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bunboni こと 荻原和也 の 音楽案内所 musicaholic ブログ(隔日刊 2009年6月2日より)にようこそ。

Searching for good music of the world

カテゴリ: インド洋

Damily  FANJIRY
バンド・メンバーとともにマダガスカルの故郷へ帰還して
レコーディングした前作から1年。
ダミリの新作は、ギター1本でツァピキを演奏したギター・アルバムとなりました。

ツァピキのギター・ソロといえば、テタのアルバムがありましたけれど、
ピンと張りつめた緊張感と速弾きの下降リックを聞かせるテタのアルバムと違い、
ダミリのギターは、ゆったりとタメの利いたリズムでフィンガリングしていて、
二人は対極ともいえる個性の持ち主だということに気付かされました。

ダミリはアクースティック、エレクトリックの両方を弾いていますが、
エレクトリックはエフェクターを通さないアンプ直結で、
素のままのギター・サウンドが楽しめます。
バンドだと荒々しく激しいビートやトランシーなグルーヴに耳を奪われ、
ギターが生み出している深淵なハーモニーや、豊かなサウンドを聞き逃しがちとなるので、
こうしたリズム・セクションなしで、ギター一本で聴けるのは格別ですね。

ダミリのギター・プレイにはさまざまなりヴァリエーションがあり、
曲ごとに多彩なテクニックを披露しているのにも耳を奪われます。
またこのアルバムではダミリ自身が歌う曲もあって、
素朴ながら味わいのある歌を聞かせてくれます。

スタイルこそ違いますけれど、ハワイのスラック・キー・ギターを独奏で聞かせる
ダンシング・キャット・レーベルの作品に通じる作品で、
広くギター・ファンに聞かせたいアルバムですね。

Damily  "FANJIRY"  Bongo Joe  BJR119  (2026)

Bobo & Behaja
こりゃ驚いた。
正月早々にツァピキのフィールド・レコーディング集を取り上げましたが、
あのコンピレを録音したマキシム・ボボがサックスをプレイして、
4曲目に収録されていたギタリストのベハジャと共演したアルバムが届きました。

これがもう、めっちゃくちゃ痛快なんです。
一言でいうなら、ツァピキ・ミーツ・フリー・ジャズですね。
もともと高速ハードコア・ミュージックのツァピキが、
フリー・ジャズの即興演奏家と出会って、
高密度のエネルギーをさらに倍化させて爆発したみたいな。
ギターとアルト・サックスが繰り広げる即興バトルが手に汗握るスリリングさで、
心臓バクバクものの長尺な7トラックが詰まっています。

マキシム・ボボっていったいどういう人なんだと調べたら、
フリー・ジャズのフランス人演奏家なんですね。
ツァピキにホレこんでマダガスカルへ10年通い、
ツァピキのミュージシャンたちと交流してレコーディングや共演をしてきたんだそうです。
サブライム・フリークエンシーズ盤はそうした彼の活動成果だったんですね。

そしてマキシム・ボボ自身はといえば、ヴォクヒラという即興音楽のユニットを
2010年にドラムスとのデュオからスタートさせ、アクースティック・トリオや
エレクトリック・バンドなどさまざまに拡張したサブ・グループを組んで活動しています。

今回のボボ&ベハジャのグループは、
エレクトリック・ヴォクヒラとベハジャのグループの選抜メンバーによって組まれたもので、
エレクトリック・ヴォクヒラからマキシム・ボボとベースのフランソワ・ローゼンフェルド、
ベハジャのグループからはドラムスのジェラルド・ラコトニアイナと
ヴォーカルのエカリが参加した5人編成となっています。
すでにこのグループでヨーロッパ・ツアーをしていて、WOMEXにも出演しているようです。

それにしても、あらためてツァピキのギターが、
フリー・ジャズの即興と渡り合える実力を備えているという事実を再認識しました。
そしてこのアルバムでは、フランソワ・ローゼンフェルドの流れるようなベース・ラインが、
ボボのアルト・サックスとベハジャのギターと絡んで、
ツァピキの強力なビートを押し出す以上の役割を果たしているのも、聴きものです。

Bobo & Behaja  "AIA HAJA?"  Carton  ROND8  (2026)

THE BLUES OF THE INDIAN OCEAN
フィールド・レコーディングのUKの新興レーベル、ジュジュ・サウンズが
新たにスポットを当てたのは、インド洋のディープなアフロ・セガ。
このレーベルは憑依儀礼のザールをドキュメントしたりと、
目の付け所がぼくの関心事とジャスト・ミートで嬉しくなります。

本作に収録されているのはエンターテインメント化した歌謡セガではなく、
アフロ系住民が伝えてきた、打楽器のみの伴奏で歌とコーラスが
コール・アンド・レスポンスする、オーセンティックなセガ。

アフロ系住民が伝えてきたインド洋のパーカション・ミュージックといえば、
レユニオンのマロヤが有名で、CDも相当数出ていますけれど、
モーリシャス、ロドリゲス、チャゴス、アガレガに
息づく伝統スタイルのセガはほとんど商業録音がなく、
オコラなどの民俗音楽レーベルのアルバムしかありません。
『ポップ・アフリカ800』にはトントン・アンペーニュの現地盤を紹介したんですけど、
この知られざる名作を聴いたことのある人って、果たしているんだろうか。

インド洋の島々に奴隷として連行されたアフリカ人、インドからの年季奉公人、
中東地域から入植したアラブ人たちは、
植民地主義の抑圧にさらされながら社会的な絆を深めて、
クレオール文化を生み出してきたんですね。
そうして生み出されたセガは、奴隷制廃止後も代償を払われず
疎外された黒人がブルースを生み出した状況に匹敵するとして、
本作のタイトルが付けられたようです。

モーリシャスには、60年代後半から70年代前半にかけて
チャゴス諸島から米軍基地建設のため英国軍によって強制追放された
チャゴス人のコミュニティがあり、群島奪還のための政治闘争が続けられています。
ここに収録されたグループ・タンブール・チャゴスもそうしたチャゴス人のグループで、
アガレガ諸島から渡ってきた移民コミュニティのグループの
ヌーヴェルメント・ティピック・アガレガにとっても、
アガレガに駐留するインド軍が住民の脅威になっているという現実があります。

伝統セガを何世代にも渡って演奏してきた
ファミリー・グループのゼネレーション・カサンボや
モーリシャスの貧困や不平等に苦しむ子供たちを支援するプロジェクトの
グループであるアバイムでは、子供たちがいきいきとセガを歌っています。

今回このアルバムに教えられたのが、ロドリゲス島のセガ・タンブールです。
ロドリゲス島のセガといえば、アコーディオンによってクレオール化が進んだことについて、
以前記事にしたことがありますけれど、
伝統セガにもロドリゲス島の独自性があることを初めて知りました。

発祥当初のセガ・タンブールは、
土曜の夜に村ごとで開かれたバルと呼ばれるパーティーで演奏され、
その週の出来事や不満を歌い上げて、集まった群衆の興奮を巻き起こしました。
他の島のセガよりテンポの早いセガ・タンブールは、激しいリズムで即興の歌を引き立て、
植民地当局や教会、白人入植者たちの不安や敵視も招いたといいます。
やがて日常をテーマにした歌を歌うマレシャルと呼ばれる歌い手が表れ、
グループを率いてコンサートを開くようになります。

マレシャルで最初にもっとも有名になったのが39年生まれのジュリー・コレットで、
ジュリーの伝統を継いだエトワール・ルージュのセガ・タンブールでは、
母娘による美しいハーモニーが聞けます。
現在のマレシャルとして認められている
スタッフォード・サモイシーの力強いセガ・タンブールや、
野趣に富んだシブいノドを聞かせる島の伝説的な歌い手ジャクリーヌ“マリアンヌ”アラス、
ロレンツァ・ガスパールが家族とコール・アンド・レスポンスで歌うセガは、
トランシーな興奮へといざなわれ、最高にグルーヴィです。

17年にロドリゲス島のセガ・タンブールが、
19年にはチャゴス諸島のセガ・タンブールが
ユネスコの無形文化遺産に指定されたことで、
いまでは時代に合わせた新しいセガが模索されるようになっているそうです。
レユニオンのマロヤに続いて伝統セガが世界にアピールされる日が近いのかも。
本作がその起爆剤となることを願ってやみません。

Nouvellement Tipic Agalega, Group Tanbour Chagos, Zeneration Cassambo, Abaim, Jacqueliene ’Maryanne’ Allas, Etoile Rouge, Stafford Samoisy, Lorenza Gaspard
"THE BLUES OF THE INDIAN OCEAN"  Juju Sounds  JJ06  (2025)

TSAPIKY  MODERN MUSIC FROM SOUTHWEST MADAGASCAR
おぅ、CD出たのか!
ヴァイナルとデジタル・リリースのみとアナウンスされていたので、
ちっ!と舌打ちして、それっきり記憶の彼方になっていたんですけど、
すっかり忘れていた頃にCDが登場するとは。

限定生産というか、ほんの少量作って売り切っちゃう商品なんだろうなあ。
バンドキャンプのページには、いまもCDは載っていないし。
運よく見つけられたら御の字。うっかり入手しそこねたら、
もう二度と手に入らないってやつだね。
CDラヴァーという前世紀の遺物には、受難の時代であります。

ボヤキはこれくらいにして、祝CDリリース! ツァピキのフィールド録音集。
ツァピキの説明は、このブログの読者には不要でしょう。
https://bunboni.livedoor.blog/2025-03-30
ツァピキくらいサブライム・フリークエンシーズにぴったりの音楽もないですね。

タマリンドの木に吊るされたホーン・ラウドスピーカーから、
ひび割れた爆音で鳴らされるツァピキは、
レコーディング・スタジオでクリーンなサウンドで録音しようものなら、
音楽が死んじゃいますからね。
パンク・エスノロジーを地で行くサブライムにはうってつけです。

全11曲、演者はすべて違い、実に個性的なツァピキを楽しむことができます。
ギター・バンド・スタイルのツァピキもあれば、ギターでなくカボシを使うバンドに、
アコーディオンとパーカッションによるツァピキや、
ソディ・ガシ(マダガスカルのフルート)の二重奏とパーカッションで演奏する
ツァピキもあります。

ジャケットの表裏の写真やブックレットに収められた写真のどれもが、
ツァピキの狂乱をヴィヴィッドに捉えていて、観ながら聴いていると、
その祝祭の渦の中にテレポーテーションできるかのようです。

Mamehy, Drick, Songada, Behaja, Meny & Ando, Rebona, Renitsa, Befila, Mahafaly Mihisa, Gorop Milalaza, Mirasoa & Mahapoteke
"TSAPIKY!: MODERN MUSIC FROM SOUTHWEST MADAGASCAR"
Sublime Frequencies  SF126  (2025)

Saodaj  LODÈR LA VI
レユニオンで育まれた奴隷音楽のマロヤを、
アフリカとアジアの文化がインド洋で混淆したクレオール・ミュージックとして見直し、
オーストロネシア音楽の文脈で解釈しようと試みるサオダージの新作が出ました。
マロヤ再評価によって若いグループが大勢登場するようになったレユニオンですけれど、
これほどアカデミックで意欲的な志向を持つグループは類例がなく、
ぼくもデビューEP以来注目してきました。

フル・アルバムとしては23年の “LAZ” に続く2作目となる本作、
“LAZ” 同様、グループのフロントを務める女性ヴォーカリストのマリー・ランフロワと
男性ヴォーカリストのジョナタン・イテマの二人がジャケットに並んでいます。
前作に増してサウンドが豊かになり、黒光りするマロヤのグルーヴの合間を縫う
ヘヴィーなエレクトリック・ギターとチェロの活躍が目立ちます。

アルバム中盤から、なにやら雰囲気が変わってくるんですね。
4曲目のインスト曲では、チェロが中欧を想わせるメロディを奏で、
マロヤのリズムとあいまって得も言われぬムードを生み出すと思ったら、
なんとアルメニアの伝統舞曲とのこと。

続くフランス語で歌われる曲も、リズムはマロヤでも
メロディがヨーロッパとアジアを交錯するかのよう。
ディストージョンを効かせたギターが暴れる曲では、
ギター・ソロの途中にインドのラーガを参照したようなリックが出てきたり、
木管フルートがバンスリのように聞こえたりと、アジアが舞台であるのを印象づけます。

終盤間際の無伴奏コーラスで歌われる曲は、
レユニオン島の歴史と祖先をオマージュして、
マロヤの精神を継承するステイトメントとなっています。
歴史への確かな視座と生命力あふれる演奏が見事に合致して、
民俗性を超えたスケールの大きな作品となっています。

最後に、グループ名のサオダージがポルトガル語のサウダージからヒントを得たことは、
マリー・ランフロワのインタヴューで読んでいましたが、ライス盤解説によると、
レユニオン・クレオール語で「叫び」や「呼びかけ」を意味する語でもあるそうです。

ちなみにライス盤解説には、「『ダ』の後ろに長音符『ー』がつくというエヴィデンスはなく、
またAIによれば、現地発音に最も忠実なのは『サオダジ』のようだ」とありますが、
マリー・ランフロワとジョナタン・イテマの二人が出演した
レユニオンのテレビ番組を観ると、二人とも「サオダージ」とはっきり発音しています。
またマリーの他のヴィデオを観ても、「サオダージ」と発音しているのが確認できます。

Saodaj  "LODÈR LA VI"  Kaskas/Buda Musique  860407  (2025)

Votia Vie Kaz
グランムン・レレの娘のアルバムが出ると聞いて、
30年前の夏の思い出が一気に蘇ってきました。
グランムン・レレが来日した95年8月、
ライヴは24日の新宿文化センターで観ましたが
(レネゲイズ・スティール・ドラム・オーケストラの前座)、
思い出は19日の三浦市三崎小学校の体育館で行われたワークショップの方。

グランムン・レレは三浦環境芸術の祭典「海潮音」に出演し、
コンサートだけでなく、彼らが使うメインの打楽器のカヤンブを作って、
一緒に演奏するというワークショップが行われたんですね。
カヤンブは、サトウキビの茎をイカダ状に組んで、中に穀粒を入れたシェイカーです。

グランムン・レレのメンバーがサトウキビをノコギリで切り、
枠組を作る手本を見せながら、小学生の子供たちと参加者みんなで
カヤンブを作り、最後に一緒に演奏したのは、とても楽しい体験でした。
Granmoun Lele 950819_1
Granmoun Lele 950819_2
あの時のメンバーは全員男性だったので、ヴォティアこと
マリー=クロード・ランベール=フィレアスは来日していなかったと思いますが、
このアルバムからは、グランムン・レレゆずりのグルーヴが
しっかりと継承されているのが聴き取れます。

来日当時のグランムン・レレは、
ダニエル・ワロと肩を並べるマロヤの二大アーティストでした。
重厚なダニエル・ワロのマロヤとは対照的に、グランムン・レレは海洋音楽らしい
突き抜けた明るさとしなやかさに溢れているところに、とても惹かれていました。
レレにサインを入れてもらった “NAMOUNIMAN” にそれは象徴されていました。
その後03年に出した “ZELVOULA” はぐっと味わい深くなったレレの最高傑作で、
日本語解説を書かせてもらいました。これが遺作となりましたね。
Granmoun Lele  Namouniman  Granmoun Lele
そんな名作 “NAMOUNIMAN”  “ZELVOULA” のグルーヴが、
ヴォティアの本作 “VIÉ KAZ” に見事に蘇っていて、
その突き抜けた明るさ、すがすがしさに胸が熱くなりました。
つくづくマロヤというのは、ファミリーが伝え継承していく音楽なのだなあと感じ入ります。
Granmoun Lele 950819_3
“ZELVOULA” の解説の最後に、
「レレ翁はこのアルバムをリリースした翌年の04年11月14日、
74歳でこの世を去ったが、伝統マロヤを引き継ぐ若者たちは、
しっかりと育っている。マロヤの守護神として、
次世代のマロヤを演奏する若者たちを、きっと天国から見守っていることだろう」
と書いたんですが、本作がそれを証明してくれましたね。

Votia  "VIÉ KAZ"  Ajabu!  AJABU63  (2025)
Granmoun Lélé  "NAMOUNIMAN"  Indigo/Label Bleu  LBLC2508  (1993)
Granmoun Lélé  "ZELVOULA"  Marabi Productions  46807-2  (2003)

René Lacaille  TI GALÉ
レユニオンのセガのヴェテラン・アコーディオニスト、ルネ・ラカイユが
70歳にして初のアコーディオン・ソロ・アルバムを出しました。
ルネの兄ルノー・ラカイユが作曲した ‘Séga Gingembre’を除き、
すべてルネの自作セガで、演奏はアコーディオン1台のみ、
歌なしのオール・インストゥルメンタルです。

ルネが子供時代に聴いていた音楽をオマージュした作品で、
レユニオンの音楽遺産であるセガを、
父親や兄たちと一緒に演奏していた時代を振り返ろうとしたとのこと。
ルネが子供時代に熱心に聴いていたのは、
レユニオンの名アコーディオニストである
ルル・ピトゥやクロード・ヴィン・サンだそうです。

アコーディオン1台だけで聞かせるセガ・アルバムというのはこれまでになく、
わずか25分ほどのアルバムながら、とても爽やかに聴くことができました。
これまでいろいろ聴いたルネ・ラカイユのアルバムでは、一番聴きやすいかも。

というのは、ルネ・ラカイユのアルバムって、かなりの数があるんですけれど、
正直気に入ったアルバムが、ひとつもないんですよね。
『ポップ・アフリカ800』にも、ルネ・ラカイユはセレクトしていないし。
身もふたもなく言ってしまうと、
ぶっきらぼうでシロウト丸出しなルネの歌が、台無しにしちゃっているんですよ。
なので、オール・インストの本作が聴きやすいのも当然なんですが。

またルネの音楽性についても、歌謡セガやダンス・ミュージックのセガといった
レユニオン音楽の伝統を踏襲したスタイルというのとは少し違い、
さまざまな文化圏の音楽家との共演を通じて、
いろいろな音楽要素を取り入れた作品が多いんですね。
ところがそうした音楽的成果が実らずに、雑然とした仕上りになってしまった
残念なものが多くて、そうしたところもぼくのなかでルネの評価が低かった理由。

ルネ・ラカイユは70年代前半にリュック・ドナットのグループ、アド=ホックで活動した後、
アラン・ペテルスとセガやマロヤをロックと融合させる実験的なグループ、
レ・カメレオンで演奏していたという人なので、
伝統的なセガを演奏するだけでは満足できず、
サイケデリックなロックやジャズなどにも果敢に挑戦してきたのでしょう。

ちなみに、レ・カメレオン時代の曲はエレクトリック・マロヤの編集盤
“OTE MALOYA” の1曲目で聴くことができ、
この曲ではルネはアコーディオンではなく、ギターを弾いています。

とまあ、ぼくのなかでは評価の低かったルネ・ラカイユですが、
手元にそれなりにCDが残っているのは、仕上りが不満でも、
意欲を買える作品が多かったから。
本作はそうした過去作とは打って変わった異色作ですね。

René Lacaille  "TI GALÉ"  Lamastrock/Dobwa  LAM114-389  (2024)

Damily & Toliara Tsapiky Band  FIHISA
ダミリ一座の来日でマダガスカルのツァピキが日本に初上陸して、はや9年。
18年に出たダミリの前作は、フランスのスタジオ録音のせいで
サウンドがクリーンになりすぎていて、ガッカリだったんですが、
今作はツァピキ本来の野性味をあらわにしたアルバムに仕上がりました。

いまはフランスに暮らすダミリとバンド・メンバーですが、
23年にマダガスカルに暮らすダミリの母親メロが亡くなったことから、
埋葬儀式に参列するためにメンバー全員で帰郷して、
あわせてレコーディングする計画がもたれようです。
今回はいつものメンバーに、アコーディオン奏者が新たに加わっています。
ジャケットのアンブレラの中央に掲げられている写真がメロのようです。

儀式の1ヶ月前にメンバーとエンジニアほかスタッフたちは
マダガスカルに到着してリハーサルを行い、トゥリアラでコンサートを開きました。
そして儀式が行われるトンゴボリに向かおうとしていたところ、
巨大サイクロンのフレディがマダガスカル南東部を直撃して、
未曽有の大混乱となってしまいます。

空路も道路も寸断され、トンゴボリで合流する予定のチームも
バラバラとなってしまい、それぞれが目的地を目指して、
洪水に見舞われ荒れ放題の陸路を向かうことになります。
葬儀の祝宴はすでに始まっていて、予定より5日遅れてようやく全員到着。
埋葬儀式で盛り上がる村の一角に、
藁葺き小屋の移動式レコーディング・スタジオが組み立てられました。

ヴォーカル・マイクとギターはインド製のラウド・スピーカーに、
ベースとアコーディオンは中国製のカラオケ・コンソールに接続するという、
現地マナーのツァピキのセッティングが整えられ、
当初録音に6日間を予定していたのに、わずか10数時間しかないという
最悪の条件下で3曲が録音されました。
そしてほうほうのていで全員がトゥリアラに戻り、
疲労困憊の末に残り3曲をワン・テイクでレコーディングし、
壮絶なプロジェクトが終了したといいます。

こうしてレコーディングされた本作は、
ツァピキの息吹をイキイキと伝える見事な録音となりました。
マダガスカルのみならず南部アフリカに甚大な被害をもたらした
巨大サイクロンと闘いの末にたどりついた埋葬儀礼という祝祭。

メンバーたちの緊迫感が伝わってくる激しい演奏と歌いぶり、
儀式に集まった人々のざわめきも聞こえる生々しさは、
この音楽が生きている現場の環境を
パッケージすることに成功した証左となっています。

Damily & Toliara Tsapiky Band  "FIHISA"  no label  DAMILY01  (2025)

Lindigo  Oye Maloya.jpg

マロヤの奴隷文化の残照と混血性という、二つの根源的な側面を拡張してきたランディゴ。
https://bunboni.livedoor.blog/2012-04-17
https://bunboni.livedoor.blog/2012-08-01
https://bunboni.livedoor.blog/2015-01-22

17年作の “KOMSA GAYAR” では、ロス・ムニェキートス・デ・マタンサスと共演した
キューバ録音でマロヤにルンバのエキスを注入し、
前作では自分たちでルンバに挑戦をしていましたね。
今回冒頭1曲目で再びロス・ムニェキートス・デ・マタンサスと共演しているんですが、
バタのベーシックなリズムのうえで、さまざまなマロヤのパーカッションが
突っ込むようなリズムで挑みかかるアンサンブルを構築しています。

いまやレユニオンのマロヤは、伝統派からエレクトロに至るまで、
さまざまなヴァリエーションで存在していますが、
そのなかでランディゴは、伝統派に位置づけられるのは疑いないところでしょう。
伝統にしっかりと軸足を置きつつ、旧来のリズムやサウンドに閉じこもることなく、
アーバナイズされたサウンド・プロダクションも活用しながら伝統を拡張していて、
リーダー、オリヴィエ・アラストの確かな視点と情熱に頭が下がります。

グループにゲストとして迎えているのは、フランス人アコーディオン奏者のフィクシや、
オランダ人シンガーでマルチ奏者のジノ・ボンブリーニなど、
これまでのアルバムにも参加して、ランディゴの音楽性を熟知する面々。
ソフィー・ナティエンベとルキア・アダムという女性二人をコーラスに迎えたのは、
今作が初めてじゃないかな。

アルバムのフックは、オリヴィエがギターを弾き歌ったセガの ‘Sakén’。
ランディゴのアルバムでセガを歌ったのって、これが初めてじゃない?
オリヴィエのスピリチュアルな同志だという、
セガ・シンガーのトゥルーことシリル・モインベをゲストに迎え、
アコーディオン、エレクトリック・ギター、ベース、コンガ、ジェンベを伴奏に
朗らかに歌っています。ゆったりとした歌謡性がすごくいい感じ。
この曲でオリヴィエはドラムスも叩いているんですね。

これまで以上に打ち解けた親密さを増した歌や演奏が、
ディープなトランス感に傾きがちなマロヤに、軽やかさをもたらしているように思えます。

Lindigo "OYÉ MALOYA" Hélico HWB58144 (2024)

20240731_Justin Vali.jpg

『ギターマダガスカル』を製作した亀井岳監督による、
マダガスカルを舞台にしたロード・ムーヴィー第2弾
『ヴァタ~箱あるいは体』が、明日から全国で順次ロードショーとなります。

ついに!という感慨で胸がイッパイになりますよ。
2年前にオンライン試写を観て大カンゲキして、
この映画はゼッタイ劇場公開すべきだ!と力こぶを入れてしまいましたからねえ。

『ギターマダガスカル』では、
日本人がマダガスカルを舞台にロード・ムーヴィーを作るという、
破天荒な偉業にドギモを抜かれましたけれど、
https://bunboni.livedoor.blog/2015-07-19
あの作品からさらにマダガスカルの死生観というディープな世界へ分け入った今作は、
マダガスカルと日本という距離を忘れさせる、
深い感動が湧きあがる普遍的な名画となりました。
ぜひ多くの人に劇場へ足を運んで、観ていただきたい作品です。
https://vata-movie.com/

劇場公開を記念して各種イヴェントが予定されています。
折しもタイミングよく来日していた
マダガスカルのヴァリハのレジェンド、ジュスタン・ヴァリを迎えたイヴェントが
7月31日、吉祥寺のワールドキッチン バオバブで開かれました。
これまでに何度か来日しているジュスタンですけれど、
こんな間近でヴァリハやマルヴァニを演奏するのを観たのは初めてで、
ジュスタンの至芸を堪能できる一夜でした。

Justin Vali 2.jpg Justin Vali 1.jpg

弦をはじくアタックの強さ、緩急をつけた即興の自在ぶり、
超絶技巧を超越した滋味のある演奏に、
まさしくこの楽器のヴァーチュオーゾだということを実感しました。

拙著『ポップ・アフリカ800』では、ジュスタンのソロ作ではなく、
人間国宝のラコト・フラー翁やコモロのナワールなどを迎えたプロジェクト、
マラガシュ・コネクションをセレクトしましたが、
ジュスタンのソロ作では、レジズ・ジザヴのアコーディオンなどを含む
バンド編成のライヴ盤がぼくは一番好きです。

ジュスタンの至芸は、4日渋谷ユーロスペースの映画上映後の
ミニ・ライヴで披露される予定なので、
映画とともにぜひ行かれることをオススメします。
なお、10日の上映後には、私もお邪魔して亀井監督と
少しおしゃべりをする予定です。
もし4日の都合がつかない方は、こちらもぜひ。

Justin Vali "LIVE AT GT’S IN PARIS" Editions Levallois 79657.2 (2000)

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