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bunboni こと 荻原和也 の 音楽案内所 musicaholic ブログ(隔日刊 2009年6月2日より)にようこそ。

Searching for good music of the world

カテゴリ: インド洋

Damily Early Years.jpg

ここ最近、アフリカ方面のリイシューは、
アナログのみリリースというカタログが、全世界的に増えていますね。
プラネット・イルンガ(ベルギー)、アフリカ・セヴン(UK/フランス)、
アフロ・7(フィンランド)、ミシシッピ(アメリカ)あたりは、
CD制作などハナから眼中になく、
他のレーベルも、売上が期待できそうなカタログだけCDを出すといった、
腰の引けたリリース状況となっています。
デジタル>アナログ>CDといった図式でしょうか。

もはや絶滅危惧種ともいえる存在のCDファンですけれど、
フィジカルを求める音楽ファンじたいが、
昔でいう骨董や盆栽あたりの道楽と変わらない、趣味人の世界と化した現在なので、
いまだCDにこだわり続ける自分が、いかに偏屈マニアかは、重々自覚しておりますよ。

というわけで、変人上等なワタクシは、アナログ・オンリーのアルバムを、
プロモCDで入手するという奇策に出ているのであります。どうだ、まいったか(笑)。
ちょっと前にはクラムド・ディスクから出た、『キンシャサ 1978』のアナログと
CDの変則2枚組のアナログの方をプロモCDで入手したし、
最近は、ナイジェリア人トランペッター、エトゥク・ウボンのナイト・ドリーマーから出た
“AFRICA TODAY” もプロモCDで入手したもんね。
しかもこのプロモCDには、LP未収録の1曲も追加されているんでした。いーでしょ。

マニア自慢はイヤらしいので、このぐらいにして。
今回入手したのは、スイスのボンゴ・ジョーからアナログ・リリースのみで出た、
ダミリのプロモCD。マダガスカルはツァピキのシンガー/ギタリストですね。
https://bunboni.livedoor.blog/2016-09-03
https://bunboni.livedoor.blog/2011-06-28
ダミリが世界デビューする以前の95年から02年まで、
地元で出していたカセットから編集したアーカイヴ集です。

プロモCDといっても、ペーパー・スリーヴのジャケットは市販されているものと遜色なく、
ディスクもCD-Rでなくファクトリー製のちゃんとしたものです。
アナログに添付されている8ページのブックレットはありませんけれど、
ボンゴ・ジョーのバンドキャンプのページに、
そのテキストが載っているので、ノー・プロブレムです。
あれ? でも、そういえば、ついこの前ボンゴ・ジョーが正規CDで出した
ペドロ・リマの“MAGUIDALA” は、CD-Rだったよなあ。どゆこと?

さて、ダミリの中身は、整った録音環境で世界向けに制作されたアルバムと違い、
オンボロ設備(たぶん)でレコーディングしたのであろう、地元産ローファイ・ミックス。
これをまたヨーロッパでアナログにして売り出すというのも、
なんだか倒錯シュミのようにも思えるんですけれどねえ。

サブスクで音楽を楽しむ良い子のみなさんは、
コレクター気質をこじらせたメンドくさいオヤジの戯言などは相手にせず、
モノに振り回されないで音楽を聴く、音楽ファンの本懐をまっとうしてください。

Damily "EARLY YEARS: MADAGASCAR CASSETTE ARCHIVES" Bongo Joe BJR049 (2020)

Gwendoline Absalon  VANGASAY.jpg

レユニオンの女性ジャズ・シンガー・ソングライターの2作目。
名前からもわかるとおり、インド系の出自を持つ人ですね。
グウェンドリーヌ・アブサロンは、92年、サン・ドニの生まれ。
叔父がミュージシャンで、その影響でギターを覚え、
10歳の時には、マロヤのアルバムにコーラスとして参加したことがあるそうです。

クラシックの声楽からジャズまで学び、はや十代の若さで、
10年にレユニオンのベスト・ジャズ・シンガーに選ばれたという才能豊かな人。
18年のデビュー作は聴いていないんですけれど、
今年出た本作は、世界各地から続々と生まれている、
ジャズ新世代の資質をうかがわせるシンガーで、
マロヤをベースにしたジャズでは、メディ・ジェルヴィル以来の本格的な逸材といえます。

メディ・ジェルヴィルがかつてプロデュースしたシンガー・ソングライター、
ファブリース・ルグロを思わず連想していたところ、そのファブリースが作曲した
‘Modernity’ を取り上げていて、ファブリースもゲストでギターを弾いています。
https://bunboni.livedoor.blog/2013-05-06

しかし、本作のキモはプロデューサーである、
マルチニークのピアニスト、エルヴェ・セルカルの存在ですね。
エルヴェがマルチニークの太鼓歌ベル・エアー(ベレ)を通して、
同じ奴隷文化の音楽遺産であるレユニオンのマロヤにも目を向け、
奴隷貿易がもたらした大西洋とインド洋のクレオール文化を
掘り下げる作品を生み出していることは、これまでにもここでご紹介してきたとおり。
https://bunboni.livedoor.blog/2018-12-16

そんなエルヴェをプロデューサーに据えたのは絶好のキャスティングで、
マロヤとベレのリズムをミックスした‘Béliya’ をエルヴェと共作しているところは、
まさにこの二人ならではといえます。
また、ほかにも、セザリア・エヴォーラにオマージュを捧げた二人の共作曲
‘La Diva De La Morna’ では、モルナのメロディとマロヤのリズムを合体し、
芳醇なクレオールの香りを漂わせるトラックとなっていますよ。

マルチニークだけでなく、カーボ・ヴェルデも視野に入れるところは、
広範なクレオール文化を取り入れる、エルヴェとグウェンドリーヌの音楽性の
相性の良さの表れでしょう。アルバム・ラストのサンバも印象的な、
クレオール・ジャズの涼風を感じさせる傑作です。

Gwendoline Absalon "VANGASAY" Ting Bang TB9722916-09 (2020)

Chucky Mista Res  NDOPVI EKA TSI NDAM.jpg

こちらはコモロのラッパー。
サウンド・プロダクションにコモロらしさはみられないとはいえ、
インド洋ヒップ・ホップのクオリティの高さがまるっとわかる、良作です。

チャッキー・ミスタ・レスことファハド・ユスフは、8歳の時からダンスに夢中になり、
のちにコモロ初のヒップ・ホップ・ダンス・グループを結成したという、
いわばダンサー上がりのラッパー。
だからか、リズムのノリはバツグンで、コモロ語のフロウは、
レーベル・オーナー、シェイク・MCを凌駕するスキルを感じさせます。

チャッキー・ミスタ・レスは、
16年にレユニオン島で開かれたイヴェント「インド洋の声」で
ベスト・コモロ・アーティストに選ばれ、
翌17年にシェイク・MCのフランス・ツアーに同行し、
その後シェイク・MCの後を追うようにパリへ移住して、
本デビュー作を完成させたといいます。
たしかにこのプロダクションをコモロ現地で実現するのは、難しいでしょうねえ。

ヴァラエティ豊かな全14トラックには、
6人のフィーチャリング・ゲストが参加していて、
ダディポスリムもチャッキーとデュエットしています。
その曲‘Tsi Hwandza’ は、ダディポスリムらしいロマンティックなラヴ・ソングで、
哀愁に富んだメロウなサウンドが、アルバムのフックとなっています。

ラッパーのOU2Sがごついフロウを聞かせる‘Punchline’ も
切迫感に溢れ、胸に迫ります。
アフリカン・ヒップ・ホップの裾野の広さを実感させる、
コモロのベスト・ラッパーによる充実作です。

Chucky Mista Res "NDOPVI EKA TSI NDAM’" Watwaniy Production 002699311/18/1 (2018)

Dadiposlim  HOLO.jpg

インド洋のコモロにも、アフロビーツの波は来てるんだなあ。
コモロの若手シンガー・ソングライター、ダディポスリムの新作。
泣きのメロディが満載のクレオール・ポップで、めっちゃ美味なアルバムなんですが、
プロダクションのそこかしこから、アフロビーツが見え隠れしているんですよ。
これって、機材やソフトが同じだからなんですかねえ。

15年にデビュー作を出し、昨年出た本作が2作目。
コモロを代表するラッパー、シェイク・MCが設立したレーベルから出していて、
シェイク・MCも1曲で客演しています。
ヒップ・ホップR&Bのセンスをうかがわせるサウンド・メイキングと、
アンゴラをホウフツとさせる哀愁味たっぷりの楽曲がベスト・マッチングで、
コモロの新世代を感じさせる才能ですね。

ダディポスリムの甘いヴォーカルも、女子アピール度高し。
典型的なスウィート・ヴォイスの持ち主で、声も良ければ、歌い口も絶妙です。
子供の頃に大ファンだったのが、スティーヴィー・ワンダーと
サリム・アリ・アミールだそうで、スティーヴィー・ワンダーは納得感ありまくり。
サリム・アリ・アミールのようなターラブ・センスは、本作にはありませんけれど、
15年のデビュー作では、‘Mwandzani’ で発揮されていました。

Dadiposlim  TWAMAYA.jpg

レパートリーには、ダンスホール・レゲエやラテンなどもあり、サウンドはカラフル。
プロダクションが難だったデビュー作“TWAMAYA” からは見違えて、
アフリカン・メロウネスの極致ともいえるこのサウンド、
リシャール・ボナのファンにぜひ聴かせたいな。

Dadiposlim "HOLO" Watwaniy Production no number (2019)
Dadiposlim "TWAMAYA" Watwaniy Production 0026993-000005/6824.2 (2015)

Salim Ali Amir  TSI WONO ZINDJI.jpg

30年のキャリアをほこるコモロ音楽のフィクサー、
サリム・アリ・アミールの新作が届きました。
https://bunboni.livedoor.blog/2020-02-07
哲学者のような顔立ちと、瞑想するが如く
静かに目を閉じているポートレイトは、風格を感じさせるもので、
深みのある色合いと相まって、いいジャケットだなあと、しばし眺めてしまいました。

本作で12作目となる新作、
コモロ歌謡に溶け込んだ多様な音楽要素が芳醇な香りを放っていて、
コモロ現地産のモダン・ターラブを堪能できる仕上がりとなっています。

オープニングの‘Watsha Waseme’ は、
ハリージのようなつっかかるリズムが印象的なナンバー。
このリズムはコモロの伝統リズムなのだそうで、ハリージと似たニュアンスがあるのは、
ターラブがアラブ湾岸諸国との交流から生まれたスワヒリ文化を象徴しているとも、
いえるのかもしれませんね。

ロック・ギターぽいリフや、
80年代ポップ・ライのようなシンセ・ソロまで聞けるところは、
近年のアラブ/マグレブ歌謡をも呑み込んでいる証しでしょう。
もう1曲ハリージぽいリズムが聞ける‘Ankili’ では
ターラブぽいメロディを、ウードやカーヌーンをフィーチャーして聞かせていますよ。

60年代アラブ歌謡の色濃い‘Na Andziwa’ の艶っぽい味わいもたまりません。
‘Maskini Mbaba’ ではメロディがインドぽく思えたり、
アコーディオンをフィーチャーした‘Msubuti’ は、ムラユみたいなメロディ
とサレギのようなリズムが聞け、遠くアジアから近隣のマダガスカルまで、
多彩な音楽のミクスチャーが楽しめます。
ラストの‘Ushindzi’ は、なんとエレクトロ仕立てで、ちゃんと現代とも呼応しています。

サリムの深みのある声と諭すような歌いぶりに、ほっこりとした温かみがあって、
現地のプロダクションならではのローカルな味わいと、絶妙にマッチしていますね。

Salim Ali Amir "TSI WONO ZINDJI" Ankili 57/12/19/SAA (2019)

Boina Riziki Et Soubi  BWENI MARIE.jpg Boina Riziki & Soubi  Chamsi Na Mwezi.jpg

サリム・アリ・アミールのアルバムにフィーチャーされていたスビは、
ボイナ・リジキとのコンビで知られている人。
このコンビのアルバムでは、ターラブ研究で有名な民族音楽学者の
ウェルナー・グレブナーが制作したドイツのディジム盤がありましたけれど、
スタジオ1からもCDを出していたんですね。

マダガスカルのマルヴァニと同じ起源の箱琴ンゼンゼを弾くスビと、
イエメンのガンブースと起源を同じくする5弦楽器ガブシを弾くボイナ・リジキは、
ともにモヘリ島出身の伝統音楽家。97年にグランド・コモロ島のモロニで偶然に出会い、
モーリシャスやレユニオンのカヤンブと同型のシェイカー、
ムカヤンバを振る奏者を加えて活動を始めます。
その年にレユニオンで開かれた音楽祭で話題となり、
翌98年にスタジオ1でサリム・アリ・アミールのもと制作されたようです。

ディジム盤のライナーをあらためて読み直してみたところ、
このアルバムもスタジオ1でサリム・アリ・アミールがレコーディングしたもので、
著作権はスタジオ1にあり、
ディジムがライセンス契約で出したものだったことがわかりました。
両方のアルバムの曲目を眺めてみると、スタジオ1盤収録12曲中6曲が、
ディジム盤で再演されています。

2作にさほど違いはなく、両方のアルバムとも1曲目となっている‘Hamida’ が、
ディジム盤の方ではテンポが速く、歌のキーも上がっているくらいのものでしょうか。
イエメンではとうの昔に失われた古いガンブースが奏でる
コモロ伝統のンゴマやンゴドロのメロディは、アラボ・アフロな趣がいっぱい。
二人の強烈に泥臭いヴォーカルも味わい深く、ハチロクのグルーヴともども、
インド洋と東アフリカ島嶼部の今昔の音楽がないまぜとなっているのを感じます。

Boina Riziki Et Soubi "BWENI MARIE" Studio 1 BRS98
Boina Riziki & Soubi "CHAMSI NA MWEZI" Dizim 4503 (1999)

Salim Ali Amir  SHIYENGO.jpg

70年代ターラブ懐メロ集を制作した、
サリム・アリ・アミールのソロ・アルバムも入手できました。

62年生まれのサリム・アリ・アミールは、
コーラン学校にいた7歳の頃からカシーダを結婚式で歌い始め、
首都モロニのさまざまなイスラームの祭儀で引っ張りだことなり、
ラジオ・コモロで毎朝サリムの歌声が流れる国民的歌手となった人です。
83年にフランスの音楽賞を受賞してヨーロッパ・ツアーを行い、
コモロ出身の歌手として大成功を収めると、
89年からはモロニのスタジオ1でアレンジャーとして働き始め、
若い音楽家たちをサポートして、プロデューサーとしての活動をするようになります。

70年代ターラブ懐メロ集は、そうして生まれたアルバムだったようですけれど、
02年に出した本作は、数多くのミュージシャンが参加して、
サリムの幅広い音楽性を発揮した汎インド洋ポップスに仕上がっています。

オールド・スクールなアラブ歌謡調のターラブ‘Jellounah’ もあれば、
マダガスカルのサレギのリズムにのせた‘Mdwa Mbe’ では、
箱琴ンゼンゼを弾き歌う伝統音楽家のスビをフィーチャーするなど、
曲ごとに趣向を凝らしたヴァラエティ豊かな内容となっています。

ジョージ・ベンソンやロクア・カンザからの影響を公言するとおり、
ジャジーなセンスやメロウなソングライティングを随所に発揮したポップ・センスは、
ローカル・レヴェルのプロダクションをカヴァーして、あまりありますね。
インド洋由来のハチロクのグルーヴを活かしたリズム・アレンジも多彩で、
男性コーラスと女性コーラスの使い分けなど、細部にわたって
丁寧に作り込まれたプロダクションに職人技が光り、聴きどころがいっぱいです。

すっかり感心して愛聴していたところ、
昨年リリースされたばかりの新作の存在を知り、早速オーダーしました。
届くのが楽しみです。

Salim Ali Amir "SHIYENGO" Studio 1 no number (2002)

WAZAMANI VOL.1.jpg

インド洋に浮かぶコモロ諸島は、ザンジバルと同じく、ターラブが歌い継がれてきた島々。
コモロにも魅惑の南海歌謡が眠っている予感は十分するものの、
ヨーロッパのレーベルが制作するCDは、民俗音楽的なターラブばかりで、
大衆歌謡らしいターラブが聞けず、長年の欲求不満なのでありました。

コモロ現地制作のCDなら、
そうした大衆味のあるスワヒリ歌謡を聞けると思うんですけれど、
コモロ盤CDの入手はアフリカの中でも難関中の難関で、いまだ1枚も捕獲ならず。
ずいぶん昔に見つけたネット情報でウォント・リストは作ってあったものの、
入手するチャンスもなく、諦めきっていたのでした。

もはや存在すら忘れかけていた幻のコモロ盤CDですけれど、
つい最近、数枚のCDを入手することができて、舞い上がっています。
見つけたのは、グランド・コモロ島の首都モロニに住所を置く、
スタジオ1というレーベルのCD。
星降る夜にぽっかりと浮かぶ、コモロの由緒あるグランド・モスクをバックに、
イスラーム正装の男たちが描かれているジャケットが、スワヒリ・ムードいっぱいですね。
本作は6人の歌手によるオムニバス盤で、
70年代のヒット曲を再演したターラブ懐メロ・アルバムのようです。

制作年の記載がありませんが、90年代後半頃でしょうか。
コモロを代表する音楽家で鍵盤奏者のサリム・アリ・アミールと
ギタリストの二人によるプロダクションは、
いかにも低予算な作りとはいえ、サウンドは実によく組み立てられています。
ウードや弦セクション、アコーディオン、ベース、ドラムスもすべて鍵盤代用ながら、
このプロダクションは侮れませんねえ。
カジュアルな姿の庶民的なターラブをたっぷりと味わうことができて、嬉しくなります。

6人の男性歌手はいずれも中高年のヴェテランといった感じで、
70年代にオリジナル曲を歌っていた人もいるんでしょうか。
哀歓のこもったスワヒリ演歌あり、コモロ伝統のンゴマありと、カラーの異なる曲が並び、
ローカル感いっぱいのシンセ・サウンドは、ほっこりとした味わいがあって泣かせます。

インドネシアのカシーダやマレイシアのムラユそっくりの曲もあったりして、
70年代のオリジナル・ヴァージョンも聴いてみたくなりますねえ。
最後の‘Ufitina’ のみ、ホンモノのウードと太鼓をフィーチャーしていて、
より往年のターラブらしいアンサンブルを楽しめます。

Mohamed Mattoir, Ahmed Barwane, Youssouf Mze, S. Mohamed Chakir, Nassor Saleh, Seef Eddine Mchangama
"WAZAMANI VOL.1" Studio 1 no number

Cedric Duchemann.jpg

レユニオンのジャズ・ピアニスト、セドリック・デュシュマンは、
メディ・ジェルヴィルに続くレユニオン期待の若手。
ザヴィヌル・シンジケートのドラマー/パーカッショニストとして知られる
パコ・セリーのグループで活動したのち、マルチニークのベーシスト、
ジャン=クリストフ・ラウファストと組んでゼピシを結成し、
12年にアルバムを出していて、今作がソロ・デビュー作となります。

11曲中7曲でドラムスを叩いているエマニュエル・フェリシテは、
メディ・ジェルヴィルの“TROPICAL RAIN” でも叩いていた人。
https://bunboni.livedoor.blog/2017-04-09
ゲストにマルチニーク出身のベーシスト、ミッシェル・アリボや、
ヴェトナム系フランス人ギタリストのグエン・レが起用されているところも、
メディ・ジェルヴィルの“TROPICAL RAIN” と共通していて、
ここらへんはフランス海外県のコネクションなんだろうな。

セガやマロヤのリズムを借用したトラックはあるものの、
‘Ségalougarou’ と題されたトラックはセガと無関係な演奏となっていて、
マロヤ・ジャズを標榜するメディ・ジェルヴィルのスケール感には及びません。
全体にカリブ/ラテン色の強いワールド・ジャズ・フュージョンといったサウンドで、
ジャズよりもフュージョンのニュアンスがやや強い演奏となっています。

セドリッキ・ボウの良く歌うギターも、フュージョン的な予定調和感が強く、
ジム・セレスタンのサックスも、激しいブロウを繰り広げるかと思えば、
ほかの曲ではグローバー・ワシントンみたいなヤワなソプラノを吹いたりしていて、
いまひとつ個性がはっきりしないところが、ちょっともどかしいなあ。
むしろ、ゲストのグエン・レの冴えたギター・プレイや、‘Somiz' zon'’ で聞かせる
アラン・ホールズワースばりのトーマ・マネロウクのテクニカルなプレイが
強く印象に残りました。この人もレユニオンの人だそうです。

デュシュマンという苗字から察するに、
セドリックはインド系移民の末裔だと思いますけれど、
15歳の時にセガのファミリー・グループで初レコーディングをしたという経歴を聞くと、
ひょっとして家族はモーリシャスから渡ってきたのかな?という気もしてきます。
セガやマロヤというインド洋クレオール・ミュージックに、
フランス海外県をネットワークとしたフレンチ・カリブのクレオール・ミュージックが
さらに交わった新時代のクレオール・ジャズが、
少しずつ花を広げてきたのを実感する1枚です。

Cedric Duchemann "TROPICALISM" Couleurs Music no number (2019)

Trans Kabar  MALIGASÉ.jpg

マロヤ・ロック!
う~ん、ありそうで、なぜかこれまでなかったコンセプトのグループですね。
アシッド・フォークやエレクトロでマロヤをモダン化した、
アラン・ペテルスやジスカカンといった先人はいましたけれど、
ここまでマロヤをストレイトにロック化したグループは、初めてじゃないかなあ。

トランス・カバールは、
ギター、ベース(コントラバス)、ドラムス、カヤンブによる4人組。
マロヤのリズムを強調した音楽性は、パーカッション・ミュージックとしてのマロヤの
アイデンティティを前面に押し出しています。
鍵盤が不在なので、マロヤのメロディに余計なハーモニーが足されることなく、
よりいっそうサウンドがストレイトに響くんですね。

グループのリーダーは、ダニエル・ワローの甥っ子のジャン=ディディエ・オアロー。
ジャン=ディディエが15年にコバルトから出したソロ・アルバムでは、
もっとエレクトロなマロヤをやっていたのに、
ハーモニーを削ぎ落としてエレクトリックな要素をぐっと落とした本作は、
サウンドの方向性を変えてきましたね。

ジャン=ディディエはパリ郊外サルトルーヴィルの生まれですけれど、
マロヤへの傾倒ぶりはダニエル・ワロー譲りのようで、
マロヤの祖先崇拝の祭儀セルヴィ・カバレにインスパイアされたと語っています。
レパートリーもマロヤの儀式で歌われる古い伝承曲を中心に選曲するなど、
ディープ・ルーツへのこだわりがうかがえます。

面白いのは、ジャン=ディディエはロックにはあまり関心がなかったそうで、
逆にレユニオン生まれのギタリストのステファン・オアローは、
ジミ・ヘンドリックスとレッド・ツェッペリンを聴いて
ギターを弾き始めたロック少年だったとのこと。
ステファンとジャン=ディディエは同じ苗字とはいえ血縁関係はなく、
フランスで出会って、マロヤ・ロックを共同で作り上げたんですね。

マロヤを現代化するためにロックを借りたのではなく、
奴隷時代の宗教的な祭儀で歌われたマロヤへとさかのぼるために、
ロックのエネルギーを借りたところが、トランス・カバールのユニークなところ。
グループ名が意図するとおり、
彼らはマロヤを演奏する場のカバールを超えんとしています。

Trans Kabar "MALIGASÉ" Discobole 88875013552 (2018)

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