after you

bunboni こと 荻原和也 の 音楽案内所 musicaholic ブログ(隔日刊 2009年6月2日より)にようこそ。

Searching for good music of the world

カテゴリ: ブラジル

Sandra Duailibe
うわぁ、このまろやかさ、たまりませんねえ。
70年代MPBのサウンドを今に引き継ぐ
ヴェテラン・シンガー、サンドラ・ドゥアイリービの20年作。
MPB王道ともいえる柔らかなサウンドだけれど、21世紀の今では
なかなか聴けなくなってしまっただけに、貴重な人ですよね。

本作は北東部パラー州ベレンの作家の曲を多く取り上げたアルバムで、
パウリーニョ・モウラ、サロモーン・アビブ、ニルソン・シャーヴェス、ロベナリ・マルケス
などの作品を歌っています。
サンドラはパラーのお隣の州、マラニョン州サン・ルイスの生まれですけれど、
ベレンで育ったので、ベレンがホームグラウンドなのですね。

サンドラのキャリアはちょっと変わっていて、5歳から音楽を始めて15歳まで
クラシック・ピアノを習っていたものの、大学では歯学を専攻して
ブラジリアで歯科医として9年間勤務しています。
その後もっと夢を育む仕事をしたいと旅行代理店を設立し、
さらにコンビニエンス・ストアを開くなどしたあと、歌手になったのでした。

その落ち着いた歌声は、相応の人生経験を積んだからゆえなのか、
聴き手を包み込む懐の深さがあって、その歌声に安心して身をゆだねることができます。
そしてサンバ、ショーロ、ボサ・ノーヴァをベースにした、
生楽器主体の伴奏も申し分ありません。
バンドリン、アコーディオン、フルート、ハーモニカが効果的に配されています。

ベレンの作曲家たちの作品といっても、北東部音楽の要素は皆無で、
すがすがしいほど王道のMPBを聞かせてくれます。
これこそブラジリダージだよね。

Sandra Duailibe  "DO CANTO"  no label  no number  (2020)

Toca De Tatu
この4人組は知らなかったなあ。
7弦ギター、カヴァキーニョ、ピアノ、パーカッションという編成の
ミナスのインスト・グループ。

これが2作目という17年作を手に入れたんですが、
古典ショーロを思わせるオープニングに惹きつけられました。
曲名を見ると、なんと ‘Mozareth’。
モーツァルトとナザレーを合体させたオリジナル曲で、う~ん、なるほどぉ。
2曲目はバイオーンのリズムとミナスのハーモニーを融合させて、
複雑なメロディ展開を聞かせる曲。

いずれの曲もショーロを基礎としながら、クラシックの素養のうえに、
現代音楽やジャズの訓練を積んだ技巧を駆使していて、
まさに現代ブラジルのインスト音楽といった演奏を聞かせます。
コンテンポラリー・ジャズの影響も聴き取れるけれど、リズム・セクションが
ドラムス・ベースでなくパーカッションだから、ジャズ成分は薄めですね。

曲によって4人のほかに、コントラバス、ヴィブラフォン、ソプラノ・サックス、
そしてミナスのヴェテラン、セルジオ・サントスがスキャットで参加して、
ミナス独特のハーモニーとショーロの伝統が溶け合った演奏を聞かせてくれます。

ただ個人的に受け付けられなかったのが、
アルバム・ラストのラファエル・マルチーニの曲。
ラファエル・マルチーニの12年のソロ作 “MOTIVO” は、
ミナス新世代音楽として一部で絶賛されましたけれど、
当方はあのアルバムにヘキエキしたクチ。

やたらと小難しいコンポジションは、ユーモアのセンス皆無で、
大仰に盛り上げるアレンジも野暮ったいとしか思えず。
自分とはまったく相性の悪いアーティストなのです。
ラスト曲はいかにもラファエルらしいドラマティックな楽想とアレンジなので、
この曲のみパスして聴いております。あしからず。

Toca De Tatu  "AFINIDADE"  no label  TT002  (2017)

Lia De Itamaracá & Daúde  PELOS OLHOS DO MAR
えぇ~?
シランダの女主人とバイーアのディーヴァが共演とは、
想像だにしませんでしたねえ。ていうかダウージって、今も歌っていたのか。
10年以上その名を聞くことがなくなっていたけれど。

リア・ジ・イタマラカーの20年作は、
オーセンティックなシランダをベースにしながら、
ハイブリッドなプロダクションでシランダをアップデイトした快作でした。
20年のベスト10にも、迷うことなく入れましたからね。

すっかりその名を忘れていたダウージは、
セルソ・フォンセカがプロデュースしたデビュー作で一躍時の人となったシンガー。
当時ブラジリアン・ソウルのリヴァイヴァル・ブームで、
UKのクラブ・ジャズと共振したシーンのど真ん中にいた人でしたね。
Daúde  DAÚDE Daúde  #2
30年ぶりに聴き返したけれど、
ジョルジ・ベンの ‘Chove Chuva’ のカヴァーはやっぱ秀逸。
う~ん、カッコいいじゃないですか。
セカンドは、セルソとUKプロデューサーのウィル・モワットの共同プロデュース。
こちらではミリアム・マケーバの ‘Pata Pata’ をカヴァーしてました。

そんな意外な二人を結び付けたのは、 リアの30年来のマネージャーで、
シランダ・プロダクションのディレクターでもある、ベト・エース。
リアがサン・パウロやリオを行き来するなかでダウージと共演するチャンスがあり、
出会う前からダウージを「この子、すごくクール!」と思っていただけに、
会ってすぐに意気投合したそうで、ベト・エースの企画は渡りに船だったようです。

レパートリーはシランダやココのほか、リアがお気に入りのボレーロに加え、
多くの新曲が選ばれています。楽曲を提供したのは、
リアの前作でも曲を提供していたシコ・セザールをはじめ、
セウ、エミシーダ、オットー、元コマドリ・フロジーニャのカリーナ・ブールに、
バイアーナシステムのヴォーカル、ルッソ・パッサピッソといった面々。

元ナソーン・ズンビのドラマー、プピージョが音楽監督を務めた本作は、
ダブやエレクトロなど現代的な手法を使って、
豊かな音のタペストリーを織り上げています。
ノルデスチとバイーアを繋ぐアフロ・ブラジリアン・ミュージックに、
アフリカ起源のカリブ音楽の要素も取り込んで、
ブラジル黒人音楽の伝統を再解釈した意欲的な力作です。

Lia De Itamaracá & Daúde  "PELOS OLHOS DO MAR"  SESC  CDSS0221/25  (2025)
Daúde  "DAÚDE"  Natasha  NAT1001-2  (1995)
Daúde  "#2"  Natasha  292.101  (1997)

Rogê  NÔMADE
サンバ・ソウルのあんちゃん、ロジェーの見覚えのないCDを発見。
18年に出たみたいなんだけど、これ、日本に入って来たことあったの?

ロジェーといえば、フォロファ・カリオカの流れを汲む
ストリート育ちの匂いをまき散らしていたデビュー作がすごく好きだったんだけど、
やんちゃぶりを発揮したのはそのデビュー作一枚だけ。
その後はすっかり真面目な社会人ふうの大人な歌いぶりになってしまって、
不良ぽさがすっかり抜けてしまったことに、ガッカリ気分が拭えなかったんです。

でもまあキャッチーな曲が書ける人だし、
一級品のサンバ・ソウル/ファンクを聞ける人だから、
その後の12年作、14年作も聴いていたし、
アルリンド・クルスと組んだ15年作まではフォローしてました。

その後ロジェーはリオからロス・アンジェルスに移住してしまい、
アメリカで出したアルバムは、正直落胆。
これでぼくはロジェー・ファンの看板を下ろしてしまいました。

これは渡米前の作品なので、それではと聴いてみたんですが、
さすが並みのサンバ・ソウルとは格段の違いを見せつけてくれます。
やっぱりソングライティング力が違うね。
フックの利いた曲作りにバツグンのセンスがありますよ。

ロジェーとガブリエル・モウラとリシャール・ボナが共作した
オープニングの ‘Os Escambau’ は、ボナとロジェーの作風が見事にマッチ。
ボナのふくよかな歌声と多重ヴォイスに、良く弾むベース・プレイも楽しめます。 
いかにもロジェーらしい作風の  ‘Pra Você Amigo’ では、
やんちゃな歌い口も聴き取れるし、ネイ・ロペスと共作した ‘Diáspora Negra’ では
ロジェーのサンバ魂が聴き取れますよ。

それにしても、カシンがプロデュースして、
リシャール・ボナやセルジオ・メンデスがゲスト参加するという、
メジャー・レーベルが制作したような絢爛豪華さなのに、
なんでまたこれをインディから出したんでしょう。

そこらへんの事情はよくわかりませんが、同時期に復活した
バンダ・ブラック・リオの19年作をちょうどヘヴィロテしていることもあって、
自分のところにやってきているサンバ・ソウル/ファンクの波はまだ続きそうです。

Rogê  "NÔMADE"  no label  no number  (2018)

Geovane Santos  CIRANDA
老齢の黒人の両手をアップに捕らえたジャケット写真と、
『シランダ』というタイトルに目を奪われました。
シランダはブラジル北東部イタマラカー島を発祥とする女性のダンス。
詳しくは昔書いた記事を参照してください。
https://bunboni.livedoor.blog/2020-04-17

ブラジルでもなかなかシランダをテーマにした作品にお目にかかることがないのに、
ニュー・オーリンズのインディ・レーベルから出たアメリカ盤とは、いったいどういうこと?
主役のジェオヴァニ・サントスが誰かもわからずに、ジャケ買いしました。

聴いてみると、ナイロン弦ギターが主役のインスト・アルバム。
ジェオヴァニ・サントスはベロ・オリゾンチ出身、
現在はニュー・オーリンズで活動するギタリスト。
全曲ジェオヴァニのオリジナル曲で、バックにはエレクトリック・ベースとドラムス、
曲によりエレピやサックス、トロンボーン、ヴァイオリンが加わるという編成。

くだんのタイトル曲のみ、ジェオヴァニが歌っているんですが、
リズムはシランダではなく、ジェオヴァニの祖母に捧げた作品のようです。
ジェオヴァニはクラシック・ギターからキャリアをスタートし、のちにジャズを習得して
アフロ・ブラジルに根ざしながらジャンル横断した活動をしてきたとのこと。
本作もジャズ・ベースの演奏で、アフロ・ブラジリアン・ミュージックの要素は
あまり表に出さず、リズムに忍ばせる程度といったところですかね。

なので、「シランダ」というタイトルに反応して
ディープなアフロ・ブラジル音楽を期待するとアテが外れますが、
気持ちの良いインスト・ギター・アルバムとして楽しむことができます。
ボーナス・トラック扱いのラスト3曲がユニークで、
クラシカルなヴァルサ、マヌーシュ・スウィング、デキシーランド・ジャズというもの。
このギタリストのヴァーサタイルな魅力が伝わってきます。

Geovane Santos  "CIRANDA"  G7b5music  no number  (2022)

Izaías Do Bandolim e Luizinho 7 Cordas
去年の暮れからクァルテート・ローダ・ジ・ショーロをずっと愛聴しているんですが、
恰好なタイミングで、クァルテートの一員の7弦ギタリスト、
ルイジーニョとバンドリン奏者のイザイアスのデュオ・アルバムが届きました。

イザイアスはサン・パウロのショーロ界の重鎮ともいえる人で、
ぼくの大好きなバンドリン奏者。以前記事を書いたことがありましたね。
一方、ルイジーニョはネルソン・ゴンサルヴィス、シルヴィオ・カルダス、
エリゼッチ・カルドーゾ、クララ・ヌネス、ベッチ・カルヴァーリョなど
多くのサンバ歌手の伴奏を務めてきた大ヴェテラン。
てっきりリオの人かと思い込んでいたんですけれど、サン・パウロの人だったんですね。

ということで、サン・パウロのサンバ/ショーロ界の二大巨頭というわけですが、
意外にも二人はこれまで一緒に録音したことがなく、
これが初のスタジオ共演とのこと。18年6月録音なので(なぜ7年も寝かせた?)、
37年生まれのイザイアスは81歳、46年生まれのイザイアスは72歳ですけれど、
プレイに衰えなど微塵もなし。

二人のオリジナルを1曲ずつ持ち寄ったほかは、アナクレット・ジ・メデイロス、
ピシンギーニャ、ジャコー・ド・バンドリン、アルタミーロ・カリーリョといった
ショーロの名作曲家/演奏家のショーロが選曲されています。

ジャコーゆずりのイザイアスのバンドリンの歌わせ方、泣かせ方は、当代随一。
弦から情感が零れ落ちるようなプレイは、
若手のバンドリン奏者が束になっても敵わない境地じゃないかしらん。
一方のルイジーニョは、ジノ直系といえるサンバ/ショーロのプレイ。
カウンター・メロディをバリバリ弾きながらイザイアスと対話を重ねます。
二人がフレーズの強弱をぴたりと合わせながら、ハーモニーを生み出していくのを聴くと、
ショーロという音楽の贅沢に陶然としますね。

Izaías Do Bandolim e Luizinho 7 Cordas  "ENCONTRO DE MESTRES"  SESC  CDSS0218/25  (2025)

Quarteto Roda De Choro
クラリネット、7弦ギター、カヴァキーニョ、パンデイロの4人による正統派ショーロ。
聴いていて、思わず涙ぐんじゃいました。
あぁ、やっぱり、ぼくはこういう音楽が一番好きなんだなあ。

現代音楽やプログレッシヴなインストルメンタル音楽に接近して、
芸術志向を強めるショーロ作品が目立つようになった今日この頃。
アマチュアの楽しみとして庶民が裏庭で演奏しているような普段着のショーロは、
CD作品として残されることはなくなり、すっかり聞けなくなってしまいました。
それでも10年前くらいまでは、まだこういう作品が出されていたんですねえ。

もちろんここで演奏しているのは、アマチュアなどではなく、
ルイジーニョ(7弦ギター)、ミルトン・モリ(カヴァキーニョ)、
アレシャンドリ・リベイロ(クラリネット)、レオ・ロドリゲス(パンデイロ)といった
サン・パウロの実力者揃い。

それでもここで演奏されるのは、即興を競い合うようなショーロではなく、
美しいメロディをそのままに、
余計なアレンジなどせずに奏でるショーロ原点の姿があります。
そうした姿勢で演奏に臨むことで、ピシンギーニャ、アルタミーロ・カリーリョ、
アベル・フェレイラ、ルイス・アメリカーノ、セヴェリーノ・アラウージョ、シヴーカら
巨匠たちの名曲を、ありのままの姿で楽しむことができるのです。

クラリネットがユーモラスな吹奏をしたり、
カヴァキーニョがリズムを変化させたりと、
芸達者なメンバたちの当意即妙な演奏が、本当に楽しそう。
それらを聴いているだけでこちらの頬も緩み、幸せいっぱいの気持ちになります。

クラリネットが主役のショーロといえば、パウロ・モウラの83年作
 “MISTURA E MANDA” が最高の愛顧盤なんですが、
奇しくも両作ともセヴェリーノ・アラウージョの 
'Um Chorinho Pra Você' で始まるという偶然。
こちらも長く愛聴できそうなアルバムです。

Quarteto Roda De Choro  "QUARTETO RODA DE CHORO"  Scubidu Music  SDU020  (2015)

Trio 3-63  MUACY
この作品は知らなかったなぁ。
パーカッショニストのマルコス・スザーナ、フルート奏者のアンドレア・エルネスト、
ピアニストのパウロ・ブラーガによるトリオ 3-63のセカンド作。
ブラジリアン・ジャズの異才、モアシール・サントスをトリビュートしたアルバムで、
モアシールの曲を中心に、ラダメース・ニャターリ、パウロ・ブラーガ、
カルロス・ネグレイロスの曲を含む計10曲が収録されています。

モアシールは、十二音技法を駆使した作曲と、
クラシック音楽から習得したハーモニーをジャズ・オーケストラに応用した編曲で
知られるプログレッシヴな作編曲家。モアシールの楽譜には、
アフロ・ブラジリアン・リズム(モアシールは「リトモ・アフロ」と呼んでいました)の
シンコペートするリズムが、注意深く厳密に指定されていたといいます。

アンドレア・エルネストは、モアシールが遺したアーカイヴを研究して
博士論文を書いていて、本作では音楽監督を務めています。
本作に収録されたモアシールの未発表曲3曲 'The Beautiful Life'  'Sambatango'
 'Love Go Down' のうち、'Love Go Down' はアンドレアが
カリフォルニアでモアシールのアーカイヴから発見したものだそうです。

モアシールは67年にアメリカに移住して、ヘンリー・マンシーニと共演しましたが、
ブラジル時代に披露していたプログレッシヴなオーケストレーションを
発展することはなかったように思います。
あまりに早すぎた異才だったということなんでしょうねえ。
そのモアシールの曲を3人というミニマムな編成で再解釈したのが本作。

当時は難解とされたモアシールの作品ですけれど、
ナラ・レオンがデビュー作で歌った 'Nanã (Coisa nº 5)' というヒット曲があったように、
ギンガがこれだけ愛されるいまでは、もう敬遠されることもないでしょう。
その意味ではようやく時代が追いついたというか、
再評価される時代になったということですね(10年以上前の作品だけど)。

Trio 3-63  "MUACY"  Samba Town/Fina Flor  STW005  (2014)

Banda Black Rio  O SOM DAS AMÉRICAS
afer you 3000本目のエントリーは、
まったく期待もせず、770円ならばと買った1枚について。
これが今回一番意外にも良かったんで、驚いちゃったんですが。

ブラジリアン・ファンクのバンダ・ブラック・リオの結成40周年記念盤。
大御所の何周年記念盤だとか、豪華ゲストが多数参加なんてレコードに
ロクなものはない、というのがぼくの昔から変わらぬ見立てで
好みのミュージシャンでも、この手の企画盤に手を伸ばさないんだけど、これは違ったな。

バンダ・ブラック・リオは76年結成。77・78・80年に3作を残すも、
中心メンバーのサックス奏者オベルダン・マガリャンイスが84年に死去して活動休止。
2001年にオベルダンの息子ウィリアム・マガリャンイスが中心となって
再結成したとは聞いていたけれど、アルバムは聴かないままでした。

いやぁ、メロウなブラジリアン・ファンクがテンコ盛りじゃないですか。
往時のバンド・サウンドとは段違いで、ちょっと同じバンドとは思えない。。。
と思ったらメンバーは一新してるんだね。
新生バンダ・ブラック・リオは、かつてのB級感を完全払拭して、
プロダクションは完全にインターナショナル・クラスのクオリティ。

ところで日本語解説に「ブラジルのアース・ウィンド&ファイア」と称されていることに
疑義が唱えられていましたけれど、ぼくもそれには完全同意だな。
もともとインスト・バンドだったんだから、
ジャズ・ファンクよりフュージョンに寄せたバンドだよね。
その意味ではクルセイダーズの方が近いんじゃない。
本作でも 'Arthur E O Gigante' なんて、テクニカルなフュージョン曲をやっていて、
これはクルセイダーズというより、スタンリー・クラークみたい。

かつてのバンダ・ブラック・リオを生み出したブラック・リオ・ムーヴメントが、
カンデイアが黒人芸術を意識した作品を発表したり、キロンボが誕生したりと、
パルチード・アルトを前面に押し出した当時のサンバの潮流と、
実は同時進行で進んでいたということを、
田中勝則さんが『ブラジル音楽歴史物語』で指摘していました。

両者をまったく別物と捉えていたぼくには、
この指摘はめちゃくちゃ刺激的で、示唆に富むものでしたね。
オベルダン・マガリャンイスは、インペリオ・セラーノを創立した
シラス・ジ・オリヴェイラの甥だというのだから、なおさら「うわー」でした。

アメリカのソウル/ファンクを横目にしていた70年代から約半世紀、
インコグニートが夢中になり、
ロンドンのファー・アウト・レコーディングスが制作するなど、
UKシーンと共振するのも、このアルバムを聴けばよく理解できます。
カエターノやジルベルト・ジル、エルザ・ソアーレスの豪華ゲストはどうでもいいや。
晩年のエルザなんて声が汚くなって、ウンザリだし。

それより全曲の作曲に関わり、プロデュース、マルチ奏者としてのプレイなど、
ウィリアム・マガリャンイスの八面六臂の活躍がスゴイ。
この人の才覚がバンダ・ブラック・リオを蘇らせるだけでなく、
現代にブラッシュ・アップさせたんだね。

Banda Black Rio  "O SOM DAS AMÉRICAS"  Uriversal  060257731050  (2019)

Bruna Moraes  OLHO DE DENTRO
これはまったく気付かなかった聞き逃し案件。
ブラジル音楽の良心といえる名門レーベル、クアルッピから出た
女性シンガー・ソングライターの13年作。

ピアノ、アコーディオン兼バンドネオン、7弦ギター、ギター、カヴァキーニョ、
エレクトリック・ギター、ベース、ドラムス、パーカッションという編成で、
ジャジーな伴奏にのって聞かせます。
ちょっとジアナ・ヴィスカルジを思い出す音作りですね。

冒頭、いきなりバイオーンのリズムで始まり意表を突かれますが、
そのあとすぐにハリのあるブルーナの歌がのってきて、心躍ります。
ディクションがすごく良くって、つぶやくようなパートでも声が立ち、
明晰な発音がもたらす音の粒立ちの良さに感じ入りました。
才気を感じさせる歌声ですね。
スローでの情感のある歌いぶり、起伏のある歌唱表現も見事です。

ソングライティングもよく、派手さのない佳曲を書ける人です。
カヴァーでは、バンドネオンをフィーチャーしてタンゴにアレンジした
シコ・ブアルキの 'Sem Fantasia' や、タイグァーラの 'Levante do Borel' 、
ジョアン・ジルベルトが取り上げたジェラルド・ペレイラの 'Bolinha De Papel' の
サンバ2曲を取り上げていて、その選曲のセンスも秀逸ですね。

アルバムは12年も前のこの1作しか出していないようで、
これほどの才能の人がなぜという気がしますが、
バイオを調べてみたら本作がデビュー作で、なんと当時18歳だったとのこと!
え~、まさか十代とは思わなかったなあ。
思わずジャケットを見返したけれど、大人びてるよねえ。
こんなに成熟した歌を歌える十代って、スゴくないですか。

Bruna Moraes  "OLHO DE DENTRO"  Kuarup  KCD224  (2013)

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