after you

bunboni こと 荻原和也 の 音楽案内所 musicaholic ブログ(隔日刊 2009年6月2日より)にようこそ。

Searching for good music of the world

カテゴリ: 東ヨーロッパ

Merita Bunjaku
また一人、新たなコソヴォのタラヴァ・シンガーを知りました。
メリタ・ブンジャクという女性シンガーの18年作。
以前紹介したテウタ・セリミの09年作同様『ライヴ』を謳っていますが、
こちらもライヴではなくスタジオ録音です。

プリシュティナ生まれのメリタ・ブンジャクは、91年にデビュー作を出して以降、
現在に至るまで活発にアルバム・リリースしていて、現地での人気のほどがわかります。
ナジフェ・ブンジャクという女性シンガーとの共同名義作もあり、
姉妹シンガーなのかもしれません。

クラリネットとサックスがいかにもバルカンなメロディをひらひらと奏で、
コブシたっぷりのオリエントな歌声を楽しめる、申し分のない一枚です。
コソヴォのタラヴァは、ポップ・フォークの一変種というか、
コソヴォ版ポップ・フォークのように受け止めていたんですが、
ポップ・フォークのようにヴァースとコーラスで構成されたコンポジションではなく、
明確な構成を持たず、より即興度が高く、長尺となる違いがあるといいます。

それだけタラヴァの方が、大衆芸能としての性格が強いんでしょうね。
コソヴォでは結婚式やパーティーを盛り上げるのになくてはならない音楽ですからね。
かつてはコソボ/アルバニア人化したロマたちが使うアシュカリ語で歌われていたことから、
下層民の音楽というイメージが拭えず、侮蔑のまなざしを向けられていたといいます。
その卑俗さこそが、タラヴァの魅力で、ダンドゥットと同じ匂いがするのも当然ですね。

クレジットがあるのはサックス兼クラリネット奏者の名前だけで、
ケナン・ジャスハリとファトン・マカステナという二人が記されています。
ズルナのソロも出てくるので、ズルナもこの二人が吹いているのでしょう。
打ち込みにダラブッカやダウル(大太鼓)、ダイレ(タンバリン)を絡ませてビートを強調し、
ハリのある声で歌うメリタの歌声には華があります。

Merita Bunjaku  "LIVE"  Arboni/Ardi  no number  (2018)

Minimal Klezmer
こんなグループがいたのか!
11年にロンドンで結成されたという
クレズマー・グループの12年デビュー作を聴いてびっくり。
フリー・ジャズの作法を熟知しているメンバーの演奏力に引きこまれました。

こりゃあスゲエと、このグループのことを調べてみると、
14年に2作目、23年に3作目を出していることがわかり、さっそくオーダー。
ミニマル・クレズマーという楽団名は、
クラリネット、アコーディオン、メロディカ、チェロという最小編成だからかでしょうか。
2・3作目とメンバーの変動があり、デビュー作から変わらないメンバーは、
クラリネットとサックスのフランチェスコ・ソカルのみ。この人が中心人物か。
Minimal Klezmer  OY OIOI Minimal Klezmer  ÖT MÍNUSZ KETTŐ
2作目はクラリネット、メロディカ(デビュー作とは別人)、チェロのトリオ編成となって、
ヴァイオリン、コントラバス、ドラムスがゲスト参加。
10年近い活動空白期間を経て出した3作目は、フランチェスコ・ソカルに
2作目から加入したピアノ兼メロディカのロベルト・デュランテに、
2作目にゲストで参加したヴァイオリンと新たに加入したチェロ奏者の4人となりました。

デビュー作と2作目でチェロを担当していたマルティン・テショムは、
3作目の1曲目の冒頭、ナレーションのみでゲスト参加。
「みなさん、ようこそ。ミニマル・クレズマーのやつらが、
あいかわらずクソみたいな作品を作ったからお楽しみください」
と流暢な日本語をしゃべるのだから、ビックリ。

エチオピア人のような苗字に、いったいどういう人?と思ったら、
チェコ生まれ、エチオピア、ドイツ育ちとのこと。
バロック音楽の室内楽を長く学んだ後に、ジャズの即興を学び、
クレズマーも知ったという人で、チェコ語、英語、ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語、
フランス語、スペイン語、日本語を操るマルチリンガルだというんだから、すげー。

デビュー作と2作目はクレズマーの古い伝承曲をレパートリーにしていましたが、
3作目はメンバーのオリジナルが中心となっています。
とにかくメンバー全員の演奏力が、めちゃくちゃ高いんですよ。
クラシックの素養十分なうえにフリー・インプロも自在で、
クレズマーのユーモアと哀歓をたたえた曲のアレンジはヒネリが利きまくりという。
ジョン・ゾーン界隈でもこれほどの作品、なかなかありませんよ。

Minimal Klezmer "MINIMAL KLEZMER" Minimal Klezmer  MK001  (2012)
Minimal Klezmer  "OY OIOI"  Minimal Klezmer  MK002  (2014)
Minimal Klezmer  "ÖT MÍNUSZ KETTŐ"  Caligola  2334  (2023)

Gjyste Vulaj  SHAH MAT
春にアルバニアのポップ・フォークのシンガー、エルヴィラ・フィエルサの19年作を
取り上げましたけれど、また別のアルバニアの女性シンガーの旧作が手に入りました。
ギシュテ・ヴライと読むのか(?)、今年も新作が出ていて、
絶賛活躍中のシンガーのようですが、入手したのはだいぶ昔の08年作。

打ち込みベースのポップ・フォークなんですが、
伝統楽器をふんだんに取り入れた、
バルカン民俗色たっぷりのサウンドが楽しめます。
バルカンばかりでなくアラブやトルコからの影響をうかがえるサウンドは、
アルバニアの複雑な歴史と地勢を反映しているのでしょう。

2曲目 'Atdheu im Shqipëria' のイントロから飛び出すバグパイプに
ノケぞりました。この曲に全編でフィーチャーされていて聴きものです。
アルバニアには各地にバグパイプがあり、さまざまな名称があるため、
ここで演奏されているバグパイプの名前はわかりませんけれど、
おそらく北部アルバニアで使われるバグパイプなのではないでしょうか。

というのも、ほかに弦楽器チフテリや羊飼いの縦笛フィエルなど
北部アルバニアの伝統楽器が使われているからです。
ギシュテ・ヴライは、77年に北部アルバニアと国境を接する
モンテネグロの首都ポドゴリツァのアルバニア人が多く暮らす集落に生まれ、
アルバニアに移り住んで歌手活動をしています。

露出度の高いファッションと挑発するようなパフォーマンスで人気とはいえ、
単なるセクシー歌手とは言わせない、確かな歌唱力の持ち主。
キレのいい歌いっぷりは、気風の良さが伝わります。
こぶしはそれほど多用しませんが、しゃくりあげたり、妖艶な歌いぶりを聞かせたり、
多彩な表情を見せてくれます。

エレクトロニックなサウンドも大胆に取り入れつつ(レゲトンもあり)、
生楽器とのバランスもバツグンで、
08年作でこのプロダクションはかなりのハイ・クオリティ。
近作はフィジカルを作っていないのか、CDが出ている気配がないのは残念です。

日本でこうした歌謡性の強い東欧のポップ・フォークを聴く人は皆無。
ミュージック・マガジン増刊の『ミュージックガイドブック 2010-2024 VOL.2』でも
現地仕様のポップ・フォークは完全無視されてます。
意識高い系の音楽とは相容れない場所で大衆歌謡が生息していることを
書き記しておくのが、世間と趣味の相容れない当方のお役目なんでしょう。

Gjyste Vulaj  "SHAH MAT"  Ekskluzive Supersonic  no number  (2008)

Viki Karatzoglou  TRIA LEPTA KAI KATI
聴き逃し案件。
デビュー作もリリース3年後に聴いたんだけど、
6年ぶりとなるセカンド作も3年遅れで気付きましたよ。
いや、このジャケットはちらと目にはしていたんだけど、
まさかあのヴィキ・カラツォグルの新作だとは思わなかったんだよね(言い訳)。

ヴィキ・カラツォグルは、これまでのギリシャ歌謡にいなかったタイプの歌い手さん。
澄んだ情感を抑えた表現で聴かせる上品さに得難い個性があって、
胸の奥底にじわっとした哀歓を残すんですよね。
新人らしからぬ落ち着きのある人でした。

デビュー作は弦楽アンサンブルを中心とした音数少なめのプロダクションでしたけれど、
セカンド作はエレクリック・ギターやシンセほか楽器数を増やしてサウンドを押し広げ、
リズムも強調するなど、ダイナミクスをつけたプロダクションに変わりました。
ヴィキの歌声もドラマティックな表現を見せて、舞台出身の資質をうかがわせます。

でも、やっぱりいいのは、抑えた歌唱を聴かせる曲。
アコーディオンとウードが効果的な4曲目のディミトラ・ガラーニ作
'Esena Axizei Na To Po' の哀しみの深さに胸打たれました。
デビュー作の繊細さを保持しながら、情が濃くなって、
ギリシャらしいコクが増したセカンド作です。

Viki Karatzoglou  "TRIA LEPTA KAI KATI"  Panik Oxygen  520039002660  (2022)

Gergos Dalaras  KATI ELLADES
ダラーラスのアルバムを聴くのは4年ぶり。
昨年のセルフ・カヴァー集は、レゲトンにトラップ、ハウスまでやってるというのに
オソレをなして見送りましたが、新作は王道のギリシャ歌謡路線で
1曲を除き新曲となれば、こりゃあ聞かないわけにはいかないでしょう。

作詞ニコス・モライティス、作曲ニコス・メルツァノスのコンビによる曲集で、
タイトル曲の ‘Kati Ellades’ は、4年前の "I KASETA TOU MELODIA 99.2" で
歌われていた曲。この曲以外はすべてこのアルバムのための書き下ろし曲とのこと。

淡々と歌い始める1曲目から、ぐいっと胸をつかまれます。
この寂寥感が、もうダラーラス・ワールドですよねえ。
まったく衰えを知らないというか、曲の盛り上がりに合わせて
中高域に伸びあがる歌いっぷり。70代半ばでこの発声、スゴくないですか。
このハンパない歌ぢから。ギリシャ歌謡の至宝としかいいようがないですね。

今回のゲストはヤニス・コツィラス、フリストス・マツォラス、エレオノーラ・ズガネリ
エレーニ・ヴィターリの4人。歌詞ブックレットにスタジオで撮った
4人それぞれとの写真が載っているんですけれど、ダラーラスがめちゃカッコいいんですよ。
カジュアルなスタイルがスマートで、
オシャレしてます感のないコーデ、見習いたいものです。こういう70代になりたいなあ。

ギターやブズーキなどの弦楽を中心とする生音アンサンブルの伴奏も過不足なく、
どの曲もよく練られたアレンジが施されていて、申し分ありません。
全10曲わずか33分のアルバムとはいえ、充足感たっぷり。
物足りなさを感じさせません。

Gergos Dalaras  "KATI ELLADES"  Panik  5200390303100  (2025)

Elvira Fjerza  DASHURIA DO GUXIM
やっぱり自分は、こういう卑俗なポップスが好きなんだな。
前にカタルーニャの新しいアーティストをいろいろ聴いてみても、
まるで性に合わなかったのが、あらためて当然だと思い知らされましたね。

それを気づかせてくれたのが
アルバニアのポップ・フォークのシンガー、エルヴィラ・フィエルサの19年作。
いわゆる絵にかいた一般大衆向けダンス・ポップスで、
インドネシアのダンドゥットに通じる卑俗さに、ゾクゾクします。
この顔加工したジャケットからして、
芸術の薫り高い音楽がお好きな人には、お目汚しでしょう。

アルバニアのポップ・フォークというと、ポニーしか聴いたことがなかったんですが、
エルヴィラはウチコミのプロダクションに乗る楽器がポニーとは違っていて、
弦楽器のチフテリと笛のカヴァルが全面に押し出されています。
ポニーは南部の港湾都市ヴロラ出身でしたけれど、
エルヴィラはおそらく北部出身者なんじゃないのかな。

チフテリやカヴァルはアルバニア北部で使用される楽器で、
ティン・ホイッスルみたいな音色の笛は、
北部山岳地帯の羊飼いの笛フィェルだと思われます。

明るくハキハキとしたエルヴィラの歌声が、ダンス・チューンによく映えますね。
エルヴィラのライヴ映像でカジュアルな会場でやっているのを観たんですが、
大勢の男女が手を繋いで大きな円陣を組んでいる中央で、
エルヴィラが歌っているのがあり、輪になって踊っていました。
これがアルバニアのフォーク・ダンスのスタイルなんでしょうね。

理屈抜きに楽しめる、こういう庶民的な「ザ・大衆音楽」が好きなんですよ。

Elvira Fjerza  "DASHURIA DO GUXIM"  Eurolindi  no number  (2019)

Giota Lydia  EPISTROFI STIS RIZES   Giota Lydia  BORI
寒い冬にはファドも合うけど、ライカも沁みるよねえ。
ということで、ギリシャの棚からごそごそCDを引っ張り出していたら、
ヨータ・リディアがまとまって出てきました。
そういえばずいぶん長い間聴いてなかったなあ。

ヨータ・リディアを初めて聴いたのは、
マリネッラやハリス・アレクシウのオリジナル・アルバムが
CD化され始めた93~94年頃。
ミノスからCD化された76年作と77年作を買ったんだっけ。

ヨータは34年生まれなので、マリネッラより4つ年上。
『リターン・トゥ・ザ・ルーツ』と題した76年作は、
ヴァイオリン、バグラマー、サントゥーリなど弦楽器アンサンブルによる
アクースティックな伴奏が極上でした。ジャケットにはクレタ島のリュート、
クレタンラウトという珍しい楽器が写っていたのも印象的でした。

77年作の方は、ベース、ドラムス、オルガン、キーボードも加わる
70年代らしいモダンなライカ・サウンドですね。
どちらのアルバムでも、柔らかなこぶしを利かせたヨータの歌いぶりが魅惑的で、
サウンドの趣向は異なるものの、ライカ直球といった内容の作品でした。

Giota Lydia  ALA TOURKA HOREPSE MOU   Giota Lydia  SIMERON
Giota Lydia  TA PROTA MOU TRAGOUDIA   Giota Lydia  MAZI TNS O MANOLIS ANGELOPOULOS
しかしその後、LP時代以前のヨータの録音を集めた編集盤を聞くと、
レパートリーはライカばかりでなく、ダンス曲のチフテテリやゼイベキコに、
民謡のディモーティカやニシオーティカなど、ギリシャ歌謡を幅広く歌っていて、
そうしたレパートリーがめちゃくちゃ魅力的なんですよ。
ヨータ・リディアを狭くライカ歌手と捉えるのは、間違いだということに気付きました。

50年代から60年代のシングルを編集したコンピレーションでは、
そうしたレパートリーがたっぷり楽しめ、哀愁のライカばかりでない、
明るい表情のダンス・チューンに新鮮な魅力をおぼえました。
FM盤ではマノリス・アンゲロプロスとのデュエットで歌う
「ムスタファ」なんて珍品も収録されていますよ。
そのマノリス・アンゲロプロスの曲を集めたAlfa-Mi 盤は
ライカが中心ですけれど、チフテテリなどダンス・チューンも一部聞けます。

ヨルゴス・ダラーラスが憧れ、
「ギリシャ最高の女性歌手」とまで呼ばれたヨータ・リディア。
すでに90歳を越すご年齢ですが、いまもご健在のはず。
ずいぶんひさしぶりに聴き直しましたが、
やはりギリシャ歌謡史に残る名歌手ですね。

Giota Lydia  "EPISTROFI STIS RIZES"  Minos  7243-4-80954-28  (1976)
Giota Lydia  "BORI"  Minos  7243-4-80067-21  (1977)
Giota Lydia  "ALA TOURKA HOREPSE MOU"  Minos  7243-4-80880-28
Giota Lydia  "SIMERON"  Minos  7243-4-80880-24
Giota Lydia  "TA PROTA MOU TRAGOUDIA"  FM  FM1896
Giota Lydia  "MAZI TNS O MANOLIS ANGELOPOULOS"  Alfa-Mi  ALFA-MI545-3  (1959)

Rena Stamou  APOPSE M’EGKA TELIPSES
木枯らしが吹く季節になってくると、聴きたくなるのがレンベーティカ。
大ヴェテランらしき女性歌手の05年のアルバムを発見しました。
聞いたことのないレーベルですが、ユニヴァーサルがディストリビュートしているからか、
ジャケット・デザインもしっかりしていて、名盤の趣を予感させますね。
それで手が伸びたんですけれども。

表紙にはこの歌手の若い時の写真が大きくレイアウトされていますが、
バック・インレイにかなりお年を召した写真が載っていて、
こちらが今のお姿なのでしょう。
ギリシャ歌謡なら日本で一番在庫豊富なエル・スール・レコーズのサイトを
検索しても出てこないので、日本未入荷のCDなのか。

調べてみたところ、レナ・スタム(1923 - 2022)はクレタ島生まれ。
小アジア難民の両親のもとに生まれ、
12歳まで孤児院で暮らすつらい少女時代を過ごしたようです。
40年代から歌い始め、レンベーティカの大物プロデューサー、
ステリオス・クリシニス(1916-70)のオーディションで認められ、
作曲家のヨルゴス・ミツァキスの曲を歌ってデビューしています。

戦後になると、ヴァシリス・ツィツァーニスのもとで歌い始め、
ステリオス・カザンジディスが憧れたレンベーティカの大物
プロドロモス・ツァウサキス(1919-79)のパートナーとして活躍。
54年にはワールド・ツアーに出て、コンスタンチノープルからニュー・ヨークまで、
ディアスポラのコミュニティを回って歌ったそうです。
80~90年代になってもアテネのナイト・クラブで歌い続け、
ラジオやテレビにも頻繁に出演していたというのだから、
たいへんなキャリアの持ち主ですね。

本作は82歳の時の作品で、最初聴いたときは、カスレ声で音程も怪しく、
ヘタなのかといぶかったものの、80過ぎではそりゃあ声も枯れるわなあ。
スミルネイカのレンベーティカやロマ由来のダンス・リズムのチフテテリなど、
レナが古くから歌ってきたレパートリーと新曲4曲を織り交ぜた全15曲を、
ブズーキ兼バグラマー兼ギター、ヴァイオリン、アコーディオン、パーカッション、
セカンド・ヴォーカルの5人による、これ以上ないバックアップで堪能できます。

Rena Stamou  "APOPSE M’EGKA TELIPSES"  Diktio  DIKTIO0225  (2005)

Agnes Zsigmondi  WATER WOMAN.jpg

面白い自主制作CDを見つけました。
ハンガリーのフォーク・シンガーの92年作で、
マウス・ハープやリコーダーのソロ演奏もあれば、
ギター、ベース、ドラムスが加わってジャズ寄りの演奏を聞かせる曲もあります。
ファーク・ジャズといった穏やかな演奏から、かなりアグレッシヴな演奏もあって、
さまざまなんですけれど、主人公の変わらない自然体ぶりが爽やかです。

その柔軟な対応力に、さまざまな音楽家との交流を経てきた
ヴェテランなのだろうなと思いましたが、
アグネス・ジグモンディはハンガリーの先進的なフォーク・アンサンブル、
コリンダで74年から78年までリード・シンガーを務めていた人なんですと。
コリンダ以前にもフォーク・ダンス・アンサンブルやロマ・バンドで歌っていて、
やはりキャリアのある人だったんですね。

なるほどねとナットクしたんですが、CDを見ていて気になったのが名前。
表にはアグネス・ジグモンディとだけ書かれていますが、
裏には、アグネス・ジグモンディ・マクレイヴンとあります。
「え? マクレイヴン?」
まさかと思ったら、いまや時の人マカヤ・マクレイヴンのお母さん。

えぇ~、まじっすか!?
アグネスはコリンダをやめたあとソロ活動に転じ、
ブダペストからパリへ活動拠点を移した時に、
アメリカ人ジャズ・ドラマーのスティーヴン・マクレイヴンと出会って結婚。
パリでマカヤ・マクレイヴンを生んで、85年に家族で渡米したのだそうです。

スティーヴン・マクレイヴンはマックス・ローチに師事し、
アーチー・シェップとともに活動したヴェテラン・ドラマー。
この自主制作CDには、スティーヴンがドラムス、パーカッションで参加しているほか、
トニー・ペローンのギター、ジョー・フォンダのベースという実力派が脇を固めています。

レパートリーはハンガリーやブルガリアの民謡やジプシーの伝承曲を中心に、
アグネスの自作曲も2曲あります。
アルバム最後は、コリンダのかつてのメンバーのペテル・ダバシが作曲し、
アグネスが作詞した ‘Lullaby’。
この曲はのちにマカヤ・マクレイヴンが一昨年出した
“IN THESE TIMES” でカヴァーしています。

アグネスは90年からは音楽教師となり、表立った活動からは離れたそうです。
そして2017年に教職を退職すると絵画を勉強し、
昨年初の個展を開くなど、音楽から絵画へと関心は移れど、
旺盛な創作意欲をみせているようです。

Agnes Zsigmondi "WATER WOMAN" no label no number (1992)

Sotiria Bellou  LAIKA PROASTIA.jpg

世界一ぶっきらぼーな歌を歌う人。
ソティリア・ベールを初めて聴いた時は、
音楽の審美的価値観をひっくり返される思いがしました。
情感もへったくれもないその歌いぶりに、
世の中にはこういう歌の美学もあるのかと、衝撃でしたよ。

ソティリア・ベールは、40年に無一文でアテネに出てきて、
さまざまな仕事をしながら糊口をしのぐ一方、レジスタンス活動にも身を投じ、
44年12月のアテネの戦いに参加して負傷したという烈士。
47年に酒場で歌っているところをヴァシリス・ツィツァーニスに見い出されて、
戦後レンベーティカを代表する歌手となった人です。

生まれはエーゲ海西部、エヴィア島の都市ハルキダですが、
アテネに出てきた理由が凄まじい。
十代で望まぬ結婚を親に強いられ、
夫から頻繁に殴られる日々が続いたというのです。
ある日身を守るために、夫の顔面にワイン瓶を投げつけて逮捕され、
3年の実刑判決を受けて6か月服役したのだそうです。
服役後に実家から縁を切られて故郷を出たというのだから、壮絶です。
レジスタンス活動中にも逮捕され、
悪名高いマーリン通り拘置所に投獄されて拷問を受けたといいます。

こうしたエピソードの数々は、
ソティリア・ベールの強烈な歌いぶりへの納得感を補完するものでしょう。
50年代半ばにレンベーティカがその歴史を終えるのと同時に、
ソティリアも活動を止めてしまうのですが、
60年代に入って活動再開した時に、声がすっかり変わって男のような低い声となり、
ただでさえディープな歌うたいだったのが、さらに凄みを増していました。

そんなソティリアの凄みを実感できるのが、80年の本作。
当時若手気鋭の作曲家イリアス・アンドリオプロスと、
このアルバムで作詞家としてのスタートを切ったミハリス・ブルブリスの
コンビで制作された作品です。

ジャケットの黄昏れた絵がなんとも雰囲気があって、大好きな作品なんですが、
このアルバムがCDブックのデラックス・エディションでリリースされていたことを知り、
買い直したのでした。09年に出た限定版ですけれど、まだ今でも売っていますね。
80年の作品なので、ライカの意匠であるものの、
レンベーテイカのムードを濃厚に残した歌を聞かせる名作です。
美しく清楚な女性コーラスがフィーチャーされる曲では、
ソティリアのヴォーカルとのあまりの落差に、笑っちゃうくらいですよ。

ソティリア・ベールは晩年アル中になったうえ博打に溺れて経済的に困窮し、
97年に亡くなった時に無一文だったのも、博打が原因だったといいます。
ソティリアの人生は、まさしく波乱万丈。
48年には極右の狂信者集団がライヴ会場に乱入して、
ソティリアを共産主義者と罵りながら殴打する事件も起きています。
晩年にレズビアンを公言したのも、当時のギリシャ社会では考えらないことでした。
破天荒な人生を送った人ならではの、ぶっきらぼー節です。

[CD Book] Sotiria Bellou "LAIKA PROASTIA" Lyra 3401176915 (1980)

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