
タイの旋律打楽器コーンウォンのなかに座り、
女性が両手で別々の太鼓を叩いているジャケットに目を奪われました。
タイの伝統音楽のアルバムかと思いきや、
カナダ、モントリオール在住のタイ人女性ドラマーの作品で、
写真に写っているのがご本人だというのだから、
こりゃあ聞かないわけにはいかないでしょう。
バンコク出身のサリン・チーワパンスリは、19歳で夢を追って北米へと渡り、
ストリート・ライヴからキャリアをスタートさせたというドラマー。
ジャズ、ファンク、ヒップ・ホップ、メタル、ドラムンベースなど、
さまざまなアーティストと共演するまで成長し、
現在はスタジオ・ミュージシャンとして活躍。
カナダ各地のジャズ・フェスティヴァルにも出演しているそうです。
本作が2作目で、タイトルの「ラマナー」とは、
ジャケットでサリンが左手で叩いている平面太鼓のこと。
「ラムマナー」や「ランマーナ」と書いているテキストがありますが、その発音違います。
マレイシアのルバーナと同種の打楽器ですね。
右手で叩いている円錐形の打楽器トーンと対で演奏します。
サリンが使っているラマナーは、タイ南部の海洋民ウラク・ラウォイッのもので、
ウラク・ラウォイッがアフリカのリズムと音楽をタイにもたらしたのではないかと思いつき、
タイの先住民についてリサーチし始めるようになったといいます。
一方、フェラ・クティやミーターズを好むサリンは、
アフロビートとモーラムの融合を本作で試みたんですね。
これが本格的でスゴいんです。サリンのドラミングの腕前は一級品。
アフロビートのグルーヴにのせ、分厚いホーン・セクションが躍動するなか、
ケーンやピンにモーラムのこぶし回しがなんの違和感もなく
サウンドに溶け合っている ‘Ma’at (มา อัด…)’ もあれば、
アフロビートのパートから、いきなりケーンがモーラムを吹くパートにスイッチして、
ドキリとさせられる ‘Current’ と、アレンジのアイディアもいろいろ。
‘Egungun’ という曲名はヨルバ好きには気になるところだけれど、
なぜこのタイトル? 音楽はヨルバとはなんの関係もなさそうだけど。
全編アフロビートというわけではなく、
中盤にはエレピとギターが幻想的なサウンドスケープを描くインタールードに続き、
ネオ・ソウル調のジャジーなトラックもあり。
中盤の3曲は、マルチ奏者ルーカス・ザフィリスの作曲となっています。
そして後半はアフロビートのグルーヴがやや後退した、
アフロ・ジャズ・ファンク調のトラックとなっています。
‘Puaj’ でフィーチャーされるサイケデリックな楽器音は、
サリンがサンプリングした少数民族ニャークルの竹製口琴プアとのこと。
‘Being Here’ で演奏されている楽器はなんだろう? 弦楽器みたいだけど。
サリンの YouTube チャンネルの
“Behind the inspiration of Rammana” を見ると、
イサーンの吊るし木琴ポンラーンや壺の打楽器ハイなども出てくるので、
これらもサンプリングで使われているのかもしれません。
ラストのタイトル曲はウラク・ラウォイッの民謡にインスパイアされて、
サリンとコンゴ系カナダ人パーカッショニストが作曲した曲。
「乾杯!」を意味する「マチャイヨ!(มาไชโย)」を連呼するキャッチーさがいい。
サリンがクリエイトしたタイ・アフロ・ファンク、これは世界にアピールしますよ。
Salin "RAMMANA" Salin no number (2025)