
ヌスラット・ファテ・アリー・ハーン、90年の未発表録音!
ヌスラットが世界のリスナー相手に国際的に活動し、
パキスタン国内ではあり得ない、さまざまな音楽的なチャレンジングをして、
もっともクリエイティヴだった時代のものじゃないですか。
この時代でお蔵入りにしていた音源があっただなんて、
リアル・ワールドにはキュレーションする能力が皆無なのか。
リアル・ワールドのボンクラぶりは、これまでにもキューダンしてきたけれど、
https://bunboni.livedoor.blog/2015-12-18
今回のリリースは快挙というより、正直胕煮えくり返ったなあ。
90年のリアル・ワールドでのヌスラットといえば、
あの醜悪なカッワーリー・ワールド・フュージョン作
“MUSTT MUSTT” を出した年じゃないですか。
悪名高いマイケル・ブルックのクロスオーヴァー・セッションでヒットを生んだ陰で、
こんな素晴らしいスタジオ録音を残すも、そのまま捨て置いただなんて、
もう、リアル・ワールドを最高に汚い言葉で罵ってやらにゃあ、気が済みません。
このアルバムを聴いてすぐに連想したのが、
91年の最高傑作 “SHAHBAAZ” です。
この作品も早々に廃盤にしたファッキン・リアル・ワールドですけれど、
本作でヌスラットは、カッワーリーをパキスタンのスーフィーの祈祷音楽という
特殊なポジションから、黒人教会音楽ゴスペルと同等の、
ポピュラーな地位にまで引き上げる音楽性を獲得したとぼくは考えています。
オープニングからアクセルいっぱいに踏み込んで、
西洋人の耳を鷲掴みにしてしまうアレンジの妙。
パキスタン現地で奏されるゆったりとした前奏は省いてしまい、
いきなり本論から始めるように、キャッチーなテーマをアタマに持ってくる構成は、
ヌスラットが西洋人の聴衆を前にクリエイトしてきた成果でしょう。
ヌスラットが歌うサレガマの奔放なヴォーカリゼーションの即興も、
宗教的陶酔を巻き起こす宗教音楽としての本来の機能から離れ、
ジャズのインプロヴィゼーションと同等の芸術性を帯びるまでに磨き上げられています。
ヌスラットを “MUSTT MUSTT” でしか聞いたことのない人には、
本作や “SHAHBAAZ” を聞けば、ゴリゴリの伝統的なカッワーリーと思うでしょうが、
ここには伝統カッワーリーにはないヴォーカル・ハーモニーや、
手拍子とタブラの変化に富んだリズム、そしてヌスラットのリードと
セカンドのヴォーカルによるサレガマの即興の掛け合いなど、
熱狂へ導くためのさまざまなアイディアと工夫がふんだんに施されているのです。
フォーマットこそ伝統音楽のままながら、
ここで聞ける音楽はヌスラットがクリエイトした芸術音楽といって過言じゃありません。
その昔、若林忠弘という偏狭な民族音楽演奏家が、
「現地の良識者や本物カッワールを知る人は酷評します」と
一所懸命ヌスラットをコキおろしていましたが、
そんな原理主義者の歪んだ嫉妬を招き寄せる天賦の才が、ここにあるのです。
Nusrat Fateh Ali Khan & Party "CHAIN OF LIGHT" Real World CDRW256