
リスボンのエレクトロニック・ミュージック・レーベル、プリンシペが珍しくCDリリース。
このレーベルは基本フィジカルを作らないので、これは貴重ですよ。
プリンシペに所属するさまざまなDJのトラックをコンパイルしたCDを
以前紹介したことがありましたが、本作はそれに次ぐ第2弾。
2枚組全38トラック。
2010年からの未発表曲を詰め込んだアーカイヴ集となっています。
全トラック、すべて違う名前のDJ名がクレジットされているので、
各アーティスト1曲ということになりますね。
それでいてこの統一感は、このレーベルに集うDJのサウンド志向が
いかに共通しているかを物語っています。
サウンドの特徴は、第一にパーカッション・ミュージックを
エレクトロニック・ミュージックにトレースしていること。
エレクトロニック・ミュージックにトレースしていること。
ビート・メイキングとウワモノといった二重構造になっていないところが、
ハウスとの大きな違い。パーカッシヴな音をレイヤーしているので、
鍵盤で押さえたコードのハーモニーをレイヤーさせるハウスとは違い、
音の隙間が多く、スカスカなサウンドにも聞こえます。
第二にポリリズムを追求していること。
ビート・メイキングがめちゃくちゃ手が込んでいて、
ハウスの四つ打ち的な単調さとは、まるで無縁。
どこまで作り込んでいるのかと呆れるばかりで、
凝りまくったビート・メイキングが生み出す、
つっかかるようなビートだったり、ギクシャクしたビートが、
生演奏と変わらないグルーヴを巻き起こします。
第三にパーカッションのサンプリングの執着。
ハウスやテクノのようにシンセ音をレイヤーするのではなくて、
低音から高音までさまざまな音域のパーカッションのサンプリングが出入りして
鳴らされて、そこにシンセ・ベースと絡みあうんですね。
ンンセ・ベースの音がバラフォンの低音板の音のように聞こえたりと、
どこまでもアフリカ音楽由来を感じさせる響きを持っています。
たとえば曲名にサンバが謳われている ‘Samba no Pé (Dedicação ao Lilocox)’ は、
フリジデイラやクイーカのようなパーカッションの音がサンプリングされて、
サンバぽいイメージを喚起させるものの、
リズムは4分の2拍子ではなく4分の4拍子で、脱構築したサンバといったもの。
生演奏をビート・メイキングにトレースするセンスで生み出される
プリンシペのアフロ・ポルトゥギース・エレクトロニック・ミュージックは、
パーカッション・ミュージックに目のない自分にとって、恰好の音楽。
クドゥロにまったくノレなかった当方ですけれど、これはドハマリでした。

そういえば、先月ディノ・ディサンティアゴをインタヴューした時に、
同席したブランコ(元ブラカ・ソム・システマのDJ)に
プリンシペについて聞いてみたんだけれど、なぜか反応は薄かったなあ。
マルフォックスのことは評価していたみたいだけど、
掘り下げた感想が聞けなかったのは残念でした。
余談ついでに、前回の記事でペドロ・コスタ監督の大傑作『ヴァンダの部屋』を
持ち出しましたが、奇しくもいまユーロスペースで、
ペドロ・コスタ監督の初期3作の4Kレストア版が公開中。
アフロ・ポルトゥギース・エレクトロニック・ミュージックの見本市ともいうべき2CD、
極上です。
v.a. "NÃO ESTRAGOU NADA" Príncipe P066 (2025)
Buraka Som Sistema "KOMBA" Enchufada ENCD015 (2011)