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bunboni こと 荻原和也 の 音楽案内所 musicaholic ブログ(隔日刊 2009年6月2日より)にようこそ。

『ミュージック・マガジン』7月号にディノ・ディサンティアゴのインタヴュー記事を寄稿しました。ぜひお読みください。

カテゴリ: 南アメリカ

Irma Osno  Ayla Ayacucho
ペルー、アヤクーチョ地方の自然と先住民ケチュア人の営みを、
フォルクローレの様式が登場するよりも前の、
歌の原初にさかのぼって表現しようとする秩父在住イルマ・オスノの2作目。
ちらっと試聴しただけで、こりゃあ傑作だと確信し、
発売日に催される記念ライヴの会場で買おうともくろみました。

ヴォイス・パフォーマーと呼ぶにふさわしい、その類い稀なる歌声は、
デビュー作やさまざまな音楽家との共演で承知していましたけれど、
今作ほど自由闊達な発想のアレンジがイルマの歌声を引き立て、
相乗効果をもたらした作品はなかったんじゃないですかね。
日本人音楽家との共演によって、フォルクローレという様式に回収されることなく、
実験的な音処理もいとわずに、解き放たれた音空間で
ケチュアの魂に迫ろうとしています。

ライヴでも日本人音楽家の柔軟な音楽性が、
鮮やかなコラボレーションに結実していました。
なかでも、チューバ奏者高岡大佑との相性はバツグン。
高岡は板橋文夫オーケストラや渋谷毅エッセンシャル・エリントンなどでの
ジャズにとどまらず、即興や音響のフィールドに拡張して活躍しているミュージシャン。
八丈島の自然環境の中で、チューバの即興演奏をフィールド・レコーディングした
作品も出しているような音楽家です。
高岡大佑 Hachijo
また、清水悠のエレクトリック・ギターにも瞠目しましたよ。
アヤクーチョ県ビクトル・ファハルドのカルナバルの曲で、
メロディをいったん解体して分散和音でギター演奏するアレンジを施していて、
ハーモニクスを効果的に使った曲解釈にはウナりました。
この曲、CDではライヴ以上に大胆なパフォーマンスを清水は繰り広げています。
20250215 Irma 2

20250215 Irma 1
こうしたペルーで歌手活動していたら実現しえない、
ケチャア人としてのアイデンティティを問い直し、
ケチュアの魂を未来へとつなげようとするイルマの志が結実した傑作だと思います。
一点だけ制作側に注文をつけるなら、トラック・リストがすべて和訳なのは疑問。
スペイン語による曲名表記が欲しかったですね。

Irma Osno  「AYLA AYACUCHO」  TDA  002 (2024)
高岡大祐  「SOUND FISHING HACHIJO」  blowbass 005  (2020)

Saïna Manotte  KI MOUN MO SA.jpg Saïna Manotte  DIBOUT.jpg

サイナ・マノットというステキなクレオール・ポップのシンガーを知りました。
20年にデビュー作を出し、22年にセカンドを出しているんですが、
日本に入ってきたことがなく、お目にかかったことはありませんでした。

今年は寒さが厳しくなったあたりから、
アラブのシャバービーの女性歌手まつりが続いていたんですけれど、
サイナ・マノットはそれと似たテイストの人で、
フランス領ギアナのクレオール・ポップとしては珍しく、
哀感を強調するせつな系の歌い口のシンガーです。

サイナ・マノットは、92年フランス領ギアナの首都カイエンヌの生まれ。
17年に結婚したマキシム・マノットともに作曲・プロデュースしたデビュー作で、
ギュイヤンヌ・フランセーズの新しいミューズとして大きな注目を浴びました。
ラ・シガールで開かれたマラヴォワのコンサートのオープニング・アクトを務めたほか、
デデ・サン=プリのオープニング・アクトも務めたのだとか。

そのデビュー作では、サイナ・マノットがピアノ、シンセを弾き、
サイナの夫のマキシム・マノットがギター、ベース、アレンジを担い、
あともう一人のパーカッションの3人でサウンドを作っています。
あと曲によって、別のギタリストのサポートが付くだけですね。

22年のセカンドでも、サイナ以外の別の人が鍵盤をサポートしているものの、
少ない人数で制作している点は変わらず。
ヌケのあるサウンドが風通しよく、ヴァラエティ豊かな楽曲を
さまざまに料理していて、3人という少人数の制作とは思えないほど。
2作に共通するのは、楽曲の良さですねえ。

サイナのチャーミングな歌声が哀愁たっぷりの楽曲と絶妙にマッチして、
フレンチ・カリブのズークより、アンゴラのキゾンバに親和性を感じさせるこの2作、
日本で知られないままではもったいない。
輸入業者さん、ぜひ仕入れてください。

Saïna Manotte "KI MOUN MO SA" Aztec Musique CM2659 (2020)
Saïna Manotte "DIBOUT" Aztec Musique CM2805 (2022)

Magín Díaz  EL ORISHA DE LA ROSA.jpg

前回記事のアルバムをきっかけに始めたコロンビア盤輸入作戦でしたけれど、
まさかこのCDを入手できるとは思っていませんでした。
既に入手困難で、レアCDになっていると聞いていただけに、
「あるよ」の返事をもらった時は、思わずガッツ・ポーズしちゃったもんねえ。

マヒン・ディアスが誰かも知らず、いい味出してるオヤジが写ったジャケットに、
これ、ゼッタイいいヤツ!とヨダレを垂らしてたんですが、
いやぁ、手に入れてみて、想像をはるかに超えたトンデモ級の大傑作で、
大カンゲキしちゃいました。

Magín Díaz  EL ORISHA DE LA ROSA package.jpg

まずCDが届き、外装フィルムをはがして、装丁の豪華さにビックリ。
観音開きになっている左右には、上下に開くポケットが付いていて、
計4つのポケットには、それぞれCD、ブックレット、
18枚のアートカードを封入した、二つのエンヴェロップが入っています。
ひと昔前のコロンビアではとても考えられないような、
アーティスティックなパッケージに、ドギモを抜かれました。

ボーナス・トラックの2曲を含む全18曲、収録時間78分40秒に及ぶこのアルバム、
四大陸13か国から、100人におよぶミュージシャンとエンジニア、
19人のグラフィック・アーティストが参加して、
4年をかけて制作されたという、壮大なプロジェクト作品。
力作なんて言葉じゃ足りないくらいの、タイヘンなアルバムです。

マヒン・ディアスって、いったいどういう人?とあらためて調べてみると、
アフロ・コロンビア音楽の名曲を数多く生んだ歌手だったんですね。
22年、コロンビア北部ボリバル県マアテス市ガメロ村の生まれ。
貧しい家に生まれ、サトウキビ刈りの父親は歌手でダンサー、
製糖工場でコックをする母親はパレンケの女性が歌う
ブジェレンゲの名歌手だったというのだから、彼もまたパレンケーロなのでしょう。

読み書きを学ぶこともなく、幼い頃から製糖工場で働き、
工場でキューバからやってきた出稼ぎ労働者にキューバの曲や音楽を学び、
父親から歌や作曲、タンボーラを習って、音楽の才能を伸ばしていきました。
そんな少年時代にキューバ人から覚えたのが、
セステート・アバネーロが1927年に発表した ‘Rosa, Qué Linda Eres’ でした。
マヒン少年はこの曲を、ソンからチャルパの形式に変え、
自作の詩を付けて‘Rosa’ と題して歌いました。

のちにマヒンの代表曲となったこの曲が、本作のオープニングにも置かれ、
コロンビアの大スター、カルロス・ビベスとトトー・ラ・モンポシーナを迎えて、
マヒンは力強く歌っています。
オリジナルのアバネーロのヴァージョンにあった、悲痛なエレジーは消え失せ、
マリンブラの伴奏が祝祭の彩りを強調しているのは、
逃亡奴隷が自由を勝ち得たパレンケが、
この曲に新たな息吹を与えたことを示しています。

マヒンは、80年代にロス・ソネーロス・デ・ガメロのメンバーとなるまで、
レコーディングとは無縁に過ごしてきました。
コミュニティの外の世界では無名だった彼が、
作曲家として光があたるようになったのは、90歳を過ぎてからのことです。
12年に初のレコーディングを経験したあと、本作の制作が企画され、
17年に94歳で初アルバムを完成させました。

本作によってコロンビア政府は、アーティストに与える最高の評価である
文化省の「国家生活・労働賞」をマヒンに授与し、
その年のラテン・グラミー賞のベスト・フォーク・アルバムと
ベスト・パッケージ・デザイン・アルバムの二部門にノミネイトされました。
マヒンは、息子のドミンゴ・ディアスとともに、グラミー賞授与式に出席するため
ラス・ヴェガスへ向かい、最優秀フォーク・アルバム賞は逃したものの、
最優秀パッケージ・デザイン・アルバム賞を獲得したのです。

本作に参加した数多くのミュージシャンのなかで、
目立ったところだけ取り上げると、ブジェレンゲの名歌手ペトローナ・マルティネス、
アフロ・コロンビアン・エレクトロのシステマ・ソラール、
https://bunboni.livedoor.blog/2010-08-10
コロンビア版マヌーシュ・スィングのムッシュ・ペリネ、
メキシコはモンテレイのクンビア王、セルソ・ピーニャ、
元OK・ジャズの名ギタリスト、ディジー・マンジェク(18年にバロジと来日!)
https://bunboni.livedoor.blog/2018-03-27
DJ/トロピカル・ブレイクビーツ・メイカーのキャプテン・プラネットなど、
新旧世代の多士済々がマヒンを守り立てています。

マヒン自身も、90歳を超す年齢とは思えないパワフルな歌声で、
フィーチャリングされた歌手たちに負けない存在感を示していて、
圧巻の一語に尽きます。声を張り上げて高音を伸ばし続けて歌うさまに、
90年の人生を賭して初アルバムに駆ける鬼気すら感じて、
ゾクゾクしてしまいました。

マヒンはグラミー賞授与のために訪れたラス・ヴェガスで体調を崩して入院し、
病院で受賞を知った後に亡くなりました。
あと2日で、95歳を迎えようという日のことだったそうです
(12/30/1922 - 12/28/2017)。
これほどの素晴らしい大作を、生涯の最後に作り上げて逝くなんて、
これ以上ない音楽人生のフィナーレといえないでしょうか。

Magín Díaz "EL ORISHA DE LA ROSA" Noname/Chaco World Music no number (2017)

Totó La Momposina, Grupo Bahía, Orquesta De Lucho Bermúdez  OJO DE AGUA.jpg

トトー・ラ・モンポシーナの新作が19年に出ていると聞いて、
欲しいなぁ~と思っていたんですが、
コロンビア国内でしか売っていないというので、クヤし涙をのんでおりました。
なんだかここ2・3年、コロンビア国内のみで流通している作品が
目に付くようになってきたなあ。

こりゃあ、なんとかせにゃいかんと、
「コロンビア盤輸入作戦本部」を立ち上げて、対策に乗り出しましたよ。
てのはウソですが、本腰を入れて入荷ルートを開拓しなければと。
根気よくお店をあたり続けて、オファーを受け入れてくれるところを
ようやく見つけ、オーダーしました。

初めてのお店だったので、遅配などのトラブルを防ぐため、
DHLで送ってもらったんですけれど、案の定というか、税関で開封され、
税関御用達の補修テープぐるぐる巻きで届きました。
う~む、税関って、DHLだろうが容赦ないのね。
コロンビアからCDを輸入すると、毎回必ず税関に開封されるんだけど、
これって、何を疑ってんの? 麻薬?
ペルーからの荷もときどき開封されるけれど、ブラジルは一度もないな。

で、届いたこのアルバムなんですが、トトー・ラ・モンポシーナの新作ではなく、
グルーポ・バイーア、オルケスタ・デ・ルーチョ・ベルムーデスという、
アフロ・コロンビア音楽を代表する三者による、豪華共演作だったんですね。
オープニングのルーチョ・ベルムーデス作のマパレ ‘Prende La Vela’ で、三者が共演。
39年結成のコロンビアの名門、ルーチョ・ベルムーデス楽団をバックに
トトーが歌うのなんて、初めて聴くなあ。
コスタ(カリブ海沿岸)の音楽を現代化するグルーポ・バイーアも加わって、
ここでしか聴けない贅沢なサウンドになっています。

ルーチョ・ベルムーデス楽団は、管楽器だけで、サックス5、トランペット5、
トロンボーン4もいる大編成。複数の男女歌手を擁していますけれど、
女性歌手の一人が、めちゃチャーミング♡
クレジットに二人の女性の名前があるものの、特定できないのが残念であります。

グルーポ・バイーアは、リーダーのウーゴ・カンデラリオが弾く
マリンバがトレードマークで、このアルバムでもサウンドのキーとなっていますね。
ウーゴ・カンデラリオは、アフロ・コロンビア音楽を広める文化活動として、
このグループを結成しましたけれど、コロンビアを代表するグループとして、
海外の国際的な場で演奏をしてきた25年の実績があります。

トトーが歌うガイタの ‘Margarita’ のグルーヴなんて、やっぱり最高ですね。
縦笛のガイタ・エンブロも大活躍していますよ。
これぞアフロ・コロンビア音楽の饗宴。
こういうアルバムこそ、全世界に流通させなきゃいけません。

Totó La Momposina, Grupo Bahía, Orquesta De Lucho Bermúdez "OJO DE AGUA" Acento Mestizo no number (2019)

Ignacio Maria Gomez  BELSIA.jpg

ノー・インフォメーションで買ってきたCD。
ワールド関係の試聴機の棚に並べてあったものの、
お店のポップがついておらず、どこの国の歌手かもわからず、
CDをいくら凝視しても、ヒントになりそうな記述は皆無。どなたさまでしょ?
う~ん、ひさしぶりに味わう、このドキドキ感、いいなぁ。
ネット時代になって、みずてんで買うなんてことがなくなっちゃったもんねえ。

試聴してみると、アフリカらしく、リシャール・ボナやロクア・カンザを連想させる、
洗練されたコンテンポラリー・センスの持ち主のよう。
アーティスト名も曲名もスペイン語というのが謎で、
アフリカでスペイン語といったら、赤道ギネアと西サハラしかない。
???のまんま、家にお持ち帰りし、あえてネット検索などしないまま、
ひととおり聴いてみました。

試聴機では、中性的な声に、男性か女性かすら判然としなかったんですけれど、
デジパックを開くと、ギターを抱えたむさくるしい感じの男が写っていて、
レユニオンあたりのインド洋の人に見えなくもない。
じっさい、1曲目はインド洋音楽ぽくあるんですけれど、
風貌に似合わず、歌声は繊細なシンガー・ソングライターといった雰囲気。
ノー・フォーマット!レーベルあたりの、フランス人好みのサウンドです。

続く2・3曲目の浮遊感のあるメロディや歌声は、リシャール・ボナみたいだし、
4曲目はサンバ、8曲目はボサ・ノーヴァという具合で、???
結局、耳だけではまったく素性がわからず、あきらめてネット検索。
すると、なんとアルゼンチンのシンガー・ソングライターのデビュー作だとわかり、驚愕。

はぁ? アルゼンチン人が、なんでこんなアフリカっぽいの?と思ったら、
12歳の時にメキシコに移り住み、ギネアの音楽家たちのコミュニティと出会って
マンデ音楽を学び、音楽的感性を育んだとのこと。
え? メキシコにギネア人のコミュニティがあるの?
でも、このアルバムにマンデ音楽の要素はないよねえ。
ラスト・トラックで、本人がバラフォンを叩いて歌ってはいるけど。

なんだか、想像がまるで及ばない経歴ですけれど、
この音楽を聴けば、マンデ音楽はさておき、リズム・センスはたしかにアフリカだし、
不思議なミクスチャーも腑におちるような、そうでもないような。

音数の少ないシンプルな伴奏は、なかなかに上質。
誰でしょう?とクレジットをみると、
コラを演奏しているのはバラケ・シソコで、チェロはヴァンサン・セーガル。
うわぁ、予備知識なしで、かえって良かったと思われるお二人が参加
(ファンの方はごめんなさい。ぼくはこの二人が苦手)。
それがわかってたら、たぶん試聴すらしなかったと思います、自分。
なにも知らなかったから出会えた、ラッキーな一枚でありました。

Ignacio Maria Gomez "BELSIA" Hélico HWB58135 (2020)

Carlos Vives Cumbiana.jpg

映画のワン・シーンのような印象的なジャケット。
サウンドトラックかと見紛うのは、
コロンビアのヴェテラン・ポップ・シンガー、カルロス・ビベスの新作です。
『クンビアーナ』という魅力的なタイトルに、ソッコーいただいてまいりました。

カルロス・ビベス、いい男ですねえ。
もとはロック・シンガーからスタートした人ですけれど、
バジェナートの先達に敬意を表して、オールド・スクールなバジェナートを
真正面から取り組んだアルバムを93年に出すと、
その後オーセンティックなバジェナートをアップデートして、
オシャレな若者でも楽しめるポップスに仕上げ、一躍不動の人気を勝ち取りました。

新作は、バジェナートではなくクンビアをテーマに、
クンビアで使われる笛や太鼓などの楽器に、
アコーディオンやブラスバンドなどをまぶしながら、
親しみのあるトロピカル・ポップに仕上げています。

クンビアの田舎臭さを嫌うヒップ・ホップ育ちの若者でも抵抗なく聞けるよう、
アルバム全体をレゲトンのビートで貫きながら、
はしはしでデジタル・ビートから生音の太鼓のアンサンブルへと
シームレスに繋ぎ、両者を違和感なく聞かせています。
そうしたリズム処理や、クンビアのメロディやサウンドを巧みに散りばめるところは、
まさにコロンビア人のハートをつかむ手練といえます。

レゲトンばかりでなく、ヒップ・ホップ/R&B、ラガマフィン、フラメンコ、サルサを
フィーチャリング・ゲストを迎えながら取り入れるところも、
ポップスのツボを知り尽くしたビベスならではの手腕ですね。
ゲストにルベーン・ブラデス、ジギー・マーリー、
スペインのアレハンドロ・サンスのほか、
コロンビア系カナダ人シンガーのジェシー・レジェスに、
プロビデンシア島出身のエルキン・ロビンソンが参加しています。
ルベーン参加のクンビア・サルサは、なかなかの聴きものです。

アルバム・ラストは、エレクトロにクンビアの笛(ガイタ)を絡ませたインスト曲で、
クンビア・アンビエントとでも呼びたい仕上がり。
笛はちゃんとクンビアの伝統形式にのっとって、ベース・ラインを吹く笛、
メロディを吹く笛、即興を奏でる笛の三重奏を、多重録音で作り出していますよ。

コロンビアのフォークロア愛を溢れさせる、ラテン・ポップスの大スターが、
ヒット曲を生み出す職人的手腕も十二分に発揮した、会心のアルバムです。

Carlos Vives "CUMBIANA" Sony Music Latin 19439775642 (2020)

Los Gaiteros De San Jacinto  TOÑO GARCÍA.jpg

電子音楽にうつつを抜かしていたら、
生音のパーカッションが爆裂する一枚に、ぶっ飛ばされてしまいました。

コロンビアはクンビアの老舗楽団、
ロス・ガイテーロス・デ・サン・ハシントのアルバムです。
もっともオーセンティックなスタイルの伝統クンビアを継承している名門楽団で、
太鼓の弾けるビートが生み出すグルーヴが、もう凄まじいんです。

タンボーラ、アレグレ、ジャマドールという大・中・小の太鼓に、
マラカスが絡み合うポリリズムは、単純な4分の2拍子を、
とてつもなく複雑なリズムに変貌させます。
複数のガイタ(縦笛)はメロディを奏でつつ、反復フレーズをループする
リズム楽器としての役割も担っているので、
とびっきりリズミックなサウンドになるんですね。
これぞ人力のパーカッション・ミュージックの醍醐味でしょう。

昨年の暮れ、6人組のソン・デ・ラ・プロビンシアのアルバムで
ひさしぶりに伝統クンビアを味わったばかりですけれど、
https://bunboni.livedoor.blog/2019-12-03
あちらより楽団の人数も多く、迫力満点・野趣なクンビアの味を堪能できます。

全15曲77分超というヴォリューム感たっぷりの本作、
嬉しいのはフォークロアな伝統クンビアばかりでなく、歌謡化したクンビアも楽しめること。
アルバム終盤の2曲で、アコーディオンとエレキ・ベースが加わり、
ぐっと大衆歌謡寄りのクンビアをやっているんですね。
エレキ・ベースが♪ぶん・ぶん・ぶぱっ!♪と重く粘っこいグルーヴを醸し出し、
アクセントを付けているところなど、聴きものです。

Los Gaiteros De San Jacinto "TOÑO GARCÍA: EL ÚLTIMO CACIQUE" Llorona no number (2019)

CHILE URBANO, VOL. 1 Y 2  FONOGRAMAS DE MÚSICA CHILENA.jpg

SP時代のチリ音楽を編集した2枚組CDですって?
「1927年から1957年」とあるので、
第二次世界大戦をはさんだ前後30年間の録音ということになります。

へぇ~、そんな時代の音源なんて、聴いたことがありませんねえ。
だいたいチリの音楽じたい、ビオレッタ・パラが歌った民謡とか、
クエッカやトナーダといったフォルクローレのレコードくらいしか
聴いたことがないんだから、ほとんど知らないに等しいもんです。

しかも、タイトルを見ると、フォルクローレを集めたものではなく、
どうやら都市歌謡に焦点を当てたもののよう。
チリの都市大衆歌謡??? 思い当たるところでは、
メキシコへ渡って大スターになったルーチョ・ガティーカとか、
アルトゥーロ・ガティーカといったチリ人歌手は確かにいますけど、
ああいった汎ラテン的歌手が歌った大衆歌謡を集めたものなんでしょうか。

う~ん、どんな歌を収録しているのやら、聴く前からワクワクしていたんですが、
こりゃあ、スゴイ。チリの大衆歌謡がこれほどヴァラエティ豊かなものだとは、
まったく知りませんでした。自国のクエッカ、トナーダ、バルスはじめ、
タンゴ、ルンバ、サンバ、ボレーロなどチリ周辺国のレパートリーはもちろんのこと、
フォックス・トロット、ポルカ、スウィング、ブギウギまで飛び出してくるんです。

うわぁ、こりゃ、まるでチリの「ジャズソングス」じゃないですか。
ブギウギはさすがにアメリカ産ですけれど、
ヴァイオリンとアコーディオンが加わっているところがミソで、
アメリカ音楽より、ヨーロッパの影響が強く感じられます。
フォックス・トロットやワン・ステップのレパートリーの演奏に、
ヨーロッパ経由を感じさせるほか、
ディスク2のキンテート・スウィング・ホット・デ・チレは、
ジャンゴ・ラインハルトとステファン・グラッペリの
フランス・ホット・クラブ五重奏団をまんまコピーしています。
フランスからの影響がこれほど強いとは知りませんでしたねえ。

聴き進むほどに、驚きが連続するアンソロジー。
意外なほどに欧米音楽の影響が強く、洗練された都市歌謡が存在していたことに合わせて、
チリ独自の音楽が発展しなかった理由も垣間見れるところが面白い。
フォルクローレだけを追っかけていたら、
けっして発見できないチリ都市歌謡の魅力満載です。

いやあ、こりゃ、とんでもないお宝もののリイシュー・アルバムですね。
サンティアゴ・デ・チレ大学ラジオ局による制作とのことで、
教育機関が大衆歌謡にスポットをあてることも、驚くべきことじゃないですか。
フォルクローレならいざしらず、アカデミズムが一番敬遠しがちなテーマだというのに。
このアンソロジーは、今後チリ音楽を語るのに、
常に参照されることになることウケアイですね。
2020年ラテンのベスト・ディスカバリー・アルバムです。

v.a. "CHILE URBANO, VOL. 1 Y 2: FONOGRAMAS DE MÚSICA CHILENA, 1927-1957"
Radio Universidad De Santiago no number

Son De La Provincia.jpg

コロンビアからもう1枚嬉しいアルバムが届きました。
6人組のソン・デ・ラ・プロビンシアは、
縦笛ガイタ2本と打楽器3台でオーセンティックなクンビアを聞かせるグループ。
メンバーの出身はさまざまのようですが、ガイタの二人は、
クンビアを生んだマグダレーナ川に近いカルメン・デ・ボリバルだそうで、
北部山岳地域のモンテス・デ・マリアで12年に結成されたそうです。

メロディを担当するガイタのエンブラが、軽快に吹き始めると、
すぐそのあとを、タンボーラ、アレグレ、ジャマドールの太鼓3台と、
もう1本のガイタでリズムを担当するマチョが追いかけるように
リズムを疾走させていくという、伝統的なクンビアを聞かせます。
かけ声も威勢よく、なんともフレッシュじゃないですか。

YouTubeを観たら、軽快なマラカスは、マチョを左手で操って吹きながら、
右手で振っているんですね。
マチョは穴が一つか二つしかないリズム楽器だから、こういう芸当ができるのか。

昔ながら変わらない伝統クンビアですけれど、いまや民俗音楽のディスクぐらいでしか、
なかなか聴くことができなくなってしまっているので、
これは貴重なCDじゃないでしょうか。
パーカッション・ミュージック好きにはたまらない、
アフロ・コロンビアーノの味を堪能できる嬉しい1枚です。

Son De La Provincia "LA CAJITA DE LA ENCOMIENDA" Mambo Negro no number (2018)

Kombilesa Mi  ESA PALENKERA.jpg

こりゃあ、スゴイ!
コロンビアの逃亡奴隷の解放区、パレンケの末裔にあたる若者たちが、
パレンケの言語とリズムでヒップ・ホップした大傑作!

カルタヘナ南東の丘陵地帯にあるパレンケ・デ・サン・バシリオは、
人口約3,500人の村。かつては数多くあったパレンケも、スペイン人に破壊され、
現存する村はここただ一つとなってしまったものの、
ユネスコの世界遺産にも登録されて、その存在が広く知られるようになりました。

奴隷制、植民地時代、そして今も続く軍やゲリラとの武力紛争と、
400年にわたるコロンビアの暴力の歴史にさらされてきたサン・バシリオの住民にとって、
コミュニティを維持することが、パレンケの文化的一体性を保つことにもなったんですね。
ラテン・アメリカの中でアフリカを作り上げるというパレンケの目標に向かって、
最前線にいるグループが、彼らコンビレサ・ミなのではないでしょうか。

特殊仕様の変型ジャケットに収められた
ブックレットのメンバー9人の写真が、グッときます。
メンバーのファッションやヘア・スタイルからは、同時代性のセンスとともに
闘いの歴史を経てきた祖先から受け継いだ抵抗の精神が、
びんびんと伝わってくるようじゃないですか。
居並ぶメンバーの立ち姿の自信に満ち溢れた表情からも、彼らの気概が伝わってきますよ。

マリンブラの弦をはじく低音が、ぐいんぐいんとリズムを前に押し出し、
伝統的な打楽器が叩きだすアフロ系のリズムにのせて、
9人のメンバーのラップが行きかうビートが快感です。
高中低音バランスのとれたパーカッション・アンサンブルは、
奥行きがありつつ十分なスペースがあり、
自在にリズムを変えていく合間を縫うようにラップのフロウが泳いでいくところは、
コール・アンド・レスポンスの歌とコーラス以上に、伝統的です。

ミュージック・マガジン11月号の
「ラテン/カリブ音楽オールタイム・アルバム・ベスト」で、
未来の希望につながるラテン音楽がぜんぜん見当たらないとうなだれましたが、
ようやく出会えましたね。今年のラテン・ベスト、文句なしでっす!

Kombilesa Mi "ESA PALENKERA" Kombilesa Mi no number (2019)

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