

鄭宜農(イーノ・チェン)は台湾インディのシンガー・ソングライター。
俳優、作家としても活動をしている人だそうです。
前作『水逆』(22)で初の台湾語アルバムを制作して、
金曲獎の最優秀台湾語アルバム賞と最優秀台湾語女性歌手賞をダブル受賞。
それに続く台湾語アルバム第2作となる新作が届いたので、聴いてみました。
せっかくなので同時入荷した19年の旧作『給天王星』も購入。
まず『給天王星』を聴くと、柔らかなイーノ・チェンの歌声と
たゆたうエレクトロが心地良い1曲目の「2017,你。」から、
映像的な広がりを持つサウンドスケープに引きこまれます。
一転、タイトなリズム・セクションがリードするグルーヴィな「街仔路雨落袂停」では、
ホップするシンセ音が幾層にもレイヤーされたプロダクションが心地いいったらありません。
アクースティック・ギター一本で始まる『賊』も、
途中からシンセが優しく楽曲を包み込むように加わっていくアレンジとなっていて、
シンセサイザーの使い方がすごくセンスがいい。
クレジットをチェックすると、シンセサイザー奏者の名は何俊葦(チュンホ)。
南瓜妮歌迷俱樂部 PUMPKINney Fan Club という
4ピース・バンドのメンバーだそうで、多くの曲でプロデュースやアレンジに関わっていて、
才能を感じさせます。
そして最新作の『圓缺』は、つぶやきヴォーカルの『給天王星』から一転、
ヴォーカルががらりと逞しくなって、印象激変。
5年の間に音楽性もだいぶ変化をしていたようで、
ハードエッジなエレクトロ全開のサウンドに変貌しています。
こりゃまた『給天王星』とは別世界ですねえ。
めちゃめちゃ攻めたサウンドに仕上げた『圓缺』を、
イーノ・チェンと共同プロデュースしたのは、なんとチュンホ。
いやぁ、『給天王星』でデリカシーに富んだアレンジをしていたのと同じ人だとは。
テクノぽいビートばかりでなく、かなり実験的な音使いも随所でみられます。
両極を示すこの2作は、リスナーが分かれそうですねえ。
ところで本作のパッケージは、かなり凝った特殊仕様となっています。
ブックケースのような形状ながら、真ん中で切断されていて、
中に銀紙が巻かれたスリップ・ケースの中に、
スポンジ台座の上に載せられたCDトレイとブックレットを収めていて、
ダブル・スリップのような作りになっています。
前作の成功で豪華パッケージの制作費が出たのかしらん。
鄭宜農 「給天王星」 火氣音樂 FIREON0022/RW0039 (2019)
鄭宜農 「圓缺」 邊走邊聽 WMCL001 (2024)