after you

bunboni こと 荻原和也 の 音楽案内所 musicaholic ブログ(隔日刊 2009年6月2日より)にようこそ。

Searching for good music of the world

カテゴリ: 日本

すずめのティアーズ.jpg

2年前、中西レモンの『ひなのいえづと』を聴いて舌を巻いた、
あがさのプロデュースとアレンジ能力。
https://bunboni.livedoor.blog/2022-10-06
そのあがさと、ブルガリア民謡を現地で学んで、
ブルガリア国営テレビや国営ラジオの民謡番組に出演した経歴を持つ
佐藤みゆきが組んだすずめのティアーズの初アルバムが、
これまたトンデモな傑作。

江州音頭とブルガリア民謡が接続するわ、
神奈川県の洗濯歌にブルガリアの洗濯歌が接続するわ、
秋田の門付けの祝い歌とセルビア民謡が接続するわ、
アンコにトゥバの歌が挟み込まれるわ。
その奇抜なアイディアに驚くばかりなんですけれど、
そこになんら作為を感じさせないところがイイんだな。

この二人の良さは、その自然体ぶり。
探求心のままに世界の音楽を吸収してきたのであろう、
個人の出会いの偶然の産物が、
音楽をとてもしなやかにしています。
伝統を背負ったり、ルーツに縛られる者にはできない身軽さですね。

研究の末といった知に傾いたところがないのもイイ。
歌の由来に共通項を見出して、全く異質の音楽を接続しても、
心にスッとその歌と演奏が入り込んでくるのは、
ネラっていない、意図を持たない、良い意味での無邪気さゆえでしょう。

先日すずめのティアーズと中西レモンの3人のライヴを体験して驚いたのは、
あずさが弾くナイロン弦ギター。中西レモンのアルバムを聴いたときには、
ジャズ・コードやテンション・ノートを使っていないように聞こえたんですが、
じっさいのライヴを観たらバリバリ使ってました。

フラット・セブンス、ナインス、サーティーンス、ディミニッシュ、
さらにパッシング・ノートまで効果的に使い、奄美民謡の「糸繰り節」なんて、
めちゃジャジーになってましたけれど、ジャズ・コードが悪目立ちしないんですね。
すずめのティアーズ 中西レモン 2.jpgジャズではなく、
ブラジル音楽のハーモニーから
学び取ったコード感覚なのかも。

あずさと地声による
二声のポリフォニーで歌う、
佐藤めぐみの声の良さにも
感じ入りました。
佐藤の声には華があり、
中西レモンに負けない
強い声を持っています。
あずさはギターとフレーム・ドラム、
佐藤はブルガリアの縦笛カヴァルと
メロディカと錫杖を演奏。
佐藤の歌ぢからと選曲を、
あずさのアレンジとプロデュース能力で
まとめあげる、すずめのティアーズ。

日本の音楽もワールド・ミュージック時代
からのナレッジが積みあがり、演者自身の
スキルが上がったのを実感します。

すずめのティアーズ 中西レモン 1.jpg

すずめのティアーズ 「SPARROW’S ARROWS FLY SO HIGH」 ドヤサ! DYS007 (2024)

和久井沙良 INTO MY SYSTEM.jpg

昨年聴いたアルバムでぶっちぎりのナンバー・ワンだった、和久井沙良のデビュー作。
https://bunboni.livedoor.blog/archive/c2306281417-1
https://bunboni.livedoor.blog/2023-01-08
はや2作目が届きました。

和久井のピアノに森光奏太のベース、上原俊亮のドラムス、
イシイトモキのギターの3人を核に、シンガーとラッパーを
フィーチャリングする態勢はデビュー作同様。
前半にアグレッシヴな攻めたトーンの曲を並べてドキドキ感を煽り、
中盤にピアノ・ソロを置いてじっくり聴かせるというアルバム構成も同様。

アルバム全体としては続編的内容といえるんですけれど、
各曲それぞれは前作とだいぶ趣向を変えているんですね。
まず、あれっ?と思ったのが、
オープニングの mimiko の歌をフィーチャリングしたタイトル曲。
これ、ウチコミなんですね。エレクトロ・ポップな仕上がりとなっていて、
デビュー作で仰天させられた変拍子使いやポリリズムで
めちゃくちゃプログレッシヴな展開をするオープニングとは違って、
超シンプルな作りになっています。

前作と違って、ウチコミを多用しているのが一番の大きな変化で、
ウチコミを多用しながら、ドラムスだけ生という ‘Morning Bread’ や、
‘Rust’ のアンビエントなサウンドと、
細分化されたドラムスのビートの組み合わせなど、面白い効果を生んでいます。
LioLan から試み始めた、和久井自身によるヴォーカルもすごくいい。

和久井によるトラック・メイキングが増えて、作品のヴァリエーションが増えましたね。
LioLan での経験も生かされて、
ただでさえ幅の広い和久井の音楽性がさらに拡張したようです。

中村佳穂が参加した曲もあって、おぉ、と思ったら、
和久井が中村のファンだったとのこと。
やっぱ才能のある人は、互いに惹かれ合うんだなあ。
https://bunboni.livedoor.blog/2018-12-12

それでいて、和久井の真骨頂といえる拍子がくるくると変わる
展開の曲もちゃんとあって(‘Vernel’)、
その複雑なリズムを ODD Foot Works の Pecori のラップが見事に乗るのは、
ホント、ブラボーですね。

和久井沙良 「INTO MY SYSTEM」 アポロサウンズ APLS2403 (2024)

Cho Co Pa Co Cho Co Quin Quin  tradition.jpg

もしかして細野晴臣のお孫さん?
思わずそんな問いかけをせずにはおれない、
東京の3人組、チョコパコチョコキンキン。

音楽は細野晴臣のトロピカル三部作を参照して、
音像を『HOSONO HOUSE』の宅録サウンドで仕上げたら、
こんなんできました的なエレクトロニカ作品。
細野のひょうひょうとしたヴォーカルや、
ユーモアのセンスまでもが乗り移っているかのよう。

ただどうもこの3人組、細野晴臣を意識して作ったふうな様子がなく、
どこかアマチュアの遊び感覚でイタズラしてたらできちゃった、
みたいな偶然性が感じられるところが、すごく面白い。
「引きこもりのエキゾティカ」みたいなイメージを掻き立てられたんだけど。

別々の曲を同じ歌詞で歌ってみたり、
歌詞の一部を別の曲でそのまま使ってみたりと、
およそプロの目が通っていない、編集者不在の本みたいな
シロウト臭さがいっぱいなのに、それが弱点とならず、
その無邪気さが作品の軽やかさにつながっている不思議さ。

小学生時代の幼なじみだという三人組。
グループ名はキューバのハバナ大学に留学していたメンバーの一人が、
最初に教わったリズム・パターンだそう。口唱歌(口太鼓)なのね。
偶然の産物ぽい作品なので、
次作はまったく別物になっちゃいそうな気もするけれど、
そんな予測不可能なところが楽しみな3人組ですね。

【追記】 2024.7.21
なんにも知らずに冒頭の1行目を書いたんですが、
なんとベース担当は、本当に細野晴臣の孫なんだそうです!

Cho Co Pa Co Cho Co Quin Quin 「tradition」 チョコパ CCPQ00002 (2024)

渡辺貞夫 I’M OLD FASHIONED.jpg 渡辺貞夫 My Dear Life.jpg

ジャズのヴェテランがクロスオーヴァーを手がけるようになったのは77年と、
前回書きましたけれど、その象徴的なミュージシャンがナベサダ(渡辺貞夫)でした。

76年に、ハンク・ジョーンズ、ロン・カーター、トニー・ウィリアムズと
『アイム・オールド・ファッション』というタイトルどおり、ビバップにまでさかのぼった
伝統回顧作を出して、その翌77年に出したのが、デイヴ・グルーシン、リー・リトナー、
チャック・レイニー、ハーヴィー・メイソンとのクロスオーヴァー作
『マイ・ディア・ライフ』だったんですよ。この振れ幅は大きかったよねえ。

76年といえば、前回も書いたリー・リトナーやアール・クルーのデビュー作や、
クルセイダーズの “THOSE SOUTHERN KNIGHTS” に夢中になっていた年。
あ、ジョージ・ベンソンの “BREEZIN'” も76年だっけか。
そういう下地のあった翌77年に、日本でもクロスオーヴァーが大爆発したわけで、
ナベサダがその旗振り役でした。

日野皓正 May Dance.jpg 日野皓正 City Connection.jpg

それには少し出遅れというか、時差があったのが日野皓正で、
77年にクロスオーヴァーではなく、最高にトガったジャズ作品『メイ・ダンス』を出して、
79年にバリバリのクロスオーヴァー作『シティ・コネクション』を出したんでした。
この二作の振れ幅の大きさは、ナベサダの二作と双璧。

『メイ・ダンス』は、トニー・ウィリアムズとロン・カーターという重鎮に、
新人ギタリストのジョン・スコフィールドを加えたカルテットで、
いまでもぼくはヒノテルの最高作はコレだと思っています。

それに対し、79年に出した『シティ・コネクション』は、
冬のサントリーホワイトCMにタイトル曲が起用されて、大ヒットしたんですよね。
クロスオーヴァーが日本で流行したのは、CMタイアップの影響が大きくて、
同じ年の夏にナベサダの「カリフォルニア・シャワー」が
資生堂ブラバスのCMで大ヒットしたのに味をしめたんでしょう。

いまとなってはナベサダの『カリフォルニア・シャワー』を聴き返すことはないですけど、
ヒノテルの『シティ・コネクション』は、冬の定番といってもいいくらい、
今も聴き続けています。ぜんぜん古くならないんですよね。
本作の魅力はヒノテルのトランペットではなく、アルバムが持つムード、
そのサウンドをクリエイトしたレオン・ペーダーヴィスのアレンジにありました。

オープニングから、流麗なストリングスが誘う
ラグジュアリーな都会の夜を演出するサウンドに酔えるんですよ。
ナナ・ヴァスコンセロスがヴォイスでクイーカの音色を模すパフォーマンスをして、
これがいい効果音となった映像的なサウンドで、サウンドトラックかのような仕上がりです。
レゲエのレの字もないこの曲名が「ヒノズ・レゲエ」なのは、失笑ものなんですが。
またヴォーカル曲をフィーチャーしているのも、このアルバムの良いところ。
ジャズがネオ・ソウルと接近しているいまこそ、再評価できるんじゃないかな。

あとこのアルバムで最高の聴きどころが、アンソニー・ジャクソンのベース。
アンソニーでしかあり得ない、シンコペーション使いや裏拍を使ったリズムのノリ、
経過音やテンション・ノートの独特な使い方がたっぷり聞けて、ゾクゾクします。
タイトル曲「シティ・コネクション」のベース・ワークなんて、
アンソニーの代表的名演だと思うぞ。

中古レコード店の100円コーナーの常連だったシティ・ポップが、
いまや壁に飾られるようになったのと同じく、
見下され続けてきたクロスオーヴァー/フュージョンも、返り咲く日がくるか?

渡辺貞夫 with The Great Jazz Trio 「I’M OLD FASHIONED」 イーストウィンド UCCJ4008 (1976)
渡辺貞夫 「MY DEAR LIFE」 フライング・ディスク VICJ61366 (1977)
日野晧正 「MAY DANCE」 フライング・ディスク VICJ77051 (1977)
日野晧正 「CITY CONNECTION」 フライング・ディスク VDP5010 (1979)

山口真文 VIENTO.jpg

山口真文のソプラノ・サックスは、日本一。
そう確信して半世紀近くが経ちますけど、
いまだその確信を揺るがすプレイヤーは現れないから、その見立ては確定済み。

山口真文のソプラノのどこがいいって、音色ですよ。
音色の美しさが天下一品なんです。
サウンドもヴォリュームがあって、堅牢な響きは理想的。
山口のソプラノの硬質なリリシズムが発揮された演奏では、
ケニー・カークランドのエレピとトニー・ウィリアムズのしなやかなドラムスを
後ろ盾にした81年の『MABUMI』収録の「Thalia」や「Illusion」、
96年の『REGALO』収録の「Empty Mirror」「Miros」が忘れられません。

山口真文  MABUMI.jpg 山口真文  REGALO.jpg

山口のソプラノがアグレッシヴな熱演を残したのは、ジャズよりもフュージョンで、
81年の『マダガスカル・レディー』での名演について以前も書きましたけれど、
「Madagascar Lady」「Get Away」の2曲のソロは圧巻です。
https://bunboni.livedoor.blog/2016-06-01
ソプラノ・サックスをあれだけ激しく吹いて、音程がまったく揺らがないのは、
アンブシュアがいかにしっかりしているかってことですよね。

その大・大・大好きな山口のソプラノ・サックスを全曲で聴けるという、
涙ちょちょぎれる新作が出ました。
全曲ソプラノ・サックスのみで演奏したアルバムは、
山口のソロ10作目にして初じゃないですか。

プロデューサーの平野暁臣がライナー・ノーツに、
「彼のソプラノは日本ジャズ界で一二を争う表現力を備えています」と書いていて、
「一二を争う」じゃない、「一」だろと心の中で突っ込んだのですが、
「なんといっても真文さんの音色が美しい」と書いていて、
よくぞこのアルバムを企画してくれたと思いましたねえ。

ワン・ホーン・カルテットで、全曲山口のオリジナル。
ストレート・アヘッドなジャズで、『MABUMI』収録の「Thalia」、
『REGALO』収録の「Empty Mirror」「True Face」を再演しています。
山口らしい研ぎ澄まされた一音一音に、ただただ感服するばかりですよ。
直情型なプレイと制御の利いた冷徹なコントロールのバランスが、
山口のジャズの真骨頂でしょう。

今作では本田珠也の勇猛果敢なドラミングが聴きもの。
片倉真由子という人のピアノは初めて聴きましたが、
マッコイ・タイナーばりのどっしりとした揺るぎないプレイに感じ入りました。
真摯に音楽を追い求めてきたヴェテランならではの、
ビターで奥深い表現を味わえる傑作です。

山口真文 「VIENTO」 Days Of Delight DOD040 (2023)
山口真文 「MABUMI」 トリオ POCS9314 (1981)
山口真文 「REGALO」 イースト・ワークス・エンタテインメント MAB001 (1997)

渡辺翔太  LANDED ON THE MOON.jpg

渡辺翔太のピアノの美しさは、掛け値なしでしょう。
右手が繰り出すメロディアスで華麗なタッチは、
ありし日のジョー・サンプルを思わせるところもあるもんね。

店頭で聴いて即買った前作から、3年ぶりとなる渡辺翔太の新作。
https://bunboni.livedoor.blog/2020-09-04
前作同様、ドラムスは石若駿、ベースは若井俊也のピアノ・トリオ。
前作よりグルーヴ感を強く打ち出した楽曲が増えて、
石若が攻める場面も多くなり、石若ファンにとっては嬉しい限りです。

前作はグレッチェン・パーラトと勘違いした吉田沙良がフィーチャーされていたけど、
今作は Ruri Matsumura という人をフィーチャー。
子供ぽい声質と歌いぶりは、ぼくの苦手とするタイプだなあ。
でもまあ、推進力あるトリオの演奏に重点が置かれているから、
幼児性ヴォーカルはあまり気にならず。
シンセやローズ、ウーリッツァーを駆使したサウンドづくりがツボにハマっています。

渡辺の美しいピアノがよく映える、抒情味のあるメロディのオリジナル曲も
見事な出来ばえなら、ゆいいつのカヴァー曲の ‘Smile’ も素晴らしい。
21世紀になってというか、日本では東日本大震災以降、
よくカヴァーされるようになった曲ですけれど、
後半奔放な演奏となるアレンジが斬新です。
岩井の強力なベース・ソロから始まる ‘Table Factory’ も、
3人の存分な暴れっぷりが胸をすきます 。

ヴィブラフォンを模したシンセで弾かれる ‘Correndo Ó Verão’ もいいね。
「夏を走る」というポルトガル語のタイトルから察するに、
サンバにしたかったみたいだけど、ちょっと違っちゃったかな。
オカシなアクセントで叩いているトライアングルがいただけない。
バイオーンじゃないのなら、トライアングルは必要なかった。

渡辺翔太 「LANDED ON THE MOON」 リボーンウッド RBW0029 (2023)

宇検民謡傑作集.jpg 宇検民謡傑作集 歌詞.jpg

今年は中山音女、キテるなあ。
2023年リイシュー大賞ダントツ1位と、はやばや決定したのが、
中山音女のSPをホンモノのピッチで再現復刻した、
奄美シマ唄音源研究所による労作。
https://bunboni.livedoor.blog/2023-06-15

そのカンゲキもまだ冷めやらぬところに、
今度は音女の戦後録音を収録した貴重な一枚を発見しました。
それが、奄美のセントラル楽器が66年に発売した10インチ盤。
全9曲収録のレコードで、
メインは昭和生まれの吉永武英と石原豊亮の6曲ですけれど、
大正生まれの田原ツユ(ジャケットの「田春」は誤記)が2曲と、
明治生まれの音女が歌う「うらとみ節」1曲が入っています。

歌詞集の唄者紹介に「現在、第一線は退いているが、
これまで美声を保っていることは一つの奇蹟であろう。
39年名瀬で行われた民謡大会に特別出演、喝采をあびた」とあり、
このレコードが出る2年前に民謡大会に出演したことがきっかけとなって、
この録音につながったものと思われます。

音女の戦後録音は、研究者が残した音源は別として、
商業録音ではこの1曲しか、ぼくは知りません。
録音当時は70を越す年齢だったわけで、SP録音時の声と違うのは当然として、
吉永武英や石原豊亮の昭和世代の歌いぶりと大きく違うのがわかります。

とりわけここで音女が歌った「うらとみ節」は、
その違いがはっきりとわかる典型なんですね。
うらとみ節は、「むちゃ加那節」の名でも知られる伝説の悲話をもとにした物語。
現代では悲劇の内容にふさわしく、とても遅いテンポで歌われるのが通例ですが、
音女がここで聞かせる歌いぶりは、まったく違っています。

まず、「うらとみ節」(「むちゃ加那節」)の内容をかいつまんで紹介しておくと、
時は薩摩藩政初期の頃の物語。
瀬戸内町加計呂麻島の生間という集落に、
「うらとみ(浦富)」という美人がいました。
うらとみは島唄と三味線がたいへん上手く、当時鹿児島から来ていた役人に
気に入られて、島妻(島だけの妻=妾)に請われます。
しかしうらとみは役人をかたくなに拒んだことから、
両親は食料を用意した小舟にうらとみを乗せ、沖へ流します。

うらとみを乗せた小舟は何日か漂流した後、喜界島の小野津へ漂着し、
この島でうらとみは結婚し、むちゃ加那をもうけます。
このむちゃ加那も母譲りの美人に育ちました。
ある日、むちゃ加那の美しさを妬む女友達が、あおさ採りにむちゃ加那を誘い出し、
女友達はむちゃ加那を海へ突き落として溺死させます。
そのことを知ったうらとみは狂乱し、入水自殺してしまったのでした。

中野律紀  むちゃ加那.jpg

こうした悲劇ゆえ、歌いぶりがじっくり聞かせる迫真となるのも必然です。
初めてぼくがこの曲を聴いたのは、中野律紀のデビュー作でした。
奇しくも中野律紀は、この「むちゃ加那節」を歌って
最年少の15歳で日本民謡大賞グランプリに輝き、
3年後に出したデビュー作のアルバム・タイトルともなったのです。

武下和平.jpg 南政五郎.jpg

その律紀の洗練された繊細な歌いぶりと、
音女の野趣に富んだ力強い歌いぶりとでは、天と地ほどの違いがありますよ。
このレコードが録音されたのとほぼ同時期にあたる、
62年に録音された武下和平の「むちゃ加那節」や、
64年録音の南政五郎の「うらとみ」と聞き比べると、
音女ほど野趣ではないものの、歌いぶりには力強さがみなぎっています。
そして音女と共通するのは曲のテンポで、
律紀のヴァージョンになると、テンポが極端に落とされていることがわかります。

これは奄美民謡が時代が下るほどに、野性味がなくなって、
情緒豊かな表現を追求するようになり、
グィンの技法など洗練を志向した結果なのでしょう。
明治・大正・昭和生まれの唄者を収録したこの10インチ盤は、
世代の違いによって歌いぶりの変化が聞き取れるだけでなく、
平成から令和を迎えた今となっては、もはや別世界の歌声といえます。

宇検民謡傑作集 CDR.jpg

この10インチ盤は、今ではまったく聴くことができなくなった
昔の奄美民謡の味わいを堪能できる貴重な一枚です。
実は、セントラル楽器でCD化されているんですけれど、
ディスクはCDR、レーベルはレーザー・プリンター印刷という自家製で、
ジャケットなしの歌詞カードのみ。
オリジナルの10インチ盤を捕獲できたのは、嬉しき哉。
レコードは目にも鮮やかな、透明レッド・ヴァイナルのミント盤であります。

[10インチ] 中山オトジョ,田原ツユ,吉永武英,石原豊亮 「宇検民謡傑作集」 セントラル楽器 O12 (1966)
中野律紀 「むちゃ加那」 BMGビクター BVCH604 (1993)
武下和平 「奄美民謡 天才唄者 武下和平傑作集」 セントラル楽器 C3 (1962)
南政五郎 「本場奄美島唄 南政五郎傑作集」 セントラル楽器 TCD02 (1964)

Studio Apartment  World Line NWR2007 .jpg

i-dep.jpg

昔のCDをほじくり返してたら、止まらなくなっちゃいました。
フリーテンポよりも、さらにブラジリアンだったスタジオ・アパートメント。
04年の『WORLD LINE』なんて、バツカーダからスタートするんだから本格的です。
ジョージ・デュークあたりが大手を振っていた
80年代のブラジリアン・フュージョン時代から比べると隔世の感というか、
まがいものだらけだったフュージョン/クラブ・ミュージック周辺も、
この頃になるとようやくホンモノのサンバが聞けるようになってきました。

クラブ・ジャズの音楽家が、何々ふうの演奏でゴマカすのをやめて、
ちゃんと勉強するようになったのに比べ、
あいかわらずダメなのは、ライターの勉強不足ぶりかなあ。
ダンス系の文章は、総じて語彙が貧しいんだけれど、
「トライバル」を乱発するテキストを見たら、読む価値なしと思って間違いないです。

サンバ、マルシャ、バイオーン、フレーヴォが聴き分けられないんじゃ、
ブラジル音楽を語る資格がないように、
アフリカ音楽を語るのに、それがマンデなのかヨルバなのかズールーなのかもわからず、
全部「トライバル」で片づけられると、ほんとウンザリします。
「トライバル」の中身を紐解く知識がなくて、全部「トライバル」で済ます雑さというのは、
ロックもジャズもブルースも「ミュージック」と呼ぶのと同然。
もっとも「トライバル」としか言いようのないフェイクものじゃ、しかたないんだけどね。

話が脱線しちゃいましたが、
スタジオ・アパートメントは、ギター、ピアノ、ホーン・セクションなどの生演奏を
たっぷりフィーチャーしていて、ハウスを起点としていながらも、
クラブ・ジャズのニュアンスが強くて、70年代のクロスオーヴァーや
80年代のフュージョンと地続きで聴ける音楽でした。
フュージョンと違うのは、DJが踊らせることを目的に作る音楽だということですね。

スタジオ・アパートメントの『WORLD LINE』と同じ年に出た
アイ・デップも良かったなあ。
アイ・デップはキーボード、サックス、ギター、ベース、ドラムスというバンド編成で、
生バンドで演奏するクラブ・ジャズでした。
エレクトロな要素がフュージョンとは質感の異なるニュアンスがあって、魅力的でしたね。

楽曲がユーモアに富んでいてチャーミングだったのも、アイ・デップの良さだったなあ。
そうそう思い出したけど、娘たちがスタジオ・アパートメントやアイ・デップが大好きで、
新宿のタワーレコードでやったアイ・デップのインストア・ライヴに
娘二人を連れて観に行ったのを覚えています。

Studio Apartment 「WORLD LINE」 New World NWR2007 (2004)
i-dep 「MEETING POINT」 AZtribe/Rainbow Entertainment AZT001 (2004)

渋さ知らズ  DETTARAMEN.jpg 渋さ知らズ  SOMETHING DIFFERENCE.jpg

渋さ知らズ  BE COOL.jpg 渋さ知らズ  渋祭.jpg

渋さ知らズ  渋龍.jpg 渋さ知らズ  渋旗.jpg

そういや渋さ知らズだって、ちっとも聴いてないなあ。
なんでなんだろう。一時期は毎日浴びるように聴いてたのにねえ。
渋さ知らズは、それまでの日本のアングラ系ジャズにありがちだった
「暗さ」がなくて、そこに惹かれたんですよね。

デビュー作の『渋さ道』(93)だけ、なぜか持ってないんですが、
2作目の『DETTARAMEN』(93)から『渋旗』(02)までは、ずっと聴いていました。
不破大輔が渋さ知らズを始動させる前に、川下直弘(サックス、ヴァイオリン)と
大沼志朗(ドラムス)と活動していたパワー・トリオ、
フェダインにノック・アウトを食らったのも大きかったかな。

Fedayien  FEDAYIEN Ⅱ.jpg

フリー・ジャズど真ん中のフェダインとは違って、
渋さ知らズはメンバーが持つ雑多な音楽が紛れ込んでいて、
ロックからチンドンまでなんでもありの自由さに加え、
なんといっても編成がデカいから、音圧勝負では無双でしたよね。

あの当時は、仕事のプレッシャーがハンパなくてねえ。
身の丈に合わない大きな仕事の連続で、
キモチで負けたら先がないといった日々に、自分を奮い立たせるのに必死でした。
30代半ばから40代半ばの10年間を渋さ知らズが伴走してくれて、
そりゃあずいぶん勇気づけられたものです。

ダンドリストとして渋さ知らズを差配する不破大輔は、
駅伝の青山学院大学の原監督や、サッカー日本代表森保監督、
WBC日本代表の栗山監督に匹敵する、
新しいリーダーのロール・モデルを先取りしていたと思うなあ。

04年の「渋星」が、なんだかすっきり整理されてしまったのにガッカリして、
それから熱が冷めていったんですけど、その後メジャーに移籍して
歌謡曲カヴァーしたりして、ますます疎遠になっちゃいました。

あらためて90年代のアルバムを聴き直してみたら、
やっぱりこの時代の渋さのエネルギー量は圧倒的でしたね。
単純なメロディを、これでもかというくらい繰り返すしつこさと
音塊をぶつけ合って音圧を出すことに血道を上げるバカバカしさを、
どこまで本気で面白がれるかに、渋さの生命線がありました。

いつのまにか渋さ知らズを聴かなくなってしまったのは、
仕事のプレッシャーの質が変わって、
単純な熱量だけでは足りなくなったからなのかもしれないな。
それでも30~40代の働き盛りのリーマンには、
渋さは何にも代えがたい存在だったんですよ。
ひさしぶりに手持ちの渋さ全作とフェダインを聴いたら、
あの当時の仕事やらなんやらの思い出が次々蘇ってきました。

あの頃は、年がら年中仕事で怒っていた気がするけれど、
若かったんだろうねえ。なんでもすぐにムキになってたもんなあ。
あの時一生ぶん怒っちゃったからか、いまや怒ることなんてまったくなくなっちゃった。
渋さ知らズは、怒りが必要だった時代のBGMだったのかも。

渋さ知らズ 「DETTARAMEN」 ナツメグ NC2066 (1993)
渋さ知らズ 「SOMETHING DIFFERENCE」 地底 B1F (1994)
渋さ知らズ 「BE COOL」 地底 B3F (1995)
渋さ知らズ 「渋祭」 地底 B9F (1997)
渋さ知らズ 「渋龍」 地底 B14F (1999)
渋さ知らズ 「渋旗」 地底 B21F (2002)
Fedayien 「FEDAYIEN Ⅱ」 ナツメグ NC2052 (1992)

LioLan  Unbox.jpg

正月早々、ドギモを抜かれた和久井沙良の『TIME WON’T STOP』。
https://bunboni.livedoor.blog/2023-01-08

恐るべき才能を秘めた超ド級新人の登場に刮目したんですが、
はやくも次なるアルバムが届きましたよ。
今作は和久井のソロ作ではなく、
東京藝術大学で和久井の後輩だったというシンガーのキャサリンと組んだユニット。

和久井のソロ作が示したあまたある才能の引き出しの中から、
ポップスに焦点を当てて組んだユニットということになるのかな。
『TIME WON’T STOP』 はデビュー作でもあっただけに、
「私、こんなこともできます」的なさまざまなジャンルへの対応力を開陳していましたが、
今回は J-POP ど真ん中の直球で攻めた戦略でしょうか。

和久井とコンビを組んだキャサリンは、なんでも声優さんでもあるそうで、
藝大の声楽科で鍛えられた幅広い音域を持つ高い技量の持ち主。
鍛えられた発声と堂に入った歌いぶりに、
並みのポップ・シンガーとの格の違いをみせつけます。
クラシックの声楽を修めた人が、ラップまで楽々こなす時代なんだよなあ。
オペラからヒップ・ホップまで、無敵ですな。

和久井が今作で発揮する才能の一番は、作曲。
デビュー作で舌を巻いたキャッチーな曲づくりがここでも如何なく発揮されています。
ジャズ・ミュージシャンらしいトリッキーなパートを作る上手さもバツグンですね。
そして今回のオドロキは、和久井も歌を披露しているところ。
ゆいいつ和久井が作詞もした「natsu no hito」では、てらいのない歌を聞かせていて、
え~、ヴォーカルもできるのかよーと、思わず天を仰いじゃいました。
キャサリンという稀有なヴォーカリストとコンビを組んでも、う~ん、野心を隠さないねえ。

6曲入りのEPで、ウチコミと生演奏が半々。
ベースにはクラックラックスの越智俊介が参加しています。
エレクトロ・ポップあり、ネオ・ソウルあり、ヒップ・ホップR&Bありと、
楽曲のカラーはすべて異なりながら、アルバムの統一感を保つあたりもスゴ腕。
コンポーズのみならずプロデュース能力も、新人離れしてるよなあ。
J-POP と呼ぶにしては、ハイブリッドの度が過ぎます。

LioLan 「UNBOX」 アポロサウンズ APLS2304 (2023)

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