまじくて、これだけ性格の違う曲を並べて、
アルバムとして成立させる剛腕ぶりに、感嘆せざるをえません。

米津のソングライティングは、職人芸的な頭脳プレイではなく、
フィジカルなエモーショナルな表現にこだわっているのが感じられて、
歌唱・アレンジ・サウンド・デザインのひとつひとつに、その痕跡がみられます。

踏切の警笛をコラージュする「とまれみよ」のアイディアなど、
やるせなさ、息苦しさ、もどかしさといった、
さまざまな焦燥を表現する巧みさにヤラれます。
ピアノ弾き語りをイメージしたバラードの「地」では、
伸びやかにまっすぐに歌う米津の歌いぶりの合間に、
椅子の軋み音が聞こえるのは、耳残りするように録音しているのでしょう。

米津の(「歌いぶり」というより)ヴォーカル表現に胸をかきむしられるのは、
聴き手の感情を揺さぶる演出のねらいに、
ものの見事ハマってしまっている証拠ですね。
曲ごとに発声を変え、演劇的なニュアンスも巧みに織り込んで
ヴォーカル表現にダイナミクスをつけていく技量は、
藤井風とはまた別種の天才でしょう。

そんなヴォーカル表現を支えるソングライティング、
アレンジを含めたサウンド・デザインに、
圧倒的な説得力を宿した傑作です。

米津玄師 「LOST CORNER」 ソニー SECL3118 (2024)

Ayumi Ishito  WONDERCULT CLUB.jpg

こりゃあ、痛快!
アヴァンギャルドでエクスペリメンタルなジャズであります。

まるでフュージョンみたいなポップなメロディのテーマでスタートするものだから、
脱力しかけていたところ、テーマが終わるや否や、いきなり演奏が崩壊。
テナー・サックス、ギター2、ベース、ドラムスの全員がぐしゃぐしゃになって、
ひとしきりノイジーな即興が続きます。
フリー・インプロヴィゼーションの嵐が過ぎ去ると、ブレイクを挟んで
2台のギターが最初のテーマに沿ったリフを奏で、しれっとテーマに戻る構成。
ぎゃはは、悪童の悪戯みたいな遊びゴコロ満載ですね。

いやぁ、マーク・リーボウとか、ジョン・ゾーンとか、
80年頃のニュー・ヨークのアンダーグラウンド・シーンを思い起こすなあ。
ノー・ウェイヴ、なんて懐かしいタームが頭をよぎりましたよ。
石当あゆみというテナー・サックス奏者、どういう人なのかとチェックしてみたら、
19歳でテナー・サックスを手にして、立命館大学卒業後、
バークリー音楽院へ留学し、卒業後そのままニュー・ヨークで活動を始めたそう。
ということは、日本での活動経験なしに、いきなりアメリカで演奏を始めたのか。
時代は変わりましたねえ。

メンバーは吉田孟、ヤナ・ダヴィドワ(ギター)、山田吉輝(ベース)、
カーター・ベイルズ(ドラムス)で、いずれもぼくには初めての人ばかり。
吉田孟は千葉出身、ヤナ・ダヴィドワはロシア系アメリカ人女性で、
マーク・リーボウばりのギターはどちらが弾いているんだろう。
主役のテナー・サックスとシンセサイザーより、
ギターの暴れっぷりの方が目立ち、全体にアンサンブル重視の作品となっています。

なんと今年の2月に、ヤナ・ダヴィドワが抜けたメンバーで来日して
ツアーをしていたとのこと。このアルバムが出る前だから、知る由もありませんでしたが、
また来てくれるのを楽しみに待ちましょう。

Ayumi Ishito "WONDERCULT CLUB" 577 5946 (2024)

Answer to Remember  ANSWER TO REMEMBER Ⅱ.jpg

ジャズのフィールドを飛び越えたクロスオーヴァーな活動で、
いまや日本のポップス/ロック・シーンのファースト・コール・ドラマーとなった
石若駿のプロジェクト、アンサー・トゥ・リメンバー(略称アンリメ)の第2作。
石若をメンバーに擁するクラックラックスのライヴ盤を聴いているところに届くとは、
グッド・タイミングだなあ。前作はソニーだったけれど、今回はユニバーサルなのか。 
https://bunboni.livedoor.blog/2019-12-27

前作をリリースしてからライヴを積み重ねてきた成果なのか、
プロジェクトやコレクティヴのようなセッション・フィールではなく、
バンドそのものといえる一体感が強烈ですねえ。
ファンファーレのように始まるオープニングから怒涛の展開で、
アイディアに富んだ楽曲と冒険心に満ちたアレンジにのって、
グルーヴと即興がうずまくんだから、もう、圧倒されまくり。

アンリメのカッコよさって、とうにジャズを飛び越えているよねえ。
ふだんジャズを聴かないロック、R&B、ヒップ・ホップのファンにも
ぜったい刺さるはず。フィーチャーされるヴォーカルにしても、
歌であったり、ヴォイスであったり、ラップであったりと多彩で、
歌と演奏がウワモノとバック・トラックという関係でなく、
両者が混在してせめぎ合っていて、むちゃくちゃスリリング。

音楽家としての石若のスケールのデカさも、ハンパない。
ドラムスをメインとしつつも、各種鍵盤類やプログラミングも操り、
KID FRESINO、ermhoi、Jua、HIMI、甲田まひる、
Tomoki Sanders、KARAI、井上銘、閑喜弦介、二階堂貴文という
強力なメンツを集めるコレクティヴとしてのリーダーの力量に感服しますよ。
今の日本の音楽をプレイヤーの立場から仕切っているのは、
石若なんじゃないかとさえ思えてきますね。

石若と同世代のミュージシャンたちが集まった連帯感が
アンリメの良さだけれど、仲間うちといった閉じられたものになっていなくて、
リスナーとも肩を組めるような打ち解けやすさに溢れているところが、
嬉しいんだな。この音楽を嫌う人なんていないでしょう。

Answer to Remember 「ANSWER TO REMEMBER Ⅱ」 ユニバーサル UCCJ9250 (2024)

CRCKLCKS  RISE IN THE EAST.jpg

クラクラ・ファンに嬉しいCDが届きました。
21年9月30日、東京・渋谷O-EASTで行われたソロ・コンサートのライヴ盤。
3年も経ってからなぜ?と思ったら、
22年の夏のツアー時に会場限定で販売されていたんだそうで、
今回ようやく一般流通となったんですね。

このライヴって、ギターの井上銘が辞める辞めないで騒動になった時だよね。
断片的な話を聞くばかりで、よく事情を知らなかったんだけれども。
このライヴを最後に、井上がバンドを脱退することを正式発表していたものの、
ライヴ中にどうしたことか、井上が「バンド辞めるのをやめる!」と宣言。
突然の撤回宣言に、メンバーやマネージャーもアゼンとしたんだとか。
その脱退取り消しの井上のMCは、
当日のライヴ映像を収録したダウンロード・コードでも観ることができます。

CDには過去作からまんべんなく選曲された14曲が収録されていて、
いわばベスト・ライヴといえるもの。既発曲ばかりなので、
スタジオ録音を聴いているファン・サービス盤といった趣ですけれど、
さすがに現代ジャズ・シーンの実力者揃いのバンドゆえ、
ライヴならではの集中力でエネルギーを爆発させたパフォーマンスは圧倒的。
井上が感極まって思わず脱退を撤回したくなるのもうなずける、
バンドの一体感がスゴい。
「ひかるまち」に入る前の井上のブルースのソロ・ワークなんて、スゴい気迫だもん。

メンバー一人一人が売れっ子で、バンドを維持するのもたいへんだろうし、
一区切りついた節目であったであろうことも想像はつきますけれど、
これまでの日本のポップス・シーンに存在しなかったバンドゆえ、
まだまだやれることがイッパイあると思うんだよなあ。
ぜひこの先を、これからも期待したいバンドです。

CRCK/LCKS 「RISE IN THE EAST」 アポロサウンズ APLS2207 (2022)

Jimsaku  45℃.jpg Jimsaku  JADE.jpg

70~80年代フュージョンで、スティーヴ・ガッドとハーヴィー・メイソンの影響力たるや、
それは凄まじいものがありました。
スティーヴ・ガッドそっくりさんの日本人ドラマーに、
ザ・プレイヤーズで活躍した渡嘉敷祐一がいたように、
ハーヴィー・メイソンのスタイルを見事にトレースしていたのが、神保彰でした。

打面を流れるように叩くしなやかなスティック・ワーク、
細かいフレーズを正確無比に叩く16ビートの鬼ドラマーぶりは、ハーヴィーと瓜二つ。
ジャスト・タイミングでフィル・インする緻密さと、
繊細な暴れっぷりを聞かせるドラムス・ソロは、カシオペアのライヴの呼び物の一つで、
パワーと重量感で押し切るドラマーでは出せない魅力を発揮していました。

そんな神保彰がベースの櫻井哲夫とともにカシオペアを脱退して
ユニットを組んだジンサクもいいバンドでした。
初期のラテン・フュージョン時代のアルバムが特に良くて、
オルケスタ・デル・ソルで活躍していたピアニストの森村献の好アレンジもあいまって、
90年のデビュー作から4作目のライヴ盤まで愛聴していました。

テクニカルな野呂の楽曲がバンドの個性だったカシオペアとは違い、
センチメンタルなメロディを書く櫻井は歌もの志向が強く、
カシオペアとはまったく異なるサウンドを聞かせていました。
カラフルなレパートリーで二人のエネルギーを噴出させた
2作目と3作目が、特にいい出来だったな。

サポート・メンバーの中井一郎のエレクトリック・ヴァイオリンや是方博邦のギター、
さらにゲストで加わったサックスの本田雅人やギターの鳥山雄司らのソロも
聴きごたえがあり、どちらも力作でした。
『レコード・コレクターズ』6月号の「フュージョン・ベスト100 邦楽編」には、
まったく選ばれなかったジンサクですけれど、
インドネシアのギタリスト、トーパティのアルバムなんて、
ジンサクの再来に聞こえましたよ。
https://bunboni.livedoor.blog/2023-10-21
Jimsaku 「45℃」 ポリドール POCH1093 (1991)
Jimsaku 「JADE」 ポリドール POCH1143 (1992)

Casiopea Live.jpg

『レコード・コレクターズ』6月号の「フュージョン・ベスト100 邦楽編」で、
「奇跡の名盤である」と冒頭から評された作品、いったいなんだと思います?
答えは、カシオペアの『MINT JAMS』。
しかも6位にランクインするという高評価には、頬をつねりたくなりました。
だってカシオペアくらい、ミュージック・マガジン周辺の評論家やライターたちが
バカにし続けてきたバンドもなかったですからねえ。

80年代当時、「カシオペアが好き」と公言すると、
きまって冷笑がかえってくるという仕打ちを受けた人間からすると、
「何、この手のひら返しは?」と思わずにはおれません。
そんなことからカシオペア・ファンであることに、
長年沈黙を余儀なくさせられたわけですが、もういいでしょう。
80年代の第1期カシオペアはサイコーでした。

デビュー作とセカンド作は物足りなかったんですが、
3作目の『THUNDER LIVE』からドラムスが神保彰に代わって、
リズム・アンサンブルが見違えたんですよね。
日本のハーヴィー・メイソンが現れた!とコーフンしたっけなあ。

神保のドラムスが、スピード感あふれる
テクニカルなリフを特徴としたギタリスト野呂一生の楽曲を
最高のアンサンブルに具現化して、カシオペア・サウンドを完成させました。
ぼくにとってカシオペアの魅力といえば、
メンバーのソロよりアンサンブルを重視したサウンド構成と、
それを実現した野呂の作編曲能力、そして神保のドラミングにつきます。

そんな第1期カシオペアの代表作といえば、
先の『MINT JAMS』であることに、まったく異論はありません。
でもぼくにとって一番多く聴いた作品が『MINT JAMS』かといえば、
そうではないんですよね。85年の『CASIOPEA LIVE』が、
40年切れ目なく聴き続けているマイ・フェバリット・アルバム。

このアルバム、最初はレーザー・ディスクで発売されたんですよね。
遅れて3か月後、ようやくCDが出るんですけど、当時はまだCD黎明期。
ぼくもまだCDプレイヤーを持っておらず、LPを買っていた時代で、
CDプレイヤーを買う決めてになったのが、このCDだったのでした。

このライヴ・アルバム、なにが良いって、『MINT JAMS』に収録されなかった
第1期カシオペアの代表曲が、すべて聞けること。
とりわけ初期の名曲「Eyes Of The Mind」は、本ライヴが最高の仕上がり。
独特のリフとシンコペーションを利かせたブレイクが、めちゃキュートです。

そして『MINT JAMS』以降のアルバムの曲では、「Down Upbeat」や
「The Continental Way」に、ぐっとテンポを上げた「Looking Up」が、
オリジナルを凌ぐヴァージョンとなっていて、聴きもの。
「Fabby Dabby」は、オリジナルの女性コーラスがイマイチだったので、
このライヴ・ヴァージョンの方が断然いいです。
さらに神保のドラムス・ソロもたっぷり聞けるのだから、もう言うことありません。

思えば、この第1期カシオペアこそ、
アメリカのバンドにはない日本のフュージョンの特質をよく表していました。
当時海外進出に野心を抱いていたアルファがカシオペアを売りこもうと、
ハーヴィー・メイソンにプロデュースを依頼して制作した
81年の『EYES OF THE MIND』が見事な失敗に終わったのが、
それを象徴していました。

ハーヴィー・メイソンは、野呂の作編曲の肝といえる、
複雑なリフやアンサンブルを強調するリズム・アレンジを目立たなくして、
あえて平板なアレンジにしてしまったんですね。
箏を思わせるシンセ音の選択なども、アメリカ人がイメージする
典型的な日本趣味で、そのセンスの悪さにもヘキエキとしました。

アメリカには理解されなかったカシオペアも、
その後UKのアシッド・ジャズやインドネシアに与えた影響は、
計り知れないものがありました。
その意味でも本ライヴ盤は、第1期カシオペアの魅力が全開した金字塔です。

Casiopea 「CASIOPEA LIVE」 アルファ 38XA48 (1985)

鳥山雄司  SILVER SHOES.jpg

ウォーキング歴22年目にして、原点回帰というか、
あらためて歩く楽しさを再認識している日々であります。

去年の春から朝夕のウォーキングを30分から45分に増やしたんですけど、
https://bunboni.livedoor.blog/2023-10-21
真冬になるとこれだけ歩いても汗一滴すら出ないので、
さらに60分から80分まで延長して、しっかり汗をかくようにしたんですね。
まさか前期高齢者になって運動量増やすとは思わなかったけど、
マンネリになりつつあった20年のルーティンから、歩き始めの原点を思い起こし、
あらためて歩く楽しさを思い出せたのは、良い気づきとなりました。

そのせいで今年3月以降は、月間の平均歩数が2万歩超え。
おかげで気分爽快、体調もパーフェクトといいことづくめで、
最近の酷暑で「不要不急の外出を避けて」なんて
テレビの呼びかけもよそに、日傘差してガンガン歩いております(笑)。

そんなウォーキングのBGMは、やっぱりフュージョンが合いますね。
フュージョン再評価ブームもあいまって、
ぼくも昔愛聴したアルバムを最近になってよく聴き返すようになったんですけれど、
この夏再発見したのが、鳥山雄司の82年作『SILVER SHOES』。

これは、ずいぶん聴いてなかったなあ。昔買った時はヘヴィロテしたけどねえと、
ひとりごちしながら聴き返したら、見事にハマっちゃいました。
ドライヴの利いたエナジー溢れるサウンドが、鳥山の他の作品とは抜きん出ていて、
やっぱ、これ彼のベストだなと、深く感じ入ったのでありました。

でも、『レコード・コレクターズ』6月号の「フュージョン・ベスト100 邦楽編」で
鳥山の作品は、18位に85年の『A TASTE OF PARADISE』、
44位に83年の『YUJI TORIYAMA』、
100位に81年の『TAKE A BREAK』と3作が選ばれるも、本作は選出ならず。
あいかわらず世間とは意見が合いません(苦笑)。

ラーセン=フェイトン・バンドをバックにした本作は、
鳥山のギターばかりでなく、リズム・セクションがキレッキレ。
アート・ロドリゲスのドラムスの小気味よさったら、ありません。
そこにロック的なギター・サウンドと、ジャズのイディオムのフレージングを併せ持った
鳥山のギターがシャープに切り込んでくるんだから、もうたまらない。

鳥山が書く曲もすごくキャッチーでいいんだな。
テーマが単音弾きばかりでなく、コード・カッティングやオクターヴ奏法も交えて
組み立てられていて、憎らしいくらい巧みなんですよね。
フレージングにはスピード感がある一方で、
あえて後ノリのもたったリズムのフレーズを出してきたり、リズムを崩してみたりと、
イキオイばかりでないしなやかなギター・プレイが、40年を経た今なお刺激的です。

鳥山雄司 「SILVER SHOES」 キャニオン D32Y0025 (1982)

渡辺香津美  INFINITE.jpg 渡辺香津美  MERMAID BOULVARD.jpg

フュージョンは昔からずっと聴き続けてきたジャンルですけれど、
世間のフュージョンに対する風当たりの強さに、
大手を振って「好き」というのもはばかられ、
侮蔑や嘲笑の嵐の前に、沈黙せざるを得ない時代が長く続きました。

昨今のフュージョン再評価のおかげで、事情はすっかり一変しましたけれど、
フュージョン冬の時代にもめげずに記事にしてきたのが、渡辺香津美でした。
https://bunboni.livedoor.blog/2016-02-14
日本最高峰のギタリストなのだから、
なんの遠慮がいるものかという気分で書いた気がしますね。

思えばぼくが渡辺香津美を知ったのは、
フュージョンはおろか、クロスオーヴァーの名すらまだなかった
エレクトリック・ジャズと称されていた時代のこと。
日野元彦のライヴ盤『流氷』で香津美のプレイにぶっとび、
https://bunboni.livedoor.blog/2022-12-21
17歳の高校生の時のデビュー作『INFINITE』をさかのぼって聴いて、
驚愕しました。正真正銘の天才ギタリストでしたよ。

そこで繰り広げられているのは、ハードボイルドなモーダル・ジャズ。
のちのクロスオーヴァーを象徴するソフト&メロウなムードとは、まったく無縁です。
この時代からぼくは香津美を聴き始めたので、
クロスオーヴァーのギタリストいうイメージは、正直ぼくにはないのですが、
香津美のクロスオーヴァーの代表作といえば、
リー・リトナー&ジェントル・ソウツと共演した『マーメイド・ブールヴァード』でしょう。

この共演でリー・リトナーが香津美の才能に驚き、
リーのオリジナル曲 ‘Sugar Loaf Express’ で香津美が弾いた
ソロ・パートのリックをコピーして、のちのリーのアルバム
“THE CAPTAIN'S JOURNEY” でリー自身が弾いてみせたことは、
ファンにはよく知られている逸話です。

ちなみにリーは、エリック・ゲイルをゲストに迎えた
日本制作のダイレクト・カッティングのレコーディングでも、
この ‘Sugar Loaf Express’ を演奏していました。
この時にエリック・ゲイルが弾いたリックもリーはいただいていて、
香津美のリックとともにソロを組み立てていたんですよね。

さて、そんな内外ともにその実力を見せつけていた当時の香津美は、
さまざまなバンドにゲスト参加して名演を残しています。
なかでも筆頭に挙げなければいけないのが、イエロー・マジック・オーケストラの
79年ロス・アンジェルス公演で聞かせた「The End Of Asia」
「東風 Tong Poo」の2曲ですね。
https://bunboni.livedoor.blog/2011-06-26

松岡直也 & Wesing  FIESTA FIESTA.jpg 今田勝  ANDALUSIAN BREEZE.jpg
あと忘れられない名演といえば、
松岡直也&ウィシングの 『FIESTA FIESTA』に Yoshio Gen なる変名で
参加した「Delight」や今田勝の『アンダルシアの風』にMr. X の変名で
参加した「Andalusian Breeze」「Touch And Go」。
レコード会社がどんなオカシな変名をつけようが、
聴けばイッパツ、香津美のギターとわかりますよ。

それにしても、ミュージシャンの自由闊達なセッション・ワークの足を引っ張る、
当時のレコード会社の狭量さは本当にヒドかったですね。
こういうアホな変名でも録音ができればまだしも、
イエロー・マジック・オーケストラに至っては、香津美のギターを全面カットして、
坂本龍一のシンセに差し替えたんだからねえ。

こうした数々の香津美の名演を聴き返して思うのは、
やはりソロ・ワークの見事さで、起承転結をきっちり展開する構成力が圧巻です。
特に、出だしに特徴がありますね。ソロ・ワークの出だしというのは、
まさしく助走にあたる序奏で始まるのが通常なのに、
いきなり意外性のあるメロディの歌わせ方をして、ぐっと引き付けてしまうんですよ。
ソロはじめの4小節で、オオッと思わせる訴求力が、
香津美のギター・ソロの特徴です。

2月に脳幹出血で倒れ、現在療養中の渡辺香津美。
意識障害が伴うという報に心配でなりませんが、
どうか一日も早い回復を切に祈っています。
かつてパット・マルティーノが致命的な脳動脈瘤で倒れ、
ギターも自身のキャリアもすべての記憶を失いながらも、
奇跡的なカムバックを遂げたように、
香津美の復活の日を信じて待ちたいと思います。

渡辺香津美 「INFINITE」 EMIミュージックジャパン DTHK009 (1971)
渡辺香津美 & The Gentle Thoughts 「MERMAID BOULVARD」 アルファ ALCA9177 (1978)
松岡直也 & Wesing 「FIESTA FIESTA」 ビクター VICL62862 (1979)
今田勝 「ANDALUSIAN BREEZE」 アート・ユニオン ARTCD63 (1980)

本多俊之 & Burning Wave  BOOMERANG.jpg

梅雨入り前のカラッとした初夏の青い空が似合う一枚。
この季節の定盤で、長年聴き続けてきたそのアルバムは、
本多俊之&バーニング・ウェイブの最高傑作、『ブーメラン』です。

『レコード・コレクターズ』誌の「フュージョン・ベスト100 邦楽編」では
デビュー作の『バーニング・ウェイヴ』が63位で選ばれているんだけれど、
違うんだなあ。本多俊之の最高作はこっちなのよ。

『バーニング・ウェイヴ』が出た時は、確かにそれは大きな話題になりました。
なんせ、フュージョンの新レーベルとしてキング・レコードが立ち上げた
エレクトリック・バードの第2弾アルバムだったしね。
本多俊之が当時大学生というのも話題のひとつでしたね。
ぼくのひとつ年上で、通っている大学もひとつ隣の駅ということもあり、
ぼくも大期待でこのレコード買ったけれど、う~ん、だったのでした。

共演したのは、クロスオーヴァー・ファン話題の当時CTIからデビューしたての
ハワイ出身のフュージョン・グループ、シーウィンドだったのだから、
悪かろうはずはないのに。
その後も、セルジオ・メンデス&ブラジル'88との共演作などが出たものの、
どのアルバムも物足りなくて、5作目の『ブーメラン』で
ついに本多が才能を完全開花してくれたと、快哉を叫んだのでした。

あとから振り返れば、
それまでの4作の不満の理由は、上田力のアレンジだったのでした。
上田から離れた『ブーメラン』では、本多自身と
ピアニストの野力奏一がアレンジしたことで、サウンドが見違えましたからねえ。
この作品でバーニング・ウェイブのバンド・アンサンブルが完成したといえます。

レゲエとサンバが入り繰りする「La-La-Yah...」、
野力が松岡直也ばりのラテン・ピアノを聞かせる「Coconut Crash!」、
新感覚4ビートの「S-Wing」、
ゲストの山岸潤史のロック・ギターが大暴れする「Spitfire」、
宮野弘紀のオヴェーション・ギター・ソロ名演が聞ける「Magic Mushroom」と、
まさしくジャンルをクロスオーヴァーしたサウンドが全面展開しています。

組曲形式の「Nile (Pt.1, Pt2, Pt3)」で、
野力奏一がエレピ、プロフェット、モーグを駆使して作り上げた映像的なサウンドなど、
本多がこの作品で示したアレンジ力は抜きん出ていました。
メンバー全員がジャズ、ロック、ラテン、サンバといったさまざまな音楽に精通して、
それをしっかりと咀嚼した演奏力を展開しているからこそ、
いまなおまったく古びないのでしょう。

この作品を推す執筆者が誰一人いなかったというのは、遺憾千万だなあ。
蛇足ながら、エレクトリック・バードには、沢井原兒が82年に『YELLOW』という傑作が
カタログにあるのにもかかわらず、いまだ一度もCD化されていません。
フュージョンに限った話じゃないですけれど、
これだから世評というのはアテにならんのですよ。

本多俊之 & Burning Wave 「BOOMERANG」 エレクトリック・バード KICJ92311 (1981)

Ajate  DALA TONI.jpg Ajate  ALO.jpg

じゃがたらから40年。
アフロビートの消化にかくも時間がかかるものなのかと、眩暈がしました。

アフリカ音楽に感化された人間にとって、
日本人で同じ志を持つ音楽家を応援したくなるのは人情なれど、
残念ながらアフロビートを取り入れようとした日本のバンドで、
支持できるバンドに出会えたことはありませんでした。

思えばジャズのミュージシャンがヒップ・ホップを咀嚼するのだって、
ものすごく時間がかかったんだからねえ。
83年のハービー・ハンコックの『フューチャー・ショック』や、
92年のマイルズ・デイヴィスの『ドゥー・バップ』から、
ロバート・グラスパーの『ブラック・レディオ』まで
30年から40年という時を要したんだもんなあ。

日本人で初めてアフロビートを我がものとしたのが、このアジャテです。
江戸祭囃子とアフロビートとの融合だなんて、想像さえしませんでした。
しかもそれはアイディアの勝利などでは決してなく、
音楽家が積み重ねてきた音楽体験が地に足付いたものだからこそ、
実った果実だということを強く実感させるバンドです。
4作目を数えるという新作を聴くまで、このバンドの存在に気付かず、
不明を恥じて19年の前作も一緒に買いました。

リーダーのジョン今枝が、ガーナやブルキナ・ファソへ遊学して
現地の葬儀を実体験し、そのエネルギーを自分も表現したいと考えたことが、
バンド結成の動機になったとのこと。
旧世代の音楽家が、自分の文化とは異質の音楽(=アフロビート)に
衝撃を受けてそれを学び取ろうとしたのに比べると、
気負いがなく、余計な憧れや不要なコンプレックスも介在せずに
素直にその音楽と向き合っている、そんな新しい世代の強みを感じます。

異国の音楽に共感できる部分や通じ合える要素を見出して、
自分たちの音楽の営みの中に表現しようとするアティチュード。
異国の音楽も日本の伝統音楽も、
あらゆる音楽を等価で参照するデジタル世代だからこそ、
到達できた地平なんですね。

篠笛を吹く音楽家との出会いも、そうした共感にもとづいているから、
アイディア先行でアタマでっかちになりがちだった
旧世代の教養主義とは無縁の、風通しの良さがあるんじゃないでしょうか。
竹で自作したギターやシロフォンなどを取り入れているのも、
音楽家個人の感覚に忠実な試みなので、しっくりと音楽になじんでいて、
なんら違和を感じさせません。

前作のラストにボーナス・トラックとして収録されたライヴ演奏が素晴らしくて、
客席のポータブル・レコーダーで録音したという
音質の難も忘れて、夢中になりました。
次作はライヴ盤を期待したいな。

それにしても、中西レモンやすずめのティアーズにも思ったことだけれど、
ワールド・ミュージック旧世代が彼我の差ばかりを意識して、
同じ地平に立つことすらできなかったのに比べ、
新世代の彼らは同じ地平に立ち、みずからの身体感覚で
てらいなく音楽を実践するしなやかさを持っていて、まぶしく見えますよ。

大谷翔平の名言「憧れるのをやめましょう」は、
音楽の世界でも通じていたんですね。

Ajate 「DALA TONI」 アジャテワークス/ライス AER3146 (2024)
Ajate 「ALO」 アジャテワークス AJT007 (2019)

↑このページのトップヘ